盗賊の襲撃はあったものの、俺たちの乗った馬車は無事にワリトークの町に到着した。
人口は千人ほどの小さな町だったが、穏やかな雰囲気のした町で、俺には王都よりも落ち着く感じがした。
「さて、着いてすぐなんだけど、早速コモドワームが出るっていう場所に行ってみましょう」
トリュフさんは張り切った様子でそう言ったのだが――
「これ、どうします?」
俺は馬車の後ろに引きずられたままの盗賊たちを指さした。
全員がトリュフさんの火傷と、ずっと引きずられ続けて出来た擦り傷でボロボロだ。
「どうするって?」
何で疑問形で返されるのか。
昔の結婚式じゃないんだから、ずっと馬車のオプションにしとくわけにいかないでしょ?
そのうち腐っちゃうよ?
「どこかに引き渡すとかしないんですか?」
「お嬢様、こちらは私どもで処分しておきますので」
給仕のジョセフィーヌさんがそう言ってきた。
でも、処分はしないでね。処理して。
「あら?いつも悪いわね」
そう言ってトリュフさんはジョセフィーヌさんに微笑みかける。
いつもなのね。それでどうするか知らなかったんだ。
「ジョセフィーヌさんたちは一緒に来ないんですか?」
とりあえず聞いてみた。
「私どもはあくまでもトワリューフお嬢様のお世話をするものですので」
やはり、そんな建前見え見えの答えが返ってきた。
「そりゃそうですよね!タイセイさんも変なこと聞きますよね?」
タマちゃん、君は昨日の夜、寝ながら戦ってたのか?
「さあ、コモドワームのところへレッツゴー!です」
カレラさんが張り切ってたらバレるでしょうが。
で、そのコモドワームが出ると言う場所なのだが、ワリトークのすぐ近くにある森の中。
そこにある泉に住み着いているということだった。
「コモドワームって名前からすると、大きなミミズみたいなやつ?」
俺は今更ながら聞いてみた。
もしかしたら俺の想像よりも大きいとかだったらマズイしな。
「ミミズって何ですか?」
と、タマちゃん。
「えっと、ミミズっていうのは、こうにょろにょろした虫みたいなやつで……」
俺は自分の身体をくねくねと動かしてミミズの説明をした。
「え……気持ちわる……」
それはミミズの話だよね?
その顔やめて。
「そんなにくねくね気持ち悪くはないですけど、手足の無い芋虫の大きな奴ですよ」
ほう、俺はそいつよりも気持ち悪いと?
で、ミミズは分からなくても、芋虫は知ってるのね。
気持ち悪がられただけ損したわ。
「コモドワームは個体によって大きさが違うけれど、今回の依頼にあるのは5メートルくらいのやつね」
トリュフさんが補足してくれる。
5メートルのミミズ……。
餌にしたらクジラが釣れそうだな。
「湿ったところが好きだから、それで泉の近くに住処を構えたんでしょうね」
「何だか、トリュフさん一人でも大丈夫そうな気がしますけど」
大きくてもミミズでしょ?
本当に俺たち必要?
「大きさの割に結構動きが素早いっていうのもあるけど、あいつがやっかいなのは魔法を使うのよ」
「え!?」
ミミズが魔法!?
猫もどきのタマちゃんでも使えないのに?
――ヒュン!!
「あ、ごめんなさい。つい――」
……タマちゃん、人のいるところで剣の素振りは危ないよ。
「昨日の事で分かったと思うけど、私は魔法の準備に結構時間がかかるのよ。だから、二人にはそれまでの時間を稼いでもらいたいの」
「俺たちだけでは倒せそうにないですか?」
こう見えて、結構な数の魔物を倒してきているんだ。
大きなミミズくらいなら、魔法を使われる前に倒してしまえないだろうか?
「うーん、どうかしらね?一応Dランクの依頼の相手だから。出来れば、手伝ってくれている2人には怪我とかしてほしくないし」
確かに、俺たちだけでなんていうのは思い上がりかもしれない。
少しくらい経験を積んだからといって、2ランク上の知らない魔物と戦うのは迂闊すぎる。
「分かりました。トリュフさんの作戦でいきましょう。俺たちがコモドワームの注意をひいて時間を稼ぎます」
本当なら、俺が止めを刺してステータスを取りたかったんだけど、それで大怪我したら意味がない。
「タマちゃんもそれで良い?」
「はい。猫もどきで魔法は使えませんけど、それくらいなら大丈夫です」
具体的に心読むのやめてもろて。
「じゃあ、早速やりましょうか?」
そう言うとタマちゃんが手に持ったままだったロングソードを構える。
え?殺るの?俺を?
「二人とも!来ますよ!!」
しかし、そのロングソードが俺の首を刎ねるなんてことはなく、目的地である森の方へと向ける。
森までまだ1キロくらい。
そして泉はその更に奥のはず。
と、いうことは他の何かがタマちゃんの気配察知にかかったということか?
そんなことを考えながらも、俺はナイフを握る。
しかし、俺の視界にはまだ何も見えない。
「タマちゃん…敵はどこか――」
「来ます!!」
タマちゃんが叫んだ瞬間――俺たちの目の前の地面が吹き上がったかと思えば、そこには巨大な口を開いたミミズのような魔物が現れた。
「くっ!!下から!?」
俺たちは反射的に後方へ跳んで、その魔物との距離を取る。
これがコモドワーム?
5メートルどころじゃないぞ!?
その魔物は、地面から突き出ている部分だけでも5メートルはゆうに超えている。
「噓でしょ……」
トリュフさんの驚愕とも思える声が聞こえる。
「こいつはコモドワームじゃないわ!!」
それは恐怖心を打ち消そうとしたかのような叫び。
「こいつはコモドワームの上位種――コモド
ネーミングセンス酷いな!!