『召喚者ソノダ・タイセイは職業【モヒカン】のステータスをサブ職業スロットに装備しました。
職業【モヒカン】を装備したことで、各種ステータスが上昇しました。
職業【モヒカン】のスキル、「気分上々《トリップ》(大)」を獲得しました。
スキル「気分上々(大)」をスキル装備スロットへ装備しました。
称号「マルマールの使徒」の効果により、スキル「気分上々(大)」は「気分上々(特大)」へと進化しました。
全てのデータ移行が終了しましたので、職業【モヒカン】のステータスは廃棄されます』
「うおおぉぉぉぉ!!何かアガってきたあぁぁぁぁ!!」
今までの痛みが嘘のように消えたー!!
やれる!!やれるぞー!!
ヒヤッハー!!
『スキル「気分上々(特大)の効果で、大量に分泌されたアドレナリンにより、痛みを感じなくなりました。
なお、このスキルの効果は装備後5分です。
時間経過後、このスキルは自動的に破棄されます』
何でも良い!!
今の俺は無敵だー!!
これまでに感じたことの無い高揚感に包まれた俺は、どこかしこかに骨が折れたであろう状態で走り出した。
もの凄い速さで景色が流れる。
今の俺は風だ!!世界を吹き抜ける黄金の風だ!!
『スキル「気分上々(特大)」の効果により、
召喚者ソノダ・タイセイのステータスが300%上昇しました』
タマちゃんへと襲い掛かろうとしているコモドオオワーム。
俺はその頭目掛けて跳んだ!!
「ミミズ狩りじゃー!!ヒャッハー!!」
「ギュウゥゥゥゥゥ!!」
俺の渾身の蹴りを受けて、ミミズのその巨体は大きく体勢を崩す。
「え!?タイセイさん!?」
「ガフッ!!」
蹴った衝撃で内臓に何かあったらしく、俺は大量の血を吐血する。
しかし、そんなことはどうでもいい!!
腕が飛ぼうが、足が飛ぼうが、今の俺にはそんな事に何の興味も無い!!
「タイセイくん!!そんな身体で動いたら死んじゃうわ!!」
トリュフさん、動かなきゃどのみち死んじゃうんだよ!!
口の中に残った血を吐き出し、ナイフを構えてミミズに向かう
奴は自分を蹴った相手が俺に気付いたのか、攻撃の照準を俺に変更したようだ。
しかし遅い!!
その時にはすでに奴の懐近くまで接近していた俺は、その勢いのままに握ったナイフをその長いどてっ腹に突き刺した。
そしてそのまま、横一文字に切り裂く!!
傷口から緑の血液のようなものが吹き出し、ミミズはその巨体をくねらせながら悶絶する。
「ピギュー!!ギュギュギュー!!」
「イヤッハー!!」
俺は暴れまわるミミズの背中に飛び乗り、そのままナイフをその背中に突き立てる。
そして今度は頭の方へ向けて縦に切り裂く!!
俺は全身に緑の液体を浴びながら、長い背中をナイフを刺したままで走る。
「ヒャハハハハハー!!」
暴れて俺を振り落とそうとするが、この程度の揺れで今の俺を振り落とせるはずがない。
もっとだ!!もっとデカい波を持ってこい!!
しかし、頭まで斬るつもりだったのだが、途中で左手がナイフから外れてしまったため、諦めて背中から飛び降りた。
見ると、左の腕は肘からおかしな方向へと曲がっていた。
「タイセイくん!!腕が!!もう
止める?何故?
今の俺は最高に気分が良いんだ!!
誰も邪魔すんじゃねーよ!!
俺は右手一本でナイフを持ち、痛みでのたうち回っているミミズへと突撃した。
「オラオラオラ!!どうしたミミズー!!自慢の魔法でも撃ちやがれよ!!」
その巨体をくねらせながら暴れるミミズを、俺はナイフで斬りまくる。
その度に左腕がぶらぶらして邪魔だ。
いっそ切り落としてしまおうか?
徐々に動きが遅くなるミミズに対して、どんどんとテンションが上がっていく俺。
「死ね死ね死ね死ね死ね!!」
頭を、首を、胴体を、動き回りながら斬りまくる。
うるさかった外野の声はもう聞こえない。
ミミズの悲鳴も聞こえない。
俺の耳に聞こえているのは――俺ではない誰か別の俺の狂気の叫びだけだった。
ミミズは巨体を横たえて、ピクピクと痙攣を起こしている。
俺はトドメを刺そうとしたが、その時――俺の視界が大きく流れ、そのまま地面に倒れた。
今度は右足が折れたようだ。
しかし、そんなことには構わず、這うようにしてミミズへトドメを刺すべく近づく。
「もうやめてください!!」
そんな俺に覆いかぶさるようにタマちゃんが抱き着く。
やめろ!離せ!!
「これ以上動いたらタイセイさんが死んじゃいます!!」
それがどうした?
俺にミミズを
邪魔をするなら――
その時の感情は殺意と呼ばれるものだったのだろう。
ミミズに向けていたものとは、全く別の種類の悪意。
俺は握っていたナイフを逆手に持ち直し、背中を狙えるようにした。
そして――
「ガフッ!!――がっ……あが……ががが」
血反吐を吐いて、想像を絶する痛みに気が狂いそうになった。
「タイセイさん!!タイセイさん!!」
『スキル「気分上々」(特大)の効果が終了しました。
スキル「気分上々」(特大)は廃棄されます』
効果切れ……。
俺はその瞬間、それまでの自分のやっていた行動を理解した。
うん、そりゃこうなるよね。
痛くないからって、骨の折れた身体で無茶したんだからさ。
その上、俺はタマちゃんを……。
「タイセイくん!!しっかりして!!」
ああ、トリュフさんも無事だったんだ……。
「ゴフッ!!」
どす黒い血が口から飛び出す。
「いやあ!!タイセイさん!!」
タマちゃん泣かないで……俺は君に泣かれる資格なんて無いんだ……。
「タイセイくん!!すぐに町まで運ぶから!!」
トリュフさん……ちょっと変わっちゃったけど、依頼は達成出来そうですね。
本当に良かった……。
俺の為に命を賭けようとしてくれた二人が無事で……本当に……。
視界が暗くなっていく……。
二人の俺を呼ぶ声も段々と小さくなっていく……。
「タイセイさん!!しっかりしてください!!死なないで!!」
さようならタマちゃん。
良いパートナーが見つかることを祈っているよ。
さようなら……。
『コモドオオワームを倒しました。
経験値1500を手に入れました
レベルが12上がりました。
各種ステータスが上昇しました。
スキル装備スロットが12増加しました。
HPとMPが全回復しました』
「タマちゃんただいま」
「いやあああああああああ!!」
その日一番の悲鳴だった。