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10 私は悪役になる

「この船にいくつの爆弾を仕掛けた。貴女はそれらを起爆すればいい」

ウィルフリードの部屋に戻ると、彼は船の配置図を出して、計画を説明し始めた。

「そんなことをしたら、この船は……」

「大丈夫、火薬の量はちゃんと計算した」

その平穏な表情を見た一瞬、この話を信じてもいいと錯覚した。

でもよく考えてみたら、今まで彼のやったことはどれもいいこととは言えないが、確実な被害がなかったのも事実。

「心配するな、爆弾に簡単な定時装置がついている。貴女は疑われない。オレの言った順番でやれば問題ない」

ウィルフリードは声を低くして、一つ一つの文字をきれいに述べる。

「オレはこれから船長のところに脅迫状を出す。サラマンダの名義で」

「サラマンダ、あの貴族を狙う凶悪犯?確かに、犯罪者名簿にもその名前があった」

「そう、甲板の爆発が始まったら、脅迫状を船長に見せる。内容は『腐った貴族たちへのちょっとしたプレゼント』。一等船室だけに煙幕弾を仕掛けた。ほかのところに爆発があったら、みんなは煙を爆弾だと思うだろう」

「一等船室の人が脱出する機に乗って、中を調べるつもり?」

「それは第一歩」

「次は?」

「青石は部屋に残される可能性が極めて低い。恐れく姫様が持ち歩いている。船室を調べるのは念のため、肝心なのはその後のこと。そこがあなたの出番だ。ちょうど、あなたのその『病気』は道を作ってくれた」

その狡猾な目線から、次の手を大体読めた。

「つまり、私にやってほしいのは、体調が崩れたふりをして、姫様に接近し、青石の在り処を探ること、だよね」

「さすが理解がはやい。オレの人を見る目も怖いものだ」

やや自慢な笑顔がウィフリードの顔に浮かんだ。

「あの姫様の人柄にして、あなたのような病弱少女を放っとけないだろう。特に、こんな危険の溢れた夜。必ず一緒にいてあげると誘ってくる」

「よくも人の善良を利用するのね」

他人を言う資格がないけど、ウィルフリードの悠々とした遊びみないな態度がどうしても気に入らない。

「言っただろ、オレは罪悪感なんかちっとも感じない。あなたが降りると言うならこれ以上強要しない。ほかにも方法があるから」

……私が断ったら、彼はこの船と姫様にどんなワナを仕掛けるつもり?

正直、目的達成のために、私もロクな事を考えいてない。

お互い様か……彼の目は、間違っていないかも。


「わかった」

悪あがきを諦めて、私は頷いた。

「青石の在り処を探し出す。それから……」

「それだけでいい」

「それだけでいいの?」

「手を出したらあなたは疑われる。だから、『在り処』と『形』だけを調べてくれればいい。そのうち、青石は姫様の手元から綺麗に消える」

「……」

意外な言葉だった。

あんな卑劣な脅迫をしたくせに、今更「気遣い」をしてどいう風吹き? 

それとも、別のなにかを企んでいるの。

「今晩はもう十分カオスだ。みんなが興ざめないように、更に盛り上げるのではないか。それに、そうすれば、あの殺人犯を姫様の部屋から引き出せる。一石二鳥だ」

「混乱を楽しんでいるのね」

私のツッコミに、ウィルフリードは否定しなかった。


今までの会話からすると、彼はまだ「青石」の形を知らないようだ。

奇跡を起せる噂があるとは言え、ここまで工夫する必要はあるの? 

理由を聞いても本当のことを教えてもらえないと思う。

もっとも、彼の動機は私にとって意味のないものだ。身の安全のためにむしろ知らない方がいい。

ただ……

「ひとつだけ、聞きたいことがある。どうして私に任せるの?船長にあんたの計画を告発するかもしれないじゃない」

「あなたはそんなことをしない」

自信満々。

「どうして?」

「同業者の感」

「……同業者って、あんた、まさか、まだ私のことを『同業者』だと思っているの?」

そんな根拠のない考え方はもう諦めたと思ったのに。

「『まだ思っている』というより、『確信できた』と言ったほうが正しい」

「何回も言ったけど……あんたのような恥知らずの悪党と一緒にしないで!」

突然に、廊下から騒ぎの音が立てた。

***


「やぱりここにいたんだ!出て来い!もう逃げられないぞ!」

今晩中、こんな凛とした発言を聞いたのは何回目?

あの自称の長い少年はやっと「封鎖」を突破して、一等船室に侵入できたようだ。

「しつこい坊やだな。どこに縛っておけばよかった」

扉を開けて、少年の姿を見たウィルフリードはひと溜息をついた。

あの少年の行動は、彼の予想外のようだ。

赤紫髪の少年は姫様の部屋の前で仁王立ちになって、手に銀色に輝く手錠がぶら下がっている。

部屋の扉は開いたまま、廊下にすでに何人の船員と乗客が集まっている。

私とウィルフリードはひとまず見物の列に入った。


優雅に飾られた部屋の中に、その背景にふさわしくない人がいたーー

ボロボロな服の黒肌の大男。

美しい姫様は男の盾となり、少年の手錠を拒んでいる。

姫様にとっても、状況を理解した観客たちにとっても厄介な場面だ。

勝手にテンションが上がっているのは探偵の少年だけだ。

「きっと何か誤解があるでしょう。姫様はこの男に脅かされたのではありませんか?」

船長の髭が小さく動いた。

こういう場合、貴族の面子を守るために、責任を弱いものに押し付けるのは当然なことだ。

「いいえ、脅かされていません」

「お嬢様」

藍は何かを言おうとしたが、姫様に止められた。

「彼を部屋に隠したはわたくしの意思です」

「なに?!」

「どういうこと?!」

自分の耳を信じられないように人々は騒いだ。

公爵家の姫様は殺人犯の奴隷を庇うなんて、到底想像できないことだ。

「お嬢様、何をおっしゃっているのかご存知……」

「なんてことをした!それでも誇り高き貴族の血を受け継げた公爵家の姫か!正義の心は持っていないのか!」

少年の激しい声は船長の音量をはるかに超えた。

「やつは人を殺した犯罪者だ!法律の裁きを受けるべきものだ!なぜ庇うのだ!」

「それについて、言いたいことがあります」

緊張しているのか、姫様の表情がこわばっている。

「このまま裁判を受けさせたら、この人を待つ結末は、言わなくても分かるでしょう」

大男を安心させるように、姫様は一度彼に振り向いた。

「この人は奴隷です。たとえ過失で人を殺しても、きっと死刑にされます。けれども、同じ場合でしたら、わたくしたちのような貴族や一般の公民は命で断罪しなくても可能です。そのような不公平なことを見たくありません」

「お言葉ですが、犯罪者は裁きを受けなければなりません。確かに、不公平なところもあるかもしれませんが、法律は法律です。奴隷の身分である以上、それは仕方のないことです」

船長も自分の立場を主張した。

「彼たちはどうして奴隷になったのですか。皆様は考えたことはないでしょうか?」

姫様は声を少し高めた。

「それはわたしたちの罪です!平等になる資格がないなんて、利己主義の言い訳に過ぎません。言葉と外見以外に、彼とわたしたちはどこが違いますか?同じように血が流れ、傷つけら、同じ魂を持つ人間ではありませんか?」

「わたくしたちの国は彼たちの土地を侵略したから、彼たちは自由を奪われて、奴隷になったのです。奴隷であることは罪であれば、彼たちを奴隷にした国の国民のわたしたちも同罪でしょう!」

沈黙は急に降りかかった。

一等船室の乗客たちは、ほぼ身分のいい貴族や裕福層の人。

奴隷貿易からたくさんの利益を得た階層だ。

姫様は彼たちが直面したくないことを曝いた。

優しいだけではなく、戦う勇気も持っている。

さすが、天使の聖蹟のような奇跡の力を持つ人……


ここで彼女に反論する人がいれば、悪役にしか見えないでしょう。

でも、このまま黙っていたら一晩中もここから離れないかもしれない。

それに、私の推測が正しいければーーあの男は、単純な可哀そうな奴隷ではない。

……ごめんなさい、心優しい姫様。

彼のしたことを認められない、いいえ、許せないんだ。


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