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第38話 俺たちの戦いはこれからだ!!

「ねえ……本当に大丈夫なの?」


 トリュフさんは赤と緑の血に全身を染めている俺を目を丸くして見ている。


「えっと、思ったより軽傷だったみたいです」


 レベルアップで怪我が治ることは、タマちゃん以外には内緒だ。

 一瞬、トリュフさんにも伝えてしまおうかとも思ったが、今後も一緒に行動するわけではないので、今回は止めておくことにした。


「でも……結構な吐血をしてたように見えたけど……」


「トリュフさん、タイセイさんは少しだけ人よりも血を吐きやすくて、少しだけ頑丈なんです。だから、そんなに心配しなくて大丈夫です!」


 少しだけ人よりも血を吐きやすいって何?

 普通の人はそもそも滅多に血を吐くことなんてないよ?


 タマちゃんは俺がわざと驚かしたと思っているようで、さっきから少し俺に冷たい。


「……分かったわ。さっきコモドオオワームを倒した事も含めて、これ以上の詮索は止めておくわ」


 トリュフさんは何かを察したらしく、それ以上聞いてくることはなかった。


 まあ、俺もこんな言い訳が通用するとは思っていなかった。

 冒険者はお互いの詮索はしないという不文律を利用させてもらっただけだ。


「まずは二人にはお礼を言わなくちゃね。おかげで依頼を達成するどころか、私も死なずに済んだわ。タイセイくんたちに声をかけずに私たちのパーティーだけで来ていたら、あいつを倒すことが出来ずに全滅してたと思う。本当にありがとう」


 そう言うと俺たちに向かって深々と頭を下げた。


「いえ、俺たちは自分たちに出来ることをやっただけですから」


 俺の方こそ二人には感謝してもしきれない。

 命がけで俺を助けようとしてくれたことは絶対に忘れない。


「それに、トリュフさんが誘ってくれたおかげで、本当に貴重な経験をさせてもらいました」


 それは上のランクの依頼を受けさせてもらったという事だけではない。

 この依頼中に経験したことは、これからの俺にとってとても大事な事を気付かせてくれた。


 ステータスがあってスキルもある。

 魔物がいて魔法もある。


 でも、命は一つだ。


 死んでしまったらそれでお終い。


 分かっていたつもりだった。

 これまで怖い思いをしながらも分かっていたと思っていた。


 でもそれは十分ではなかったんだ。


 そしてそれは他の人も同じ。


 魔物にとっても同じことだった。


 危険を感じれば全力で攻撃してくる。

 本当に当たり前のこと。


 どこかやんわりとした世界でも、そこは弱肉強食の世界。


 俺はそんな世界でこれからも生きていくんだ。


 自分でそう決めたんだから。


「あ、そうそう。タイセイくんのお仲間にもお礼を伝えておいてね」


 仲間?タマちゃんしかいませんが?


 きょとんとした俺にトリュフさんは言葉を続ける。


「昨日の夜に一緒に盗賊と戦ってくれた人よ。あ、戦ってたかどうか私は見てないけど、冒険者みたいな装備をしてたから。ほら、晩御飯食べてた時に、タイセイくんの後ろにずっといた2人のおじさん?あの人たちよ」


 ますます意味が分からない。


 いや……もしかして。


「朝になったらいなくなってたけど、あの人たちはタイセイくんが呼んでくれた人じゃないの?」


 あ、トリュフさんて――視える人だ。


 え?俺に何が憑いてるの!?




「あーさっぱりした!」


 風呂という名の水浴びを終えた俺は、タオルで頭を拭きながら部屋に戻って来た。


 ワリトークの町に着いた俺たちだったが、さすがに血まみれの状態で宿に入るわけにはいかないので、宿の人に言って庭先で体を洗わせてもらった。


 町の中を歩いていた時に、すれ違う人の怯えるような視線を向けられたのは仕方がないことだろう。


「はあ、疲れましたね」


 俺の部屋には当然のようにタマちゃんがいて、ベッドに腰を下ろしていた。


「本当に今回は死ぬかと思いましたよ」


「俺は死んだと思ったけどね」


 実際九割くらいは死んでたし。


「でも、タマちゃん。本当にありがとうね」


 俺はタマちゃんに向けて濡れたままの頭を下げる。


「タマちゃんが俺を見棄てなかったおかげで、俺はこうして生きていられる」


「やめてくださいよ!仲間として当然のことをしただけですから!」


 タマちゃんは慌ててベッドから立ち上がる。


「いや、そんなことはないよ。あの状況なら、俺をおとりにして逃げるのが一番だったはず。でも、二人は俺を助けようと命がけで戦ってくれた」


「タイセイさんをおとりになんて……。もしトリュフさんが逃げようって言ってきても、私はタイセイさんを見棄てることなんて出来なかったです」


 だからこそ、俺はタマちゃんに感謝してるんだよ。


「そ、そんなことより――」


 珍しくまじめな俺に耐えられなくなったのか、タマちゃんは話題を変えようとした。


「コモドオオワームからはステータス取れたんですか?」


 昨日までの俺だったら、その確認を優先していただろうなと思う。


「取れたよ。まだ確認してないけど」


「は、早く見てみましょうよ!」


 照れているタマちゃんも可愛いな。


「コモドオオワームのステータスをオープン」


『職業【コモドオオワーム】のステータスを表示しますか?YES/NO』


「YES」


名前 NO NAME

職業  コモドオオワーム

レベル  38

HP   750/ 750

MP   610/ 610

STR   85    DEF  62

INT   70    DEX  33

AGI   57    LUK  40


【固有スキル】

土喰い

【スキル】

火属性魔法(小)

土属性魔法(小)



 あいつ、初期勇者より強かったんじゃね?


 そりゃ死にそうにもなるわ…。


「タマちゃん。こいつのスキルに魔法がある・・・」


「え!?それは固有スキルですか?」


「いや、普通のスキル。固有スキルは土喰いってなってる」


「そうなんですか…。普通だと魔法は職業に付いてくるものなんですけど…」


 そうなの?勇者たちにはそんなの付いてなかったと思うけど…。


「とりあえず装備してみるよ」


「……はい」


「職業【コモドオオワーム】のステータスを装備」


『職業【コモドオオワーム】のステータスを装備しますか?YES/NO』


「YES」


『召喚者ソノダ・タイセイは職業【コモドオオワーム】のステータスをサブ職業スロットに装備しました。

 職業【コモドオオワーム】を装備したことで、各種ステータスが上昇しました。


 職業【コモドオオワーム】のスキル、「火属性魔法(小)」を獲得しました。

 スキル「火属性魔法(小)」をスキル装備スロットへ装備しました。

 称号「マルマールの使徒」の効果により、スキル「火属性魔法(小)」は「火属性魔法(中)」へと進化しました。

 これにより火属性魔法を使用することが出来るようになりました。


 職業【コモドオオワーム】のスキル、「土属性魔法(小)」を獲得しました。

 スキル「土属性魔法(小)」をスキル装備スロットへ装備しました。

 称号「マルマールの使徒」の効果により、スキル「土属性魔法(小)」は「土属性魔法(中)」へと進化しました。

 これにより土属性魔法を使用することが出来るようになりました。


 固有スキル「土喰い」は装備することが出来ません。


 全てのデータ移行が終了しましたので、職業【コモドオオワーム】のステータスは廃棄されます』



「なんか、魔法が使えるようになったみたい……」


「え!?本当に装備出来たんですか!?」


「うん。さっき言った固有スキルは無理だったっぽいけど、火と土の魔法が使えるようになったって」


「ははは……。本当にいろいろと非常識な人ですね……」


 タマちゃんは呆れたような目で俺を見る。


 これでそんな顔を見るのは何度目だろう。


 でも俺は、こうしてタマちゃんに呆れられるのは嫌いじゃない。


 そんな非常識な俺を見棄てずに一緒にいてくれていることが何よりも嬉しいんだ。


 今は特にそう思う。


 今回でレベルも大きく上がった。

 タマちゃんも同じように上がったらしい。


 魔法も使えるようになったし、王都に戻れば冒険者ランクも上がるだろう。


 これからは今までとは違う世界が俺を待っている。


 この穏やかな世界の中で、弱肉強食の命がけの冒険が。


 今回以上にヤバいことだってあるだろうし、今まで以上に楽しいこともあるだろう。


 そんな世界を俺は生きていく。


 タマちゃんがいれば生きていける。


 いつか元の世界に戻れるとなった時、俺はどんな選択をするか分からない。


 そう思えるくらい精一杯生きよう。


 誰も経験をしたことが無いこの異世界で。


 これからも――



『称号【俺たちの戦いはこれからだ最終回】の獲得条件を満たしました。獲得しますか?YES/NO』


「……NO」



 そう、これからだからね。




第2章 踏み込んで冒険者  ―完―



To be Next Stage



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