船体は大きく揺れ、波が高く飛んでいる。
爆発の音は途絶えなく、乗客たちの悲鳴と船員の叫び声に交じり、次々と耳に襲ってくる。
「ギャー!!」
「皆様、柱や壁を掴んでください!」
十数分前に、ウィルフリードの配置図に従って、いくつの爆弾を起動した。
あの船体を震わせる爆発が起きた瞬間、本当に自分のせいだと思った……
いいえ、違う。
せんじ詰めると、爆弾を仕掛けたウィルフリードのせいだ……
でも、真実はもっと残酷なもの――爆弾ではなく、砲撃だ。
この船は海賊に狙われた。
海賊船は牙を剥いた狼のように、子羊如きの客船に襲いかかってくる。
攻撃はあまりにも突然。
反応の早い人は船室に逃げ込んだけど、パニックになって、甲板から一歩も動けなくなる人もいた。
「甲板にいる皆様、しっかり掴んでください!今助けに行くから!」
「もう少しの辛抱だ!必ず抜けられる!」
「無駄です。普通の客船は到底海賊船に勝てません」
ウィルフリードは片手で舷側の垣立を掴んで、余裕そうに爆発の光に照らされた荒れ波を眺めている。
もちろん、私も彼もパニックで動けなくなったのではない。
事態を確認するためにわざと甲板に残っていた。
「せっかくの船旅なのに、ここで終わるとはね、本当に残念です」
「『恥』以外に、『不謹慎』という人間の言葉も知らないの?」
!!
爆発の波がまた襲ってきて、船は急に大きくカーブした。
垣立を掴んでいる両手が一瞬の麻痺で力を失い、体が後ろに倒れていく。
「危ない!」
ウィルフリードは片手で速やかに私の腰を受け止めて、そのまま私を腕の中に囲んだ。
さっそく目の前の垣立を掴んでバランスを取り戻す。
「あ、ありがとう……」
彼に助けられたことに少し悔しい。
先のように気を散らしてはいけないと心の中で自分に警告を出した。
「もう僕たちの力で解決できることではありません。体力を温存して、後のことに備えたほうが賢明です」
ウィルフリードの口調は少し真面目になった。
「わかってる……」
頭を下げて唇を噛み締めた。
予言などを信じたことがない。
でも、サン・サイド島への船に乗る前に出会ったあの変な女に言われたことは一つ一つ現実になっているようだ。
最悪の状況を考えなければならない……
そう思ったら、ウィルフリードはまた空気を読めない発言を始めた。
「掴まれたら、貴族や身分のいいものは最初の生贄になるでしょう。運がよければ、身代金を出して命くらい拾えるかもしれません。運がまあまあの場合、無人島に追放されたり、小舟に乗せられて海に流されたり、九死一生。運が悪かったら、手足が刈り取られて、海に沈められます。まあ、個人の運というより、海賊たちの気持ち次第だけどね」
言っていることはともかく、われ関せずの口調だけでも耳に刺さる。
「そう?あんただったら、どんな方法で処理されると思う?」
「オレの場合?どれでもない」
興味深い笑顔。
こんな状況で、その自信はどこからのものなの?
私は彼のように気楽でいられない。
あと少し、あと少しなのに。
ずっと探しているものは目の前にあるかもしれない……
いいえ、それだけではない。
あの時選んだ道は、必ず私を望んでいる場所に導くと信じている。
そこに辿り着く前に、絶対、生き延びる……
海風の中でだんだん冷たくなる両手に力を入れて、垣立をもっと強く握った。
「寒いか?」
!
耳元で囁きが響いた同時に、私を囲んだ両腕が少し締まった。
暖かい何かが背中から伝わってきたような気がする。
「ほら、助けがきた」
ウィルフリードの視線が示した方向に目を向けた。
二人の船員はロープを整えていて、こっちに来ようとしている。
「よく聞いて」
ウィルフリードは声を低くして、話しを続けた。
「この船は、海賊に狙われる価値があると思わない」
「!?」
「ウェスト貿易会社のものとは言え、ただの定期客船にすぎない。船と乗客をまるごと売っても、並みの商船の価値に遥か及ばない。それに、何人の貴族も船にいる以上、客船への襲撃は各国への挑発と見なされる可能性がある。国を敵に回したら、さすが海賊もまずいだろう。どう見ても合理な行動ではない」
「だったらどうして……」
「単に間違えたのではないか」
冗談でしょう……
「という考え方もあるが、確率は極めて低いだろう」
「……」
「猪突猛進に見えても、海賊は計画にこだわる一面がある。襲撃する前に、目標の線路、価値、武装などをきちんとと調べ、戦術を検討して、最優なタイミングを狙う」
「随分詳しいね、まさかやったことが……」
「ありがとう、でもまだ経験がない。暇があったらチャンレンジしてみようか」
褒めていないけど……
「じゃあ、ほかに何の理由があるというの?」
「忘れたのかい?金銭は『価値のあるもの』の一部に過ぎない。金銭よりも価値がある『もの』はこの船にあるではないか」
その優雅の目が何を示しているのか分かっている。
可能性が低いけど、ゼロではない。
一人の悪党がお宝の情報を得られるなら、ほかの悪党は同じ情報を得るのもおかしくない。
一人の悪党がお宝を入手するためにテロをすれば、もっと多くの悪党はそれ以上のテロをするのも筋に通る。
その「
「お待たせいたしました!」
船の行進が少し安定になると、ある若い船員が走ってきて、私たちにロープを渡した。
「慌てないでください。こうやってロープを腰に巻いて、少しづつ回収しながら船室に戻りましょう」
船員は手本を見せた。
「大丈夫、オレを信じてくれ」
ロープを手にしたウィルフリードはもう一度私の耳元で囁いた。
「ここまできた貴女のことだから、きっと大丈夫」
ここまできた私のこと?
不思議なデジャブと変な懐かしさを感じたけど、この人は「ここまでの私」を知るはずがない。
形式上の慰めなどいらない。
彼に言われなくても、諦めるつもりはない。
海賊でもなんでもいい、どんなことに遭っても、私は必ず「欲しいもの」を手に入れる。
「捨てられるものを全部捨てろう!手足を止めるな!すべての帆を開けろ!こっちは追い風だ!」
船長は声を絞って咆哮している。
全ての船員は狂ったように動いている。
宴会ホールの中でもその叫びと混乱な音を聞こえる。
「伏せて!」
誰かの警告で、宴会ホールにいる人たちは頭を抱えて安全姿勢を取った。
飛ばされた波の音とはっきりした爆発音が耳に入った。一枚の砲弾は客船の近距離に落ちたようだ。
けど、今の揺れは前の数回より若干弱くなったような気がした。
体を起こして窓の外を覗いたら、やはり、海賊船の明かりは前より遠くなっている。
「思ったよりやりますね。この船」
後ろにいるウィルフリードは微笑んだ。
「抜けたぞ!」
誰か最初の一声をあげたら、人々は安心と歓声を一斉にあげた。
「?!!」
しかし、安心は束の間、足元から急に異常な震動がした。
外からの船員たちの叫びが聞こえる。
まさか……
「危ないです!こないでください!」
甲板に飛び出して、船員たちと同じ方向を見上げると、白い影がちらっと視野に入った。
何枚の帆は船柱の拘束から離れて、風の中で乱舞している。
「よ、予備の帆を……!」
船員たちは飛んだようにあちこちに走った。
けど、もう間に合わない。
追いかけ戦の中で、どんな小さなミスでも致命傷になる。
海賊船は、来る。