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第5話 猫の手も借りたいので

「では、ソノダ・タイセイ様。職業は無職。レベル1で登録させていただきます」


 結局無職で押し切られてしまった。

 そして、いつの間にかお姉さんがメインで担当してくれてる。


「出来るだけ早めに何らかの職業に就くことをお勧めいたします。スキル等を持たない状態での冒険者活動は危険すぎますので」


 お姉さん、どうもスキルは覚えることが出来ないらしいのです。

 というか、今からでも職業って変えれるの?

 変えたら覚えられる?


「あの、職業って変更出来るんですか?」


 あれ?二人が変顔してる。


「そんなことも知らないって、よっぽどのド田舎者でございますですか?」


 ――ゴン!!


「――失礼いたしました。職業は、レベルを上げていくことでステータスのパラメーターが一定値に達することで選択することが出来るようになります。本来は、生まれつきステータス関係なく何らかの職業を持っているのですが、極極まれにソノダ様のように何も持たない方もおられますので、これからきっと素晴らしい職業に就くことが出来ますよ」


 丁寧な説明と懸命なフォローありがとうございます。


「じゃあ、まずはレベル上げないとですね……」


「そうですね。最初は簡単な依頼をこなしながらレベルを上げていくのがよろしいかと。あちらの掲示板に依頼が貼られておりますので、依頼を受ける際は、その依頼書をカウンターまでお持ちください」


 おお!異世界っぽい!


「それと、こちらがソノダ様の冒険者カードになります。最初ですので、Fランクからのスタートになります。このランクによって受けられる依頼の種類が変わってきますので、依頼書に表記されているランクと照らし合わせて選んでくださいね」


「Fランクで受けれそうな依頼ってどんなのがありますか?」


 大体想像つくけども。


「Fランクですと、街の中での清掃とか雑用がメインでしょうか。郊外ですと、近隣での薬草採集が多いですね」


 ですよね。


「レベルを上げたいのであれば、薬草採集をしつつ低ランクのモンスターと戦うのが良いとは思うのですが……その……最初からソノダ様お一人で、となりますと……」


 レベル1では不安ですか?

 俺はめっちゃ不安です。


「他の方と組んでという方が安全かと思います。いえ、絶対にそうした方がよろしいかと!!」


 ここまで心配される冒険者とは?


「あ!それでしたら私にちょうど良い心当たりがありますです!!」


 お前、少し頭の形変わって来てるけど大丈夫か?


「たまー!!たーま、たまたまー!!」


 猫でもいるんかな?


 ラバンダが大声でそんなことを叫ぶと、テーブルについていた少女が反応してトテトテトテと歩いてきた。

 見た目は人間の少女だったが、ボブの黒髪から二つの猫耳がにょきっと伸びていた。

 その後ろからは三毛の尻尾がゆらゆらと揺れている。


 猫おったな。


「ラバンダさん、何か御用ですか?」


 尻尾触らせてください。


 何で二人ともそんな目で見てくるんですか?

 何も言ってないですよ?


「何となく何を考えているか分かりますですよ」


「あ、あの、ラバンダさん、む、昔からよく触らせて欲しいって言われるんで、私は全然気にしてないですから」


 君も気付いてたのね。

 でも、口には出してないからね。

 本気で思ってはいるけど。


「そ、それで、何の御用でしょうか…?」


 何でこの娘は、こんなにビクビクしているのか?


「この娘は、タマキですます。猫の獣人と人間とのハーフで、駆け出しの冒険者でありんす」


 お前はどんどん駆け出しの人間みたいな話し方になってるぞ。


「あ、どうも、たった今登録したばかりの初心者で、ソノダ・タイセイっていいます」


「は、はじめまして……タマキ……です…」


 顎とか撫でて良い?

 あ、冗談なんでその変質者を見るような目はやめてください。


「ちょうどタマちゃんも一緒に依頼を受けてくれる人を探しまくってましたんで、ソノダさんにちょうどぴったりマッチングかと思いマース」


 突っ込んだら負け、突っ込んだら負け、突っ込んだら負け……。


「え!?私と一緒に依頼受けてくれるんですか!?」


 近い!近い!近い!

 そんなに顔を近づけられたら――その猫耳を……逃げるの早くね?


「タマキさんですか……ソノダ様」


 お姉さんはどうも微妙な顔をしている。


「獣人と人間のハーフというのは、獣人の優れた身体能力と人間の器用さを併せ持っているという、冒険者としてはかなり優秀な種族なのです」


 タマキはお姉さんの解説に照れたようにクネクネ身体を揺らしている。


「そんな凄い子が、初心者の俺と組んでくれるんですか?」


「なのですが――タマキさんは…その……」


「あ、あの、私、獣人の父親と人間の母親の間に生まれたんですけど……」


 うん、多分お母さん似だよね。

 ナイスバランス!!


「人間の母親からの遺伝子を99%受け継いでいて、獣人の父親から受け継いだのは、この耳と尻尾だけでして……なので能力的には普通の人間と同じなのです…」


 そうはならんやろ!!


 メンデルに謝れ!!


「ごめんなさい!!」


「違う違う違う!!謝らないで!!」


「いや、なんか急に誰かに謝らないといけないような気がして……」


「まあ、そういう理由がありまして、彼女もレベル3のままで誰もパーティーを組んでくれないので、なかなか外での依頼を受けることも、レベルを上げることも出来なくて…」


「はい……すいません……」


 それでそんなに怯えるくらい卑屈になってたのか。


「でも、そんな彼女と、レベル1の自分が組んでも、お互いに役に立て無さそうですけど……」


 さっきの話だと、俺は最低でも自分を守ってくれるくらいの相手じゃないと意味ないよね?

 で、彼女もサポート出来るような相手じゃないと駄目だし。


「私もそうは思いますが……ラバンダ、何か考えがあるのかしら?」


「ありますですよ!!」


 ほう、自信満々だな?

 嫌な予感しかしないがな。


「無職のレベル1と組んでくれる相手なんて、タマちゃん以外この世界中、ミジンコ含めて探しても存在してないですます!!そして――タマちゃんも、いざとなったらこの人をおとりにして逃げれば良いから、まさに一石二ちょ――」


 ――ゴキン!!!


「ほんと―に!!うちの馬鹿が重ね重ね申し訳ございません!!」


 ラバンダの首が体にめり込んでるけど大丈夫そ?


「あ、あの、わた、私で良ければ…い、一緒に依頼を受けてもらえませんか…?」


 え?今の流れで?

 いや、まあ――


「そりゃ、俺としてはミジンコ以下の微生物の中から探すわけにはいかないんで、一緒に依頼を受けてくれるって言うなら助かるけど…」


 考えてみたら、彼女はレベル3らしいし、何かの職業を持ってるなら俺を守ってもらえそうだからね。


「本当ですか!!絶対に足手まといにはなりません!!いや……そうならないように努力します……はい……」


 どっちかというと、足手まといになるのは絶対に俺なんだけどね。


「ソノダ様…本当によろしいんですか?タマキさんも…」


「まあ、お互い一人よりはマシなんじゃないですか?いざとなったら、俺がおとりになりますから」


「駄目です!!絶対にそんなことはさせません!!」


 お、おう…。

 急に力強くなったな……。

 こっちが素なのかな?


「まあ、冗談は置いておいて。本当に俺と組んでくれるなら、こちらから是非お願いしたい」


「そんな!!こんな私で良ければ末永くお願いします!!」


 プロポーズかな?

 ラッキー。


「プロポーズではないですが、お二人がそれでよろしいと言うのであれば、私もこれ以上言うことはございません」


 この世界の人、本当に怖いな。


「でも、絶対に無茶はしないと約束してくださいますか?」


 この人は本当に俺たちのことを心配してくれてるんだな。

 それに引き換え――


「ほうら!私の考えは間違ってなかったでやんすよ!!」


 ――ボキッ!!



 お姉さん、早く新しい職員が見つかると良いですね。




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