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第39話 真実とは時に残酷であったりなかったり

「何だか随分と賑やかだね」


 その日は依頼を受けずに休息日にしようということで、俺とタマちゃんは昼過ぎまで宿でゆっくりとした後、あまりに退屈になり、何の目的があるでもなく街にと繰り出していた。


 最近はEランクになったこともあり、泊りでの遠方への依頼も多くなっていたので、街をゆっくりと歩くのは久しぶりのことだった。


「ああ、もうすぐ王国狩猟祭がありますから、それで盛り上がってるんじゃないですか?」


「王国狩猟祭?」


 狩りの大会かな?


「国を挙げての魔物討伐を競うお祭りですね。あの森を使って、誰が一番大物を狩れるかを競うんです。なので国中の腕自慢の冒険者が集まって来るんですよ」


 ああ、それで人が多いのか。


 そういえば、ギルドでも知らない顔が何人かいたような気もするな。


「でも、そんなに冒険者が王都に集まって大丈夫なの?地方の町とか危険なんじゃない?」


 王国の兵士がいるといっても、基本的に魔物の討伐を引き受けてるのは冒険者だ。

 その為に依頼以外の魔物討伐の報酬を国が出しているんだから。


「お祭りの間は、国の兵隊さんが地方に出て行って代わりにやってくれます。国を挙げてのお祭りですから、全面バックアップ付きですよ!」


 お祭りに力入れすぎだろ。


 勇者が魔王討伐に行ってるのに、何をやってるんだ?


「えっと、タマちゃん……」


「はい?」


「前に魔王と勇者の話はしたと思うんだけど」


「はい。聞きましたよ?」


「タマちゃんは魔王って知ってるんだよね?」


「知ってますよ。小さい頃に絵本で読みました。昔々に悪い事をしてて勇者さんに倒されたって話です」


 あ、知ってるんだ。


「で、今も魔王がいるのも知ってるよね」


「はい。何か前に聞いたことがありますよ」


 ん?聞いたことがある?

 その程度?

 あれ?


「その魔王がいるのに、どうもこの国の人は落ち着いているっていうか、気にしてもいないっていうか……」


「まあ、そうですねえ。私も気にしたことないです」


 いや、気にしろよ。

 魔王だぞ魔王。

 めっちゃ怖いんだぞ。


「タマちゃんは、その……魔王が怖くないの?」


「え?怖いとか怖くないとか考えたこと無いです。どんな人かも知りませんし」


 ……あれ?何か話がかみ合わないな。


「魔王さんて、遠い外国の人じゃないですか。だから名前くらいしか知りません」


 外国の人?

 いや、そうかもしれないけど……遠い?


「え?遠くにいるの?」


「私も聞いたのが随分前なので……でも、ぼんやり覚えているのが合ってたとしたら、ここから船とか使っても2年くらいはかかる大陸ですね」


 ここから2年!?

 嘘でしょ!?


「この国とは国交も貿易もやってないんじゃないですかね?何せ遠すぎますから」


「……じゃあ、この国が魔王に攻められてるとかは?」


「全然無いですよ?それに魔王さんの悪い噂とか聞いたこと無いですし」


 いやいや、魔王って呼ばれてるだけで悪い噂だと思うけどね


「……タマちゃんは勇者が魔王を倒しに行ってるって聞いた時にどう思った?」


「えっと、随分と遠くの国を侵略に行くんだな?って」


 まさかのこちらが加害者!?


「あの…魔王…さん?は、悪い人だよね?」


「え?どうしてですか?」


「だって、魔王だよ!?魔物の王だよ!?それだけで悪い人…じゃないの?」


「いや、違いますよ?魔王さんは魔国の王様ですよ?」


 ……うん。魔物の国だから魔国。そこの王様だから魔王で合ってるよね?


「そこには魔族とか魔物とかが住んでる……よね?」


「魔族って聞いたこと無いですね。それに魔物が住んでるわけないじゃないですかあ」


 あれ?じゃあ魔国って何?


「さっき言った大陸に昔からある国が「魔国」です。そこの王様は代々「魔王」って呼ばれてて、ずっと前の魔王様が他の国に悪い事をしてたから、勇者って呼ばれる人が成敗したんです。それが私の読んだ絵本の話です」


 …………昔からある国が魔国?


 …………さっき貿易とか国交とか言ってたし。


 …………まさか、そういう名前の普通の国なの?


「私も遠いところにあるってくらいしか知らない大陸ですから、あまり詳しくは知りませんけどね。結構大きな国みたいですよ」


 うーん。

 じゃあ、委員長たちは国に喧嘩を売りに行ったんだな。

 しかも片道2年もかけて。

 こんなのRPGじゃないよね。


 ……ということは。


 そこで俺は軽いめまいを感じてふらふらっと膝を突いた。


「タイセイさんどうしました!?」


 タマちゃんが心配してしゃがみこんで俺の顔を覗き込んでくる。


 いつもならラッキーとか思うような距離なのだが、今の俺にはそんなことを考える余裕が無かった。


「……タマちゃん。俺さ……」


「はい!しっかりしてください!お医者さんとこ行きますか!?」


「俺……元の世界に帰れないかもしれない……」


 だって、魔王倒すとか無理じゃん。

 てか、やったら駄目でしょ。

 何も悪い事やってない普通の人間をさ。




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