開始の合図と共に冒険者たちが一斉に森へ向かって走り出す。
参加総数は500人を超える大人数だ。
今年はAとBランクが参加しないという話が広がったことで、チャンスを狙って参加者が増えたらしい。
もちろん、雑魚狙いの人たちの方が圧倒的に多いのだが。
自分の足で走っている冒険者をしり目に、馬で駆けていく冒険者もいる。
森の中では馬は邪魔になるので、おそらくは森の外に待機させておくつもりなのだろうが、タマちゃん曰く――
「馬で行っても帰りには盗られていなくなってるでしょうね。毎年初心者がやりがちなんですよ」
とのこと。
世知辛い世の中だぜ。
当然俺たちは自分の足で森へと向かう。
急ぐ必要はない。
期間は2週間もあるし、何より俺たちにはタマちゃんの気配察知スキルと、少し前まで森を歩き回っていたというアドバンテージがある。
おそらくは長い間森に入っていないだろう冒険者よりもある程度の奥までは早く着ける自信があった。
――のだが……。
「タイセイくん、タマキちゃん。お互い頑張りましょうね」
トリュフさんがそう言って、俺たちの横を走り抜けていく。
キャビアさんとフォアグラさんも重装備をものともせずに、俺たちに手を振って走っていく。
他にも知っているCランクの冒険者や、見たこと無い顔の人たちがもの凄い速さで駆け抜けていった。
「これがCランク冒険者……」
俺は走りながら彼らに対してアドバンテージなんて無いに等しいことを思い知った。
森の入り口に到着した時には、トリュフさんたちCランクの人たちだけじゃなく、俺が同格になっていると思っていたDランクの人たちすら、すでに森の奥に姿を消していた。
そして、早くも置き去りにしてあった馬に群がる人たち。
「あれどうする?」
一応タマちゃんに聞いてみたが――
「ほっときましょう。自業自得です」
良い人に拾われるんだぞ。
「それより、私たちも奥に向かいましょう。一度潜ったことのあるところまで一気に行って、それから先は慎重にって感じで」
「了解。野営地点も早めに確保しておきたいしね」
そして俺たちはダッシュで森の奥へと進んだ。
途中見慣れた雑魚モンスターは、いつものごとくタマちゃんが次々と蹴り飛ばしていく。
今回は矢を温存しておきたいので何も言わない。
それに、あんなに楽しそうな顔をされたら止められないよね。
特に、討伐部位を刈り取ってる顔なんて、悪魔が乗り移ってるみたいな恐ろしい笑顔だよ。
いや、亡者か。金の。
「大体この辺りですかね」
過去に来たことがある付近まで2時間ほどで到着した。
あの頃よりはかなり早いペースで来れたのだが、やはり他の冒険者の姿は見えない。
「ここを今日の野営地点にして、夜には戻ってこよう」
この辺りの魔物なら、夜の間に襲ってくることがあっても対処が簡単だからね。
「そうですね。この辺りの魔物なら、夜の間に襲ってくることがあっても対処が簡単ですから」
あ、それはもう俺が説明した。
「で、優勝するとしたらどれくらいの奴を倒したら良いんかな?」
「え!?タイセイさん優勝する気だったんですか!?」
結構派手に驚かれてしまった。
そりゃ、参加する以上はね。
「前に倒したコモドオオワームくらいならいける?」
Dランクパーティーでも難しい魔物らしいから、俺的にはあれが指標になる。
「どうでしょうか?今回はCランクまでしか参加していないとはいっても、あの人たちだったらもっと上の魔物を倒せると思います。出会えればの話ですが」
それでも一応の目安にはなったな。
今の俺たちなら、二人でも倒せる自信がある。
魔法も使えるようになったし。
「じゃあ、あれくらいを目安に戦ってみて、余裕があるようなら上を狙う感じ?」
「……本気で優勝狙うんですね」
「まあ、もちろん無茶をするつもりは無いし、それにタマちゃんを巻き込むつもりも無いけどね」
「……分かりました!私も覚悟を決めましょう!!ほんとは小物で数稼ぎたかったですけど…」
本音が丸聞こえだぞ。
「前はそんなに奥に行くつもりが無かったんで詳しくは説明していなかったですけど、この森は奥に行くほど強力な魔物がいると言われています。でも、どの辺りからどのランクの魔物がとかの目印はもちろん無いですし、魔物の種類の分布表があるわけでもないです。進む方向によっては、突然上位の魔物に遭遇することだってあり得るところです」
魔物に縄張りがあるのかは知らないが、相手は生き物なんだから動いていて当然だろう。
「なので、さっきタイセイさんが言ったような事が都合よくいくとは限りません」
なるほど、言いたいことが段々分かってきたぞ。
「私が気配察知で探りながら慎重に進んでいくんで、出来るだけ早めに相手を見極めて、勝てそうな相手なら戦いましょう」
「うん、つまり?」
「勝てそうな雑魚を倒しまくってお金を稼ぎましょう!!」
覚悟決めたんじゃないんかい!!
俺は泣き叫ぶタマちゃんの襟首を掴んで森の奥へと進んで行ったのだった。