パーティーを組むことになった俺とタマちゃんは、まずは俺の装備を何とかしないといけないということで、お姉さん推薦の武器屋に向かったのだが……。
右手にはリンゴの皮なんかいとも簡単に剥けそうな鋭く短いナイフ。
胸には段ボールよりも少し固い薄皮で出来ていて、その中心におしゃれな円形の焼き印の入った立派な胸当て。
以上!!
これが俺の初期装備だー!!
いや、お金はあるよ?
王様のへそくりがまだまだたんまりと。
でも、武器も防具も、それぞれに装備出来るレベルとステータスがあるとかゲームすぎない?
武器屋でレベル1だって言ったら、ナイフと胸当てを台所から持ってきたんだぜ?
絶対に普段使ってたやつだよね?
この胸当ての焼き印――鍋敷きとかに使ってた跡だよね?
「えっと、私は似合っていると思いますよ……そのくだ……短剣」
タマちゃん、これが似合ってるんだったら、俺は一生レベル1から抜け出せないよ?
それと、これ短剣だから。果物ナイフに見えるかもしれないけども。
「最初はこんなもんで仕方ないんだろうね……はあ……」
「わ、私も、まだ木の弓矢しか使えませんから」
タマちゃんの職業は『弓使い』だ。
本来の獣人と人とのハーフだったら、生まれつきの職が何であれ、その身体能力を生かした前衛職に転職する人がほとんどらしい。
でも、タマちゃんはナンチャッテ獣人ハーフなので仕方ない。
城門を抜けた街の外は、穏やかな平野が広がっていて、遥か彼方に森のような影がうっすらと見える。
そこまでかなりの距離がありそうで萎える。
最初に受けた依頼は、お約束の『薬草採集』。
回復剤の素になる薬草を指定された数量分ギルドに納めれば依頼達成だ。
しかし、その薬草が採れるという森が、あの蜃気楼のように見えている場所らしい。
「はあ、はあ、はあ……」
もう着く?まだ?え?まだ半分も来てないって?
「タイセイさん、大丈夫ですか…?休憩します?」
だいじょばないです……。
めちゃめちゃ死にそうです……。
俺、こんなに体力なかったっけか?
「い、いや…大丈夫だから……このまま…森まで……」
今モンスター出てきたら、スライム相手でも余裕で負ける自信があるぞ!!
「タイセイさんがそう言うのなら……でも、無理しないでくださいね」
歳が変わらなさそうな女の子が平気な顔して歩いてるのに、先に弱音を吐くわけには――
「森まで、あと三時間くらいかかりますから」
「タマちゃん!!休憩しよう!!」
残りが3分くらいだったなら頑張るつもりだったよ?
そして昼をかなり過ぎた頃、ようやく森の入口へと辿り着いた。
「……本当に大丈夫ですか?」
「……ダイジョウブ……オデ……イキテル」
「なら、早速薬草を探しましょうか。今日中に街に戻ることを考えたらあまり余裕が無さそうですから」
鬼……いや、鬼猫……。
「タマちゃんはどの薬草か見て分かるの?」
俺には全部同じ雑草にしか見えない。
「今回の依頼の薬草はポピュラーなものですから大丈夫です。タイセイさんも教えたらすぐに覚えられますよ」
そうかな?
俺を甘く見てはいけないぞ?
「とりあえず、覚えられるように頑張るよ――あ、あれは知ってるぞ」
話しているタマちゃんの後ろに、水色のぷよぷよしたバランスボールみたいなのがいた。
あれこそめちゃめちゃポピュラーな定番雑魚モンスターだ。
「スライム!?」
そう、スライムだ。
ん?タマちゃんのリアクション違うくない?
「タイセイさん!マズイです!スライムですよ!」
うん、スライムだね。
何でそんなに慌ててるの?
「魔法が使えない私たちじゃあ、相性が悪すぎます!」
「え?そうなの?」
「あいつは物理攻撃に少し耐性があるんですけど、普通の冒険者の攻撃だったら問題なく倒せます」
「やっぱり弱いんだ」
「でも、私たちは普通以下の冒険者なんで倒せません!!」
「はっきり言うね」
卑下しすぎじゃない?
「本当ならああいうのを倒してレベル上げしないといけないんですけど――」
タマちゃんはスライムに向けて矢を放った。
矢はその艶やかなボティに当たると――ぽよん♪と跳ね返した。
「――こういう事です。多分、タイセイさんの果物ナイフでも同じだと思います」
今、はっきりと果物ナイフって言ったね?
やっぱり短剣だとは思ってなかったのね。
「でも、無視しても問題無さそうじゃない?」
動き遅そうだし。
「――はっ!確かに!倒すことばかり考えていたんで、それは盲点でした!!」
戦闘狂みたいなこと言うね。
「じゃあ、あれは無視して薬草を探そうか」
スライムはぽよんぽよんと体を揺らしながら、ゆっくりと近づいてきている。
顔とか無いけど、動き見てると可愛いな。
目の前まで近づいてきて、こちらをじっと見ている(ような気がする)。
「タイセイさん、スライムは攻撃力はほとんどないですけど、一応気を付けてくださいね」
ぽよよんと跳ねて、俺の胸辺りに飛び込んできた。
受け止められるかな?
「大丈夫だよ。こいつ、よく見たら意外とかわ――ゴホオォォォォ!!」
もの凄い衝撃が胸の辺りに感じて、俺は地面を転がりながらぶっ飛んだ。
「――ゴッ!――ガッ!――グハァ!!」
10メートルほど吹っ飛ばされて、そこに生えてあった木に激突して止まった。
「タイセイさーーーん!!」
タマちゃんの叫ぶ声が近づいてきている。
慌ててこちらへ走ってきているようだ。
何?何がどうなった?全身がめちゃめちゃ痛いぞ。
「タイセイさん!!大丈夫ですか!?」
タマちゃんが泣きそうな顔でふらふらと立ち上がった俺の顔をみている。
「大丈夫…大丈……ガフッ!!」
「イヤーー!!吐血したーー!!何でスライムの攻撃でそんなに大ダメージを受けてるんですかー!?」
それはこっちが聞きたい。
レベル1だからか?職業『その他』だからか?
『職業【その他】のステータスはステータスインベントリ内にあります』
え?
『職業【その他】のステータスを装備しますか?YES/NO』
ナビの声が突然聞こえた。
――は?ナニイッテルノ?
ステータスを装備?どういうこと?
『職業【その他】のステータスを装備しますか?YES/NO』
「……YES?」
『召喚者ソノダ・タイセイは職業【その他】のステータスをメイン職業スロットに装備しました。
職業【その他】は、ソノダ・タイセイの根源職業でした。
職業【その他】のステータスがメイン装備スロットに固定されしました。
これにより、今後メインステータス装備スロットの変更が出来なくなりました。
職業【その他】のステータスが反映されました。
称号「マルマールの使徒」の効果により、召喚者ソノダ・タイセイのサブ職業スロットが解放されました。
称号「マルマールの使徒」の効果により、召喚者ソノダ・タイセイのスキル装備スロットが解放されました。
称号「マルマールの使徒」の効果により、召喚者ソノダ・タイセイのステータスインベントリが拡張されました。
ファースト装備ボーナスとして経験値100が送られました。
レベルが1上がりました。
各種ステータスが上昇しました。
スキル装備スロットが1増加しました。
HPとMPが全回復しました』
え?……ステータスって装備しないと駄目なの?