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第40話 参加することに意義が…いや、意味がある

「ありがとう…。もう大丈夫だから」


 本当は精神的に全然大丈夫なんかじゃなかったけど、タマちゃんのあまりに心配そうな顔を見ていたら、俺はそう言うしかなかった。


「ごめん。心配かけて」


 俺は街中に設置されているベンチに座って項垂れていた。


「そんなことは気にしなくて良いんです。でも、さっき言ってたのは……」


 それは、俺が元の世界に帰れないと言ったこと。


 俺がタマちゃんに最初に話したのは、勇者が魔王を倒したら元の世界に戻れるという内容だった。


 でも、普通の国の王様を倒すなんてやっちゃいけない。

 委員長たちは多分その事に気付かずに向かっているはずだ。


 彼女たちもその事実に気付いた時、俺と同じような気持ちになるだろう。

 少ししか会話してないけど、彼女らがそんな非道な事をするとはとても思えないし、国を相手に3人でどうにかなるとは思えない。

 それが例え、チートな能力を与えられた勇者であったとしてもだ。


「勇者は魔王を倒せない……。だから俺も元の世界に帰ることは出来ないんだ……」


「……そうでしょうか?」


 え?

 急にシリアスな声になったタマちゃんに驚いて、それまで伏せていた顔を上げる。

 すると、やはり真剣な表情をしたタマちゃんがいた。


「本当に倒せないんでしょうか?」


「……そりゃ……そうじゃない?倒すなら、国を相手にするようなもんでしょ?」


「だったらどうやって昔の勇者さんは魔王さんを倒したんでしょうか?」


 ん?昔の魔王?

 勇者に倒された魔王……。


「それに、昔は周りの国に悪い事をしてたって事は、今よりも軍事的に準備が出来ていたはずです。その中を勇者さんは一人で魔王さんを倒したんですから、何かそこには秘密があるはずです」


 俺はタマちゃんの言葉に驚いた。


「タマちゃんが……まともなことを言っているなんて……」


「あ、元気が出すぎたみたいですね。じゃあ、少し弱めなきゃ」


 タマちゃん、ここ街中だよ?

 ほら、いっぱい人が周りにいるよ?


 だから弓矢はやめて!!

 避けられないから!!




 でもタマちゃんの言った事には一理ある気がする。


 魔王を倒す……。


 魔王、勇者、ステータスがあってゲームみたいな世界……。


 そんな世界で、クリア条件が勇者の軍事侵攻とかありえない。


 いや、ゲームじゃなくて現実だってのは分かっているんだけどね。


 それでも、どこかにクリアする方法があるんじゃないかな?って思うんだよね。


 いや、今はそう思いたいだけなのかもだけど。


「ママー。あのお兄ちゃん、肩から矢が生えてるよー」


「こら!人に指さしちゃ駄目でしょ!」


 まあ、この件は追々考えながらにしよう。


 どうせ思いついたとしても、魔王さんに会えるまで2年かかるみたいだし。


 でも、この時の俺たちは「魔王を倒したら元の世界に帰れる」という事に縛られ過ぎて気付いていなかった。


 何故、魔王を倒せば帰ることが出来るのかということを。

 魔王はただの人間だというのに。


 それに、マルマールは言っていたじゃないか。


「私も自分の世界になんで分からないです」


 なのに、何故、王様たちは帰る方法を提示してこれたのかということを。



「て、タイセイさん聞いてます?」


 タマちゃんの声に思考の部屋から追い出される。


「え?あ、もちろん聞いてるよ」


 肩の矢も効いてるよ。

 じわじわと俺のHPが減っていってるよ。


「じゃあ、それで良いですか?」


 ごめん、何のことか分からない。


「……うん」


 どうして俺はこういう時に聞き返せないんだろうか。


「それなら申し込んでおきますね」


 申し込む?依頼かな?


「王国狩猟祭」


 え……王国狩猟祭?


「良かったー!私は前から参加してみたかったんですよ!でもEランク以上じゃないと参加できないから」


 ……まあ、タマちゃんが楽しそうなら良いか。




 狩猟祭の申し込みはギルドで出来るということなので、結局は休日なのにギルドに行く事になった。


「あら?珍しい時間に会うじゃない?あなたたちも遠征の帰り?」


 ギルドに入ったところで、出ていこうとしていたトリュフさんと会った。

 後ろには二人の男性。

 トリュフさんのパーティー仲間のキャビアさんことキャビンさんんと、フォアグラさんことフォルグラーナさんだ。

 多少苦しいが、せっかくだから3大珍味で揃えてみた。


「いえ、俺たちは今日休みにしてたんですけど、狩猟祭の申し込みがギルドだと聞いて来たんですよ」


「お、君たちも狩猟祭に出るっちゃか」


 と、前衛で盾役を引き受けている大きな体の【重戦士】キャビンさん。

 背中にはその身体よりも大きな巨大な盾を背負っている。


「はい。Eランク以上だと参加出来るらしいですから、どうせなら参加しようと思いまして」


 主にタマちゃんが乗り気なので。


「それなら、俺たちもうかうかしてられないな。今回はAランクとBランクの参加者がいないみたいだから、思い切って優勝を狙っているんだが」


 と、主に近接戦を担当している長身の【聖剣士】フォアグラさん。

 全身に白銀の鎧を纏う、派手派手剣士。


 3人は先日Cランクに昇格したところだ。


「ABランクは参加しないんですか?」


 あれ?意外と盛り上がってないのか?


「ああ、毎年無茶をするEランクの奴らが多くてな。せっかくの祭りなのに死人が出るとまずいだろ?だから今年は彼らが森の中で監視に回ることになったんだ」


 ああ、そういうことか。

 でも、あの馬鹿広い森の中で監視するとか大変だな。


「まあ、君らはEランクといっても形だけだから大丈夫だろうがな」


 そう言ってニヤリと笑うフォアグラさん。


 いえ、身も心も立派なEランク冒険者ですが?


「とはいえ、森の奥にはどこに何がいるか分からんちゃからね。君たちだけじゃなく、俺たちだって十分に気を引き締めてかからないといけないっちゃ」


「そうね。例年だと、Aランクの人たちが優勝するような魔物を狩ってきてるけど、さすがに今年はそこまでのものは無理だものね。無理する人が出てこなきゃいいけど……」


「大丈夫だろ?その為の監視役だ。それにそこまで無理しなくても、十分に稼げるだろうからな」


 稼げる?

 優勝しなくても賞金が出るの?


「あの…稼げるっていうのは?」


「あら?知らないの?狩猟祭期間中に狩った魔物は、通常の3倍の報酬が貰えるのよ?それが例えゴブリンであっても」


 通常の3倍!?

 ゴブリンとかでも!?


「だから、Eランクの冒険者だけじゃなくて、私たちでも参加する意味があるのよ」


 ああ、そうかあ。

 だからタマちゃんはずっと参加したかったんだ。

 ということはだな……。


「タマちゃん」


「は、はい!」


 それまでずっと黙ったままで俯いていたタマちゃん。


「タマちゃんさあ、こないだの休みの日って1日姿を見なかったよね?」


「そ、そうでしたっけ?」


「その前の休みの日も見なかったよね?」


「た、たまたまじゃないですか?タマキだけに!!なんて……」


「怒らないからさあ。金額だけ教えてくれるかな?――のさ」


「ヒッ!!お、落ち着いてください!タイセイさん、笑ってるけど何か怖いですよ!!」



 こうして、タマちゃんの競ンバでの借金が発覚したのだった。






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