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00 悪夢と予言

***

13年前、世界各地の孤児院で子供の失踪事件が頻発していた。

失踪した子供は全員女の子。

年齢はほとんど10歳以下の幼児。赤ん坊までいた。

ちょうど、魔術や魔法など神秘な力が密かに台頭する時代だった。

子供たちは失踪ではなく、盗まれ、売られ、悪魔への生贄にされたのではないかと噂が立っていた。

神秘学を信じない人たちも、人の皮を被っている悪魔の存在を信じる。

子供たちは罪深い貴族や富豪たちのおもちゃや食事にされたなど恐怖な噂も広まっていた。

子供失踪がかなり悪質な事件だとみられ、各国の統治者たちは力を入れて事件を調べていた。

しかし、生きている子も死んだ子も見つからなかった。

失踪した子供たちはまるで世界から消えたように……

人身売買の証拠が見つからなかったので、孤児院も無実だと判定された。

変な失踪事件は、ただ怪奇事件の一つとして歴史の片隅に刻まれた。


時間の流れと共に、失踪事件が起こした騒ぎもだんだん収まった。

今となって、もう問う人はいないだろう。

その子供たちは一体どこにいる、果たして幸せに生きているのだろうか……?


***

悪夢が蘇る。

誰かが私の手を引いて一生懸命走っている。

私たちの後ろには火の海。

でも私は何か大事なものを落としたようで、その人の手を放して、火の海に飛び込んだ。

火は私を焼かなかった。

そのわずかな幸運に喜んでいたら、いきなり両手が血まみれになった。

叫びたかったが声が出なかった。

慌てて振り向くと、私の手を握っていたその誰かが血だまりの中に倒れている。

私が殺したのかと焦って、自分の手を見た。

掌に金色の百合のペンダントが置いてある。

突然に、両手の血が黒くなり、私の全身を覆い始める。

金色の花だけが汚れ一つもなく、小さく輝いた。

その光の存在を許さないように、一面の黒い影が私の前に現れ、私を喰らおうと口を開いた。

光が奪われないように、花を強く握る。

暗闇の中にあるものを見抜くように、目を大きく張った――


「!!」

目覚めてみたのは、小さな旅館の天井だ。

午前4時に設定したベルが鳴る。

少し冷汗を掻いたが、見慣れた夢で、すぐ調子を調整できた。

時間になったので、荷物のスーツケースを持って宿を出た。

宿を出ると、すぐ誰かに尾行された。

ケーススーツの中に、旅に最低限のものと数冊の本しか入っていない。身なりも、夜道に溶けるほど地味なもの。こんな私をお金持ちや家出のお嬢様に勘違いする人はまずいない。

狙われる価値がないと思うけど、念のため、進路を変えて灯の明るい大通りに向かった。

あと一歩で暗い路地を抜け出す時に、後から声が届いた。

「ちょっと待って!」

焦りを感じられる若い女の声。

「手付金をもらったのに、取引しなくてどこへ行くつもり?」

手付金?取引?なんのこと?

「行き先はともかく、あなたと取引できるものは何も持っていませんよ」

相手は一人、危険な気配がない。

どうやら、私を誰かに勘違いしたようだ。

二三歩戻して、スーツケースを開けて地に置いた。

「ウソ!」

暗闇の中から人が飛び出して、スーツケースの前で止まった。

夜に紛れるような服を身に纏う若い女だ。

その同時に、どこから鳥のさえずりのような音が響いた。

何かの合図でしょう。

「ああ、間違えたの? ついてないわ」

女はがっかりそうに嘆いた。

誤解も解けたし、早く行かないと。

朝一番n馬車に乗れば、明朝の船に間に合えるはず。

「それでは、失礼します」


「待って!」

! 

スーツケースを拾おうと手を伸ばしたら、いきなり女に手首を掴まれた。

「さっき、行き先とか言ってたよね」

「どこへ行くのか分からないけど、行かないほうがいいと思うよ」

返事を待たずに、女はさっそく続けた。

「お嬢さんはすごいわ。全身交通遭難の相だよ。例えば、土砂雨が降ったり、馬車事故に遭ったり、最悪、海賊船に乗せられるかも知れないわ!」

その意味の分からない発言に、返事も見つからない。

「正直、お嬢さんのような悪運の持ち主は初めて見たわ」

運が悪いのは否定しないけど……

「ああだめだめ、あたしったら、人よすぎる。お詫びに、特別に占ってあげましょう。ただでね~」

「何をッ!」

女は両手で私の頭を掴んで、無理矢理に目を合わせさせた――


私より幾つ年上、二十代前半の若い女だった。

小さいウェーブの長い髪、鼻筋や顔の輪郭がはっきりしている。南地方の少数民族の特徴だ。

両目は真紅の色、夜の霧に曇らせたルビーのように見える。

その目に見つめられる一瞬、軽い目眩がした。

「あなたの過去は重くて、暗い雲に覆われている。人生の分かれ道で闇の道を選択した。そのせいで神の捨て子になったのだろう。抗うのを諦めて、平穏な人生を選べば、幸せが訪れる保証はないが、無理に進めば、もっと多くの不幸や悲しみに遭うのだろう」

「見えた……

あなたの心は、炎と血と雪に砕けられた……

あなたの助けを受けた人は、あなたのことを忘れた……

あなたが探しているものは、すでに他人の手に……

悔しくて、あがいて、暗闇から抜け出そうと頑張っていても、光のある処に辿り着くことはできない……」

真紅の光を放った目は、私の脳からさらに情報を探り出そうとしている。

パシッ!!

思いきり女の手を叩き落した。


***

「あっ、ちょっと待って、話はまだ……」

真紅の目を持つ女は少女の姿が消えた方向に溜息をして、地面から小さな「光」を拾った。

「ただでって言ったのに……」

細工のいい金色のペンダントを手にして、女はにっこりと笑った。

「こんな高価なものを落としたとはね。本当に、運の悪いお嬢さん」


***

北の海に療養聖地と呼ばれるサン・サイドという島がある。

そこへ向かう定期船は一か月に二回しかない。

航行のルーツはローランド共和国始発、エリザ王国経由、サン・サイド島まで四日もかかる。


乗船を待っている間に、港に泊まっている定期船を少し観察した。

大型客船、貴族や上流階級も気軽に利用できるように、外観に工夫されたようだ。

先頭にウェスト貿易会社の印「シードラゴン」が描かれている船体は、思ったより新しくて、頑丈なイメージ。

甲板の上に立派な二階立の船室があり、宴会ホールと海の景色を楽しめる高級船室がある。

来る途中で馬車事故に遭って、何とか間に合ったけど、ひどく疲れている。

サン・サイド島に到着するまでひとまずじっと休みとしよう。

着いたらまた忙しくなる。


馬車事故に遭ったせいかいろいろ的中されたせいか……変な占い師の話が頭から離れない。

「そんなこと、言わなくも分かる。たとえ今回の『あれ』が私のものじゃなくても、私の『鍵』はきっとどこかにある……神に捨てられたものは、自分で自分を助けるしかない」

唇を軽く噛んで、朝の霧の中で舷梯に登った。


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