トリュフさんの応援に向かった俺だったが、その速度は近づくにつれて遅くなっていった。
もうね、行かなくて良いんじゃないかって、途中で思っちゃったのよ。
だってさ――
トリュフさんに近づいてくる盗賊たちが、メイドっぽい女の人に蹴り飛ばされては飛んで行くし。
ワインをついでた男の人は、ワイン瓶で刃物を受け止めては、返す刀で殴り倒していくし。
時折給仕の人が投げている皿が、タマちゃんの矢よりも高い命中率で頭に直撃していくんだよ。
多分、もう一人の人が投げてる皿が、タマちゃん側のやつだよね?
パリンパリンいってたやつ。
で、次々と盗賊が倒れていく中、トリュフさんはまだ詠唱を続けている。
俺たちここにいても大丈夫そ?辺り一帯吹き飛ぶような魔法使うつもりじゃないよね?
まだこの世界の魔法を見た事無いからさ、どんな規模なのか見当がつかないんだけど。
そうして、俺が到着するよりも早く、後方から襲ってきた盗賊は全滅した。
えっと、じゃあ、俺はこの辺で……。
役目は果たした。
タマちゃんたちの方も静かになったようだし、あちらも終わったんだろう。
なので、急いでこの場から退散させてもらおう。
「逝きますよ!!」
生かせてください!!
最悪のタイミングでトリュフさんの準備が完了してしまった。
トリュフさんの頭上に突如として現れた強大な火の玉……超強大な火の玉。
わあ、明るいやあ。
いや!トリュフさん!もう終わったから!!
これ以上は俺たちが終わるから!!
「ファイヤアァァァー!!」
待って!どこ目掛けるつもりなの!?
ほら!みんなもう伸びちゃってるよー!!
「パレットオォォォ!!」
超巨大な火の玉は無数に分裂して、もの凄い勢いで辺り一面に降り注いでくる。
ぎゃあぁぁぁ!!
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「人で無しぃぃぃ!!」
あ、盗賊さん可哀そうに……。
動けなくなっていた盗賊へ容赦なく襲い掛かる流星のような火の玉。
意識を失っていたやつも目を覚まして、身体から炎を燃え上がらせながら元気に転げ回っている。
元気そうで何より。
そしてよく見ると、正確に倒れた盗賊だけを狙っている。
いや、正確にじゃねえよ。
倒れた盗賊を狙う時点で考え方がヤバいから。
「さあ!動けなくなったところを捕まえましょう!!」
と、魔法を撃ち終えたトリュフさん。
動けなくした相手を無理やり動かした上で、もう一度動けなくしたとこに対して何かコメントはありませんか?
「私どもは、あくまでもお嬢様の身の回りの世話をいたす者でございます」
メイドっぽいと言っていた女の人がそう言った。
やはり本職はメイドらしい。
「お嬢様?トリュフさんが?」
タマちゃんが驚いたような声を出す。
「はい。トワリューフお嬢様は、フランスワーズ侯爵家のご息女であらせられます」
「まあ、別に隠してたってわけじゃないんだけどね。わざわざ言って回ることでもないしって感じかしら?」
ええ、隠してるようには見えないですよね。
お世話係連れて冒険者とか。
「えっと、皆さんかなり強いようでしたけど……」
「冒険者のお嬢様に同行するのですから、最低限自分の身を護れるようでなければなりませんので」
「……俺たちよりも強いですよね?」
「日々の鍛錬は欠かしておりませんので」
「俺たちよりもこの人たちと依頼やった方が早いんじゃ……」
「ジョセフィーヌたちはあくまでも一般人ですから、依頼を手伝ってもらうわけにはいかないのですよ」
「でも、トリュフさんの安全を考えたら、俺たちが手伝うよりもジョセフィーヌさんたちも――」
「カレラです」
「はい?」
「わたくしの名前はカレラと申します」
「え?いやトリュフさんがジョセフィーヌって……」
「ジョセフィーヌはわたくしでございます」
そう答えたのは、タマちゃんの横で皿を投げていたおじさんだった。
ちょっとお父さんかお母さんを呼んできてもらっても良いですか?
「えっと…カレラさんたちも安心なんじゃないですか?」
「いえ、先ほどの戦いは陰から見させていただきました。タイセイ様たちであれば、わたくしたちも信頼してお任せできます」
陰から?俺たちよりあなたたちの方が大活躍だったと思うけど?
「それに、冒険者の道を選ばれたのはお嬢様ご自身でございますので、その身に危険が及んだとて、ご自身の責任でございます。それが家を出る時に旦那様と交わした約束ですので」
「え?でもさっきは――」
「あら?でも何でタイセイくんはカレラたちが強いって知っているのかしら?」
「何で?って――」
「おそらく、タイセイさまは我々の立ち振る舞いから察したのではないかと」
「いや、さっき…あれ?」
「そうでございますよね?
カレラさんの圧が強い!!
選択肢を間違えたらバッドエンド一直線なくらいの圧を感じる!!
「……ハイ、ソウデス」
「へえ、やっぱりタイセイくんて普通のFランクじゃないわよね。タマキちゃんと2人で盗賊20人を倒しちゃう手際も見事なものだわ」
ああ……トリュフさんて、詠唱中は集中しすぎて周りが見えてないタイプの人なんだ。
でも、良いよね。
陰から見守る必要がなくて、堂々と助けても気付かれないんだからさ。
ん?だとしたら……。
最初にトリュフさんが言ってた他の人って……誰のことだったんだろう?