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第45話 笑いの無いまま夜は更けて

「タイセイさん!1匹そっちに行きました!!」


「了解!!」


 長く尖った角をもつ巨大な兎――「キラーラビット」。

 兎の可愛らしい見た目とは裏腹に、単独でもDランクの魔物だが、群れを成した時はCランク相当に格上げされる危険な敵だ。

 全長2メートルを超えるキラーラビットは、一跳びで10メートル以上移動する跳躍力を使って、木々を蹴って空中を素早く移動してくる。


 ……兎らしく地面を跳ねろと言いたい。


 そんなキラーラビットの群と遭遇した俺たちは、珍しく連携を取りながら戦っていた。


 タマちゃんが矢でキラーラビットの行動を制限しつつ、俺が一気に距離をつめて倒す。

 俺の死角から襲ってきたやつをタマちゃんが矢で射る。

 10匹ほどいたキラーラビットは次々とその数を減らしていった。


「ラスト―!!」


 タマちゃんの矢から逃れようとしたキラーラビットを空中で俺の剣が捉えた。



「タイセイさんお疲れ様です」


 周囲に他の敵がいないことを索敵した後にタマちゃんがそう言いながら近づいてきた。


「タマちゃんこそお疲れ様。思ったよりも全然楽勝だったね」


「そうですね。私たちはレベルだけでもDランクとは言えないところまで上がってますし、そこにスキルがいくつも乗ってますから、Cランクの魔物相手でも余裕をもって戦えます」


 しかも俺たちは2人だ。

 Cランクに格付けされた魔物は、Cランクパーティ(最低3人)を基準としている。

 つまり俺たちは通常のCランクパーティーの個々人よりも強い可能性すらある。


 2人のバランスが崩れないように、タマちゃんにもスキルを増やしているから連携もスムーズに行えるようになっている。


 ちなみにタマちゃんの現在のステータスは――



名前  タマキ

職業  弓使いアーチャー

レベル  28

HP  380/380

MP  220/220

STR  68       DEF   53

INT   55       DEX   65

AGI   73       LUK    15

EXP   1481/  3500


【固有スキル】

「風の導き」

(戦闘時AGI 3%アップ)

【スキル】

「気配察知(小)」(任意)「命中率上昇(小)」(常時)

「俊敏性上昇(極小)」(常時)「対魔法耐性(極小)」(常時)

「集中力上昇(小)」(戦闘時)「毒耐性(小)」(常時)

【称号】

無し


【装備】

疾風のロングボウ

火トカゲの胸当て

岩亀の籠手

超おしゃれなブーツ



 前に城で見た勇者の委員長のレベルが30だったから、ほとんど初期状態の勇者に追いついたと言えるだろう。


 新しく増えた「集中力上昇」と「毒耐性」、コスト不足で余っていたスキル。それと俺が付けるよりも【弓使い】のタマちゃんの方が必要そうだった「命中率上昇」を移している。


 それと気付いたことが一つ。

 さっきの勇者のステータスを見た時の話だけども、あの時に見た委員長の次のレベルまでの必要経験値が12万とかだった気がする。

 他の2人も似たようなもんだったはずだ。


 ……もしかしたら、あの3人はまだレベルアップを一度もしていないんじゃないか?


 まあ、罪も無い魔王さんを倒す道が遠退いたのだから良しとしよう。

 その間にいろいろと考えなきゃいけないことがあるからな…。



「えっと、これもタマちゃんが付けていた方が良さそうかな?」


「キラーラビットのスキルですか?」


「そう。「貫通力上昇」ってスキルだから、剣を使っている俺よりは弓矢のタマちゃんの方が良いでしょ?」


 そうして、タマちゃんに新たなスキルが加わった。



「キラーラビットのお肉美味しいですね!!」


 野営地点の焚火で焼いたキラーラビットの肉をほおばりながらご機嫌なタマちゃん。


 討伐部位である角10本がやはり邪魔になるので一旦街に戻りたかったのだが、森の半分も戻ったところで完全に陽が落ちてしまった。


 まあ、この辺りなら危険は無いだろうということで、今晩はここで夜を明かすことにした。


 狩猟祭が始まって一週間。

 俺たちは基本的にはD、Eランクと言われている魔物を中心に狩っていた。

 今の俺たちならCランクでもいけると思うのだが、その為に奥に入りすぎると、それ以上の魔物に遭遇する確率も上がるのだ。

 ちょくちょく街に戻って確認しているのだが、今のところ俺たちが倒したゾウアザラシ以上の魔物を持ってきた冒険者はいないとのこと。

 それなら期間ギリギリまでレベルアップとスキル集めに時間をかけて、十分にいける状態になったと判断したなら最後の2日で冒険しようということにした。


 まあ、ここまで狩った獲物だけでもかなりの金額になっているから、タマちゃんにしてみれば今のまま収穫祭が終わっても大満足らしいのだけども。


「でも、思ってたより魔物の種類が少ないですよね?ここ数日で初めて出会ったのって、今日のキラーラビットだけでしょ?」


「確かに。割と場所を移動しながら行動してるはずなんだけどね」


「でも、初日のゾウアザラシみたいに浅いとこまで出てくる上位の魔物がいないとも限りませんから、あんまり奥には進みたくないところです」


「例えば、今の俺たちがBランクの魔物に遭ったらどうなると思う?」


「んー。良くて大怪我でギリギリ逃走。最悪で全滅ですかねえ」


「そんなにヤバいの!?」


 Cランク相当のキラーラビットの群に余裕をもって対応出来たんだよ!?


「例年の狩猟祭だとBランクの魔物をAランクパーティが倒したら大体優勝になりますからね。魔物のランクは1つ上がると格段に強さが変わってくるんですよ。だからAランクの魔物なんてほとんど見たことのある人はいないと思います。そもそも――冒険者ランクと魔物のランクは別ですから」


「あれ?別なの?Aランクの魔物はAランクの冒険者が倒せるレベルって意味だと思ってたんだけど…」


「だって、別に魔物を倒さなくても冒険者ランクって上がるじゃないですか?ギルドの依頼さえこなしていけば」


 ……確かに。

 薬草採集や街の人のお使い。それに護衛依頼とかだけでもギルドへの貢献度でランクは上がる。

 ぶっちゃけ強くなくても良い。

 ランクが上がれば護衛依頼は受けられるし、その道中に何も無ければ強さもいらない。

 まあ、それでCランクとかだって人は知らないけども。


 だとすると――Bランクの魔物を倒せるような強さになるよりも、Bランク冒険者になる方が簡単ということになる。

 だって、Bランクの魔物を倒すにはAランクに上がるまで鍛えた冒険者が3人は必要ってことでしょ?


 「ダービージョッキー」の発動条件。

 『冒険者ランクと同ランクもしくは1ランク上の敵と対峙した時のみ発動』


 つまり――俺がCランク冒険者まで上がれば、Aランク冒険者がパーティで戦うBランクの魔物相手に2倍のステータスで戦えるということか。

 それもスキルで底上げされたステータスの。


 上がりやすい冒険者ランクで、格段に強さの変わる魔物のランクが対象にされる。


 これはいろいろと凄いことだ。


 だけど――あまりに出来過ぎな気がして、俺は素直にそのことに喜ぶことが出来なかった。




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