小ぶりな寿司の一貫。令和のものは江戸のものよりかなりこぶりである。それをそっとつまみ上げる。箸ではなく素手で。先程の天ぷらといい、瞬が作る江戸料理は”令和”のものである。江戸がルーツ、本場なのはわかるがやはり”令和”ものにはかなわない気がした。それが回転寿司であっても、チェーン店であっても。そこに自分の味のルーツがあるのだから。敬忠が”ラーメン”を追い求めるのもそのあたりに原因があるのかもしれない。
それにしても―――
この寿司といい、先程の天ぷらといい、尋常ではないものを敬忠は感じる。
口に寿司を放り込む。しっかりとした酢飯の感触。そして味。濃厚な酸っぱい感覚が瞬時にほどけて、ネタである鮪の味が口の上に広がる。鮪は正直、江戸時代において保存方法の不備からあまり好まれない具材である。ヅケという醤油に付ける方法で塩辛くしたものがほぼ唯一の食べ方であったろう。
(......ほう......)
瞬の料理法はそれを凌駕していた。ヅケの鮪を再び薄いだし汁につけ、塩辛さを浸透圧の違いによって吸い出し、独特の旨味成分を再吸収させたのだ。それはまさに”令和”の赤身である。
「...........」
ほろり、と涙が溢れる敬忠。武士たるもの食べ物ごときで涙が出るとは、と思いつつもしょうがない。この”令和”の味を前にしては―――
「瞬殿」
かしこまって敬忠はそう告げる。
「これにある料理、正直尋常の技とも思えぬ。この酢飯とて、朝炊いた冷えた飯をここまで食べられるようにするとは......一体如何なる技術を”令和”で身につけられたのか......」
ちょっと首をかしげる瞬。その振る舞いは少女のものとも、また思慮深いものとも思われた。
「私は何でもできるのです。寿司も握れるし、天ぷらも揚げられる。まあなんでも屋ですね。喜んでいただければ幸いです。ただ―――」
済まなそうな顔をしてそう述べる瞬。
「敬忠様が所望される、その.......”ラーメン”は......実は作ったことがなくて......ごめんなさい......」
小さい体を更に小さくして瞬はそう告白する。
それを最初はぽかんとしてみていた敬忠だったか、少しの間の後うんと大きく頷く。
「なれば一緒に、作ろうではないか。未知の”ラーメン”を。零からお互い作れば、とりわけ喜びもひとしおであろう。なあ瞬どの!」
意外な敬忠の反応に最初は驚いたようだった瞬もにこやかさを取り戻す。
”令和”の身は何かしれぬが、二人が一つの道に歩み始める瞬間の出来事であった―――