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第37話 物語って主人公が死んでも続くの?

『召喚者ソノダ・タイセイは職業【モヒカン】のステータスをサブ職業スロットに装備しました。

 職業【モヒカン】を装備したことで、各種ステータスが上昇しました。


 職業【モヒカン】のスキル、「気分上々《トリップ》(大)」を獲得しました。

 スキル「気分上々(大)」をスキル装備スロットへ装備しました。

 称号「マルマールの使徒」の効果により、スキル「気分上々(大)」は「気分上々(特大)」へと進化しました。


 全てのデータ移行が終了しましたので、職業【モヒカン】のステータスは廃棄されます』


「うおおぉぉぉぉ!!何かアガってきたあぁぁぁぁ!!」


 今までの痛みが嘘のように消えたー!!


 やれる!!やれるぞー!!


 ヒヤッハー!!


『スキル「気分上々(特大)の効果で、大量に分泌されたアドレナリンにより、痛みを感じなくなりました。


 なお、このスキルの効果は装備後5分です。

 時間経過後、このスキルは自動的に破棄されます』


 何でも良い!!

 今の俺は無敵だー!!



 これまでに感じたことの無い高揚感に包まれた俺は、どこかしこかに骨が折れたであろう状態で走り出した。


 もの凄い速さで景色が流れる。

 今の俺は風だ!!世界を吹き抜ける黄金の風だ!!


『スキル「気分上々(特大)」の効果により、

 召喚者ソノダ・タイセイのステータスが300%上昇しました』


 タマちゃんへと襲い掛かろうとしているコモドオオワーム。


 俺はその頭目掛けて跳んだ!!


「ミミズ狩りじゃー!!ヒャッハー!!」


「ギュウゥゥゥゥゥ!!」


 俺の渾身の蹴りを受けて、ミミズのその巨体は大きく体勢を崩す。


「え!?タイセイさん!?」


「ガフッ!!」


 蹴った衝撃で内臓に何かあったらしく、俺は大量の血を吐血する。


 しかし、そんなことはどうでもいい!!


 腕が飛ぼうが、足が飛ぼうが、今の俺にはそんな事に何の興味も無い!!


「タイセイくん!!そんな身体で動いたら死んじゃうわ!!」


 トリュフさん、動かなきゃどのみち死んじゃうんだよ!!


 口の中に残った血を吐き出し、ナイフを構えてミミズに向かう


 奴は自分を蹴った相手が俺に気付いたのか、攻撃の照準を俺に変更したようだ。


 しかし遅い!!


 その時にはすでに奴の懐近くまで接近していた俺は、その勢いのままに握ったナイフをその長いどてっ腹に突き刺した。


 そしてそのまま、横一文字に切り裂く!!


 傷口から緑の血液のようなものが吹き出し、ミミズはその巨体をくねらせながら悶絶する。


「ピギュー!!ギュギュギュー!!」


「イヤッハー!!」


 俺は暴れまわるミミズの背中に飛び乗り、そのままナイフをその背中に突き立てる。

 そして今度は頭の方へ向けて縦に切り裂く!!


 俺は全身に緑の液体を浴びながら、長い背中をナイフを刺したままで走る。


「ヒャハハハハハー!!」


 暴れて俺を振り落とそうとするが、この程度の揺れで今の俺を振り落とせるはずがない。


 もっとだ!!もっとデカい波を持ってこい!!


 しかし、頭まで斬るつもりだったのだが、途中で左手がナイフから外れてしまったため、諦めて背中から飛び降りた。


 見ると、左の腕は肘からおかしな方向へと曲がっていた。


「タイセイくん!!腕が!!もうめて!!」


 止める?何故?

 今の俺は最高に気分が良いんだ!!


 誰も邪魔すんじゃねーよ!!


 俺は右手一本でナイフを持ち、痛みでのたうち回っているミミズへと突撃した。


「オラオラオラ!!どうしたミミズー!!自慢の魔法でも撃ちやがれよ!!」


 その巨体をくねらせながら暴れるミミズを、俺はナイフで斬りまくる。


 その度に左腕がぶらぶらして邪魔だ。

 いっそ切り落としてしまおうか?


 徐々に動きが遅くなるミミズに対して、どんどんとテンションが上がっていく俺。


「死ね死ね死ね死ね死ね!!」


 頭を、首を、胴体を、動き回りながら斬りまくる。


 うるさかった外野の声はもう聞こえない。


 ミミズの悲鳴も聞こえない。


 俺の耳に聞こえているのは――俺ではない誰か別の俺の狂気の叫びだけだった。



 ミミズは巨体を横たえて、ピクピクと痙攣を起こしている。


 俺はトドメを刺そうとしたが、その時――俺の視界が大きく流れ、そのまま地面に倒れた。


 今度は右足が折れたようだ。


 しかし、そんなことには構わず、這うようにしてミミズへトドメを刺すべく近づく。


「もうやめてください!!」


 そんな俺に覆いかぶさるようにタマちゃんが抱き着く。


 やめろ!離せ!!


「これ以上動いたらタイセイさんが死んじゃいます!!」


 それがどうした?


 俺にミミズをらせろ。


 邪魔をするなら――


 その時の感情は殺意と呼ばれるものだったのだろう。

 ミミズに向けていたものとは、全く別の種類の悪意。


 俺は握っていたナイフを逆手に持ち直し、背中を狙えるようにした。


 そして――


「ガフッ!!――がっ……あが……ががが」


 血反吐を吐いて、想像を絶する痛みに気が狂いそうになった。


「タイセイさん!!タイセイさん!!」


『スキル「気分上々」(特大)の効果が終了しました。

 スキル「気分上々」(特大)は廃棄されます』


 効果切れ……。


 俺はその瞬間、それまでの自分のやっていた行動を理解した。


 うん、そりゃこうなるよね。


 痛くないからって、骨の折れた身体で無茶したんだからさ。


 その上、俺はタマちゃんを……。


「タイセイくん!!しっかりして!!」


 ああ、トリュフさんも無事だったんだ……。


「ゴフッ!!」


 どす黒い血が口から飛び出す。


「いやあ!!タイセイさん!!」


 タマちゃん泣かないで……俺は君に泣かれる資格なんて無いんだ……。


「タイセイくん!!すぐに町まで運ぶから!!」


 トリュフさん……ちょっと変わっちゃったけど、依頼は達成出来そうですね。


 本当に良かった……。

 俺の為に命を賭けようとしてくれた二人が無事で……本当に……。


 視界が暗くなっていく……。


 二人の俺を呼ぶ声も段々と小さくなっていく……。


「タイセイさん!!しっかりしてください!!死なないで!!」


 さようならタマちゃん。

 良いパートナーが見つかることを祈っているよ。


 さようなら……。


『コモドオオワームを倒しました。

 経験値1500を手に入れました


 レベルが12上がりました。

 各種ステータスが上昇しました。

 スキル装備スロットが12増加しました。

 HPとMPが全回復しました』



「タマちゃんただいま」


「いやあああああああああ!!」


 その日一番の悲鳴だった。



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