「おお!勇者よ!死んでしまうとは情けない!!」
綿菓子みたいなもこもこ髭にぽっちゃりなおっちゃんが目覚めた途端にとんでもないことを言ってきた。
絶対にこのおっちゃんが王様だな。
「王様、台詞が違います。こちらが――」
隣に立っていたちょび髭のおっちゃんが王様に何か本のようなものを見せている。
台本かな?
「おお!勇者よ…よくぞ我の呼びかけに…おう?えて?」
「――応えて」
ちょび髭が台本を見せながら教えている。
「応えてくれた!心から……」
「――感謝」
「感謝する」
この世界にも漢字あるんか?
そんなぐだぐだな王様をほっといて、周りを見てみると――
ブレザーを着た女の子が一人。
眼鏡をかけた制服姿の小柄な男の子が一人。
プロレスラーかってくらいのムキムキで制服の前を開けっぱの男が一人。
彼らが勇者候補として召喚された三人だろうな。
三人とも状況が分からず、やはり王様を無視してキョロキョロしている。
「――その力を是非」
「その力を是非!!」
「――我らに貸してはくれないだろうか」
「我らに貸してはくれないだろうか!!むふぅ!!」
いつの間にかちょび髭が追い越してんな。
昔テレビでこんな謝罪会見観た気がするぞ。
「あ、あの……」
ブレザーの女の子がおずおずと手を上げる。
長い髪をポニーテールにしている彼女は、ここから見る限りは利発そうな印象を受ける。
多分、学級委員長とかやってそうだな。
うん、委員長と呼ぼう。
「おお!勇者殿、何か質問がおありかな?」
何とか台詞を言い終えたからか、めっちゃ上機嫌だな。
「ここは……どこなんでしょうか?私は、いえ、私たちはどうしてここに?」
委員長が周りに自分以外にも学生がいることを確認しながらそう言った。
「えっと……それを今説明したんじゃが……」
「すいません、全然頭に入ってこなかったです」
混乱してるとこに輪唱で言われても聞いてるわけない。
俺はミ〇ュランマンみたいなのに話を聞いているから多少落ち着いているけど。
「では、私が改めて説明いたしましょう」
ちょび髭が王様に蔑むような視線を送っている。
王様の威厳どこいった。
「ここはアルデナイデと呼ばれる世界です。そしてこの国はタブンナ王国といいます」
はっきりしないところだな。
「私はこの国の宰相を務めさせていただいております、カブンニ・エラソーナと申します。そして、これ――こちらが国王のカザリーノ三十四世国王陛下でございます」
名前だけで力関係が見えたな。
しかも代々とか可哀そうに。
「今回、皆さまをお呼びした目的は、この世界に現れた恐怖の魔王を、勇者である皆さま方のお力で討伐していただきたいのです」
「私たちが勇者……魔王を倒す……」
さっきまで普通の学生だったんだから急にそんなこと言われても困るよね。
「やります!!」
は?なんて?
「私、勇者やります!!――っしゃ!!異世界召喚キターー!!」
委員長?まさか君――
「私こういうのめちゃめちゃ憧れてたんだよね!!毎日ラノベ読みまくって、いつか自分も異世界行けないかって悶々と過ごしていた日々よサヨウナラ!!こんにちは!!新しい勇者な私!!」
そっち側の人だったか。
「……お、おう」
ほら、ちょび髭もドン引きしてるじゃん。
「なあ、本当にここは異世界なのか?勇者って言われても俺たちは普通の学生で、魔王と戦うとか無理じゃないか?」
プロレスラーの彼が体に似合わない慎重なことを言う。
違う、お前はもっと考えなしに「俺様に任せとけ!!」とか言うキャラだろ。
「それに関しては大丈夫です。皆さまのように世界を渡ってきた勇者には、その際に特別な職業と強力な固有スキルが与えられているはずでございます。ステータスオープンと頭の中で念じてくださいませ」
いちいち声に出さなくて良いのは助かる。
「ステータスオープン!!」
けど、委員長はどうしても言いたかったらしい。
右手を広げて突き出してるけど、そこから何か出るんかな?
「目の前にステータスボードが表示されていると思いますが、それは他の者には見えません。ええと、では、女性の――」
「ステータスキターー!!ホントにゲームのやつみたい!!レベルとかジョブとか、体力や魔力以外の細かい能力値も数値化されてるのね。それぞれの数値でどれくらいの影響があるのかしら……」
「そちらの女性――」
「レベルがあるってことは経験値で上がっていくのよね。その時に各数値は一定で上がるのか、それともジョブによって偏りがあるのか、はたまた――」
委員長、ちょび髭が泣きそうになってるから話聞いてあげようね。
「私のジョブは【
イメージ的に【聖女】とかだと思ったけど、戦闘職だとは意外だ。
いや…そうでもないか。
こんなハイテンションな聖女のイメージも無いや。
「おおお!!何と!!聖騎士ですとな!!かつての魔王を滅ぼしたと言われている勇者も聖騎士だったと伝えられておりますぞ!!」
ちょび髭のテンションも委員長に負けてないな。
半泣きだったくせに。
「レベルは30。最初から30っていうのは召喚ボーナスなのかしら?あと、固有スキル――《聖なる乙女の口づけ》?……何このスキル?えっと…ここを…押せば良いのね?」
委員長は何やらぶつぶつ言いながら目の前の空間に指を走らせている。
ステータス画面を触っているんだけど、なかなかシュールな絵面だな。
「ステータス常時20%上昇。対魔族攻撃力20%上昇。対魔族防御力20%上昇。HP常時回復(小)……微妙?」
いや、全然微妙じゃねーよ。
魔族に限っていえば、何もしてない状態で元のステータスが144%だぞ?
しかも、そこに武器やら魔法やらでバフ乗るって考えたら、元の土台が常に底上げされるってだけで、めちゃめちゃ反則だわ。
その上、ダメージ受けた先から回復していくとか……。
「いえいえ!これは素晴らしい能力ですぞ!!そのような壊れスキルは聞いたこともございません!!しかもすでにレベル30!!まさに勇者に相応しい力を備えておいでです!!」
ちょび髭は血管がブチ切れるんじゃないかってくらい興奮している。
後ろで王様も何か言いたそうなリアクションしてるけど、ちょび髭が手足をバタバタさせているから全然見えない。
もう少し王様のこと考えてあげなー。
「えー、でも、私はもう少し派手なスキルが良かったなあ……山とか一発でぶっ飛ばせるようなのとか、海を真っ二つに割ることが出来るのとか」
委員長もこれ以上みんなを引かせるの止めなー。