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第13話 体育祭マジック①

「やった、丈士センパイと同じチームや!」


 先輩とはっきり喧嘩してたわけじゃないけど仲直り早々の月曜、ロングホームルーム。

 オレの喜びの叫びが、開け放した窓の外まで響く。六月になってもまだ冷房入れてもらえねえんだ。今朝当選した新生徒会長、その辺の校則変えてくれ……なくていい。


「蒼空、何出るんー?」


 って、丈士先輩の声が降ってきたから。先輩、席替えで窓際ゲットしたっぽい。

 何の話してるかっていうと――体育祭だ。


 青・緑・白の三色対抗で、男女比半々の一組情報科は、三学年縦割りで同じ青チームって聞いたところ。

 二組商業科はほぼ女子、三組電子工業科はほぼ男子だから、出席番号前半・後半で緑チーム・白チームに分かれるそうだ。本番までの二週間、クラスの雰囲気やばそう。


 とにかくオレは、先輩と学年が違ううらやましさを感じなくて済む。体育祭の丈士先輩とかかっけえに決まってるし、それを応援できるんだ。


「一緒に出られるやつ出ます!」

「日高、ええ加減にしまい」


 担任に注意されようとも、にまにまが止まらない。

 体育委員が黒板に種目を箇条書きする。○×クイズ(全員)、綱引き、うどん玉入れ(女子)、借り物競走、騎馬戦(男子)、色対抗リレー。一人二種目以上か。

 丈士先輩はぜったいリレー出るよな。


「蒼空って足速い?」


 体育委員がオレをリレーに推薦してくれようとしたけど、私情で請け負うには責任重大過ぎる。サッカー部員に託した。


 うーん。どんな授業よりマジメに考える。借り物競走は実質個人戦。綱引きと騎馬戦だったら、騎馬戦か? でも怪我が心配だったりするかな。

 先輩と一緒に楽しめそうなほう――決めた。


「オレ、騎馬戦いく!」




 種目が決まれば、次は練習。

 二週間限定で時間割の順番が変わって、全学年の一組が合同で体育の授業を受ける。


「え、丈士センパイリレー出ないんスか!?」


 オレはTシャツの裾でばふばふ扇ぎながら訊いた。四時間目のグラウンド、梅雨の気配で曇りだけど、蒸し暑い。


「二年目はバスケ部のヤツ、って去年決めたんだとさ」


 先輩はオレのTシャツをジャージの中に無理やり仕舞いつつ言う。なんで。自分だって裾外に出してるのに。


「去年は大西。で、俺は来年」


 なるほど、リレーはモテ効果絶大だから、足速いメンツで平等に担当年を分け合ったのか。クラス持ち上がりならではのワザだ。


「んじゃ、来年楽しみにしとります」

「ん」


 来年のリレーは青チーム勝利が決まったようなもんだな。


「騎馬戦出る男子、トラックの中に集まりまいー」

「あ、呼ばれた。行きましょ」


 大忙しな先生の指示に従い、歩き出す。先輩も一緒。オレは三択問題に見事正解したんだ。足取りも軽くなる。


 ん? 女子がそわそわとこっち見てくる。騎馬戦に出るメンバーも、「選ばれし男子」ってモテバフもらえるっぽい。各学年八人ずつの参加者が、武将の十河そごう氏ばりに凛々しく見えてきた。


「まず、騎馬つくる四人組決めよか」


 三年生の一声に、オレはすかさず丈士先輩を見た。ぜったい組みたい。先輩もオレを見てくれた。よし。


「あの、一年は一年で組んだほうがええですかね?」


 でも手を伸ばす前に、英翔が質問する。よけいなことを……いや、勝利のためには重要だよな。一歳違うとけっこう体格差がある。上級生同士で組めば強い騎馬ができそうだ。


「どうじゃろう、実は騎馬戦って三年ぶりで、僕らも手探りなんや」


 三年生が八の字眉で答える。各色の顔ぶれが同じでも結果が固定されないよう、年度によって種目をランダムに入れ替えてるらしい。


「それ言うたら、上に乗る騎手は強いやつと軽いやつ、どっちがええんじゃ?」

「なんぼ強うても大西を担ぐのは無理じゃろ。林ならいけるか?」


 議論が活発になって、丈士先輩の名前も出る。オレの旋毛に顎乗せて静観してた先輩が、小声で「え」って言った。騎手はやりたくないのかな。


「日高、騎手やります!」


 騎手は軽いやつって流れに持っていくべく、手を挙げる。ほら、オレも来年以降は背が伸びる予定で、騎手できる機会は今年限りかもしんないし。


「じゃあ頼むわい、日高くん」

「俺は蒼空の馬やるんで」


 三年生が微笑みかけてくるのに被せて、丈士先輩が宣言する。声はでかくないのに説得力ある感じで、同じ騎馬に決まった。よしよし。






 それから、体育の度に特訓した。


「これが身長二百三十センチの視界かあ。何でもできる気がすんな」


 小中九年通じて、ここまで体育祭準備に燃えたことない。本番も流れ作業みたいな徒競走で三位だったり、大玉転がしでちょんと触るだけだったり。まあまあ楽しめたけどな。


「蒼空、足痛くねえ?」

「なんちゃっス!」


 移動練習の合間に、丈士先輩がオレの裸足の甲をさする。先輩は馬役の前担当で、方向転換とか加速のとき手に力が入っちまうって気にしてる。


「むしろ野球部エースの手にあんま体重掛けんようにしますんで」


 先輩の顔を覗き込む。このアングル、新鮮だ。旋毛がかわいい。


「もっと後ろ頼ってくれてかまんよ。日高くん、おしりちいさいし」

「足もちいさいよな。二十五センチある?」

「に、二十六……二十七センチやっ。わ、ちょ、センパイ速い速い!」


 後ろ担当の三年生二人に「ちっちゃない」って主張してたら(足もいずれ二十七センチになる予定だ)、丈士先輩が大股で発進した。


 後ろの二人と間隔が広がる。オレはほとんど先輩の肩にしがみつく恰好になる。


「うぐあ」


 騎馬はあえなく崩れた。土まみれになる。それでも丈士先輩は「俺は悪くない」って真顔。


 つか。先輩、三年生が奢ってくれたパックジュースも、「一口くれ」って飲み干しちゃうし。


『あー! オレの牛乳たっぷりカフェオレ!』

『同じの奢ってやる。てか牛乳オンリーのがいいじゃん』


 二年生がふざけておんぶしてくれたのも、Tシャツの後ろ襟引っ張って下ろすし。


『コイツうちの騎手』


 何かと和を乱しがちだ。チームスポーツの野球やってるのにな。


「丈士センパイ。もうちょっと協調性ないとあかんよ」


 先輩に笑っててほしい会会長(非公式)のオレも、さすがに苦言を呈する。先輩はますます口角を下げた。


「……蒼空が悪い」

「なんで!?」


 理不尽に濡れ衣を着せられる。かと思うと、


「蒼空、手」

「手? ああ、こなん舐めといたら治るっス……ってば」

「マキロンと絆創膏取ってくる」


 走っていっちまう。言われないとわかんないくらいの小さな擦り傷ですが。


 足が速いから止めようがない。入れ違いに英翔が寄ってきて、訳知り顔で囁く。


「林先輩、セコムみたいやな」

「? そりゃ、馬は騎手守らんとじゃろ」

「そうじゃのうて……うん」


 なぜか肩ポンもされた。何なんだ。謎にびびり顔で去ってくし。


 丈士先輩はすぐ戻ってきて、オレの手のひらに絆創膏を貼ってくれる。おずおず「僕らにも……」って言う三年生にも、ちゃんと手渡す。よくできました。


「蒼空。当日の応援合戦って、ダンス部がやンだよな」


 三年生二人が絆創膏を貼り合うのを待つ間、低く尋ねられた。


「そっスよ! 絶賛練習中です。っと、あぶねえ」


 オレはダンスの振りつけをネタばれしかけて、慌てて気をつけの姿勢になる。

 大役を任されたオレたちは、定番のエールはもちろん、K-pop曲でダンスも踊るんだ。色関係なく盛り上げようって、いつになくマジメに取り組んでる。


「……。スカート穿く?」


 先輩が、これだけはって感じで訊いてきた。

 どうしても訊きたいの、それですか。オレは人差し指を立て、もったいぶって答える。


「ナ・イ・ショ・っ・ス」


 たとえ丈士先輩でも抜け駆けはなし。

 先輩はお手上げとばかりに息を吐くけど、真顔に見える笑顔だ。今日もきっちり会長(非公式)の職務を果たす。

 その後、グラウンドを一往復もしないうちにチャイムが鳴った。


「えー、早。ぜってえ体育だけ時間の流れ三倍速になっとりますよね」


 先輩の肩から降りる。体育の時間はあっという間だ。先週今週は応援合戦の練習が毎日あって、野球部のサポにも行けない。

 でも、さみしくはない。先輩に練習の成果見てもらうのが待ち遠しい。


 前日にはおやつのリクエストも聞こうかな。美人お母さまの弁当があるだろうけど、種目の合間にパッとつまめるようなやつ。


 何より先輩と同じチームで総合優勝目指せるし、体育祭、まあまあどころかすげえ楽しみ。

 にまにましてたら、丈士先輩にほっぺたを突つかれた。



 ――そして、土曜。梅雨の晴れ間の体育祭日和がやってきた。




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