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黒猫のセレン〜SEREN IS A EX-NAMELESS BLACK CAT〜
黒猫のセレン〜SEREN IS A EX-NAMELESS BLACK CAT〜
小桜八重
文芸・その他ノンジャンル
2024年12月17日
公開日
6.6万字
連載中
誰も足を踏み入れない《黒寝子森》の奥で目を覚ます奴隷商人から逃げ出した白髪の少女アクロ。

種族の掟により一人森の奥で暮らす《黒猫人》の少年ナナシは、いつか広い世界を旅したいと夢見る日々を送っていた。《猫人》の言い伝えで不吉な存在とされる《ナナシ》を蔑み、都合良く利用する町の住人たち。そんな彼の真闇に閉ざされた日常は、森に迷い込んだ《クロノヒト》と呼ばれる奴隷少女アクロとの出会いを機に大きく変わり始める!

これは新しい世界で始まる物語──。

ボーイミーツガールから始まる怪獣ファンタジー!

嘗て、世界は人間が支配していた──。
文明は今より高度で繁栄は永遠かに思えたが彼らは争いを始める。
多くの人間が消え争いは終結した。
時が流れ──生物の進化が始まる。
彼らは優れた知能を得て文明を築き、人間も一から文明を築く。
両者はいつしか共存する様になる。

今、世界は多くの問題で溢れる──。

カクヨム等他サイト同時掲載中。

シロイカミノショウジョ

 月光をサエギ鬱蒼ウッソウとした木々の影──視界シカイの暗い森の中──虫のだけがきこえる──。

 両腕リョウウデ枝葉エダハカスめ、一歩み出す度、その足を地底チテイへ引きずり込もうと大地が手を伸ばす。

 白雪シラユキのような長髪チョウハツ深泥シンデイき、露出ロシュツした褐色カッショクの肌は擦過傷サッカショウオオわれている。

 唐柿トウシツブすようなオトキザ泥足ドロアシ赤黒アカグロく、イクつかのツメ足裏アシウラの皮をくし、足首は風邪カゼを引いた赤子のホホの様──全身に旅路タビジ苛酷カコクさをキザみ込んだ少女が、アエぎながら走っている。

 ただ、ひたすらに──先へ──先へ──遠くへ──と……。

 赤錆色アカサビイロニジ薄汚ウスヨゴれた襤褸ボロの開いた肩が、冷えきったヤミを切り、汗を吸ったスカートがマタマトわりつく。

 元々は、真っ白なワンピースであったが、所々に生地がけ、その隙間スキマから、痩躯ソウクナメらかな美しい肌が、ノゾいてイザナう──。


 少女は森に入りワズかばかり進んだ所で、オモムろに歩みを止めると、素早く左右に頭を振って周囲を見回し、カタワらのシゲみに視線シセンを落とす。

 ふらつきながらも、何とかそこへ歩み寄り、ヒザ泥濘ヌカルみにシズめ、腰を丸めてカガみ込んだ。


「ムウゥ……」


 鼻腔ビクウを突く刺激シゲキと共に、エグ味を含んだっぱさが口腔コウクウオオい、一匙ヒトサジ不快感フカイカンコボす。

 小さな胸を優しく撫でて介抱カイホウすると、離れていても視線シセンの先を指し示す、印象的インショウテキな長い上睫毛ウワマツゲを降ろし、乾いた声帯セイタイを小さくフルわせる。


「本当に──許せないわ……」


 フカく肺を夜でたし息をトトノえると、魅惑的ミワクテキな赤いヒトミを開き、ヒザを両のテノヒラハゲまして立ち上がった。

 全身をフルわせながら、ゆっくりと歩み始める。


「ここは──何処ドコ……?」


 少女は、身を守るように両腕リョウウデを胸の前で交差コウサすると、ヒタイにジワリと汗掻アセカく青白い表情をしかめた。


 この森より遥か遠く西の大陸に、全土をヒトという種族が治める人国ヒトノクニがある。

 その南部には肌の色の違いから彼らに迫害され、大陸の南端のスラムへと追いやられた、この少女のように褐色の肌を持つヒト、クロノヒトが暮らす。

 クロノヒトは極稀に奴隷商人に捕らえられ、彼らの商品として何処かへと売られてしまう事がある。

 この齢にして、世にも珍しい純白の髪を持つ少女ならば、なおさら、彼らからしてみれば格好の獲物だ。

 しかしながら、まさか自身がサラわれる事になるとは、少女はその瞬間まで、思っても見なかった。


 少女が、森の中を警戒しながらしばらく進んでいると、木々の間から、満月がそっとノゾきこみ、心の緊張の糸が緩む。

 少し立ち止まり、微笑ホホエみ、挨拶を返すとオクられた、夜空の黒に広がる無数の光の演奏会エンソウカイに、少女の心は拍手喝采ハクシュカッサイサケぶ。


──良かった……貧しくて──


 一瞬──少女は自分の境遇キョウグウに感謝しかけたが、激しく頭を左右に振る。

 だが、事実──小さい頃にスラムで学んだ開錠術カイジョウジュツと、狭いオリ隙間スキマもすり抜ける程に痩せ細った腕のおかげで、逃げ出せた……。

 ふと、ウツムき──少女は腰のポケットにれる。


──海人国ウミノヒトノクニへ降り立ったあの日──奴隷商人達のスキを見て、開錠コノ道具を渡してくれた、美しい黒鳥人クロノトリノヒトの運び屋のお姉さんに……いつか、お礼がしたいな……──


 そう──思いを巡らす。

 少女は無意識ムイシキに片手を上げると、前腕ゼンワンを回して肌の色を確かめる。


──彼女もきっと、自分と同じだったのではないだろうか……?──


 そんな風に、少女は理解していた。


──あれから──逃げ出す機会チャンスるまでに、何ヶ月もかかってしまった……。奴隷商人ドレイショウニン達が博打バクチで勝った日、酒を飲んで馬鹿騒バカサワぎした夜、全員が寝ている間に抜け出して──それからは無我夢中ムガムチュウで走り続けた──もう、一週間くらいは経ったのではないだろうか……?──


 少女は追っ手を気にしているのか──何度も──何度も──背後を気にしながら進んでいた。


「もぅ……げだはず……」


 少女は声を発したが、掠れて上手く出せない。

 それでも──雷雲ライウンのような腹の音だけは、森の静寂セイジャクの中でり続けている。

 少女は逃げている間、水を飲む事は出来ていたのだが、野草や木の実しか、食べる事は出来ていなかった。

 一昨日からはどうやら高熱があるようで、頭も朦朧としているようだ。

 手の甲で額の汗をヌグうと、少女はフタタび前を向く。


 少女は、長い間、世界中を連れ回されて、その珍しい容姿から、金儲けの為の見世物ミセモノにされた。

 西の大陸の端から遥か遠く──この東の大陸の端まで──。

 そして、最後は何処ドコかの金持ちの変態に売られて、コレクションにされると、そう聞かされていた。


「──ムウゥ……。キモチワルイ……」


──今、自分はいったいこの世界の何処にいるのだろうか……?──


 世界中を見て回る事──それ自体は、少女の幼い頃からの夢であった──だが、オリに入れられてから、実際に少女が見てきたのは、世界の汚い面ばかり──海人ウミノヒトの引く高速舟コウソクノフネ鳥人トリノヒトの運ぶ空飛籠ソラトブカゴには感動したのだが──。


──今度は絶対に、自分の足で世界中を見て回る──


 フルえる手で、首から下げたツヤやかな黒い石をニギリりしめて、少女はチカう──。


 少女は肌の色の違いで差別サベツされ、人国ヒトノクニでは底辺テイヘンの生活だったが、優しい両親がいて、十分に幸せな毎日だった。


──絶対に家へ帰る……。家族の所へ……。お父さん……お母さん……待っててね!──


 少女は上を向き、コボれ落ちそうな涙を必死ヒッシコラえながら、進む……。


「……ムウゥ……」


 しかし、次第シダイに……その歩みは遅くなり、少女はついに立ち止まり、そこから、全く動かなくなってしまう。


──足の裏が痛い……。足首も……頭も……身体中が痛い……──


 少女が再び歩き始めようとしても、全身に力が入らず、動けない……。


──熱い……水が欲しい……お腹も空いた……。なんだか……まぶたが……重い……。もう……疲れた……──


 少女の小さな身体が、小刻コキザみにフルえだし、その視界が、ぼやけてれる……。


──少し……──


「すこし……だけ……ねむ……らせて……」


 ヒザが折れ──少女は、前のめりにタオれた──。





 かつて──世界の全ては人間が支配シハイしていた──。

 その文明は今よりも遥かに高度コウドであり、その力は強大で、世界を一夜にしてホロぼせるほど──彼らは多くの国々に分かれて暮らし、その繁栄ハンエイは永遠に続くかに思えた──。

 だが、ある時、彼らは東と西に分かれ、かつてない大戦を始める──世界に人間が増えすぎた為、土地も資源シゲンも不足し、皆が平等に生きることが難しくなり、手段を選ばぬ奪い合いが始まったのだ。

 争いは数十年ほど続き、多くの人間が世界から消える形で終結した──。

 いくつもの強烈な光、巨大な爆発、東西で、世界中のいたる所で──築いた高度な文明も、自然も、全て吹き飛ばす爆風──大地は炎で焼き尽くされ、空を黒く塗り潰す真っ暗マックラな灰に包まれた──。

 大陸は人間が住めぬ死の大地となり、奇跡的に生き残ったわずかな人間は、残された小さな島々に逃れる──。


 それから──長い──長い時が流れ──死の大地の上で異変が起きた──。

 そこに残されていた生き物達に変化が起こり、人間に似た姿へと進化シンカが始まる──彼らは以前よりもスグれた知能チノウを得て、時間をかけて文明をキズく──。

 生きびた人間達もまた、一から文明をキズき始める──両者はやがて、かつての死の大地の上で出会い、時に争いながら理解リカイを深めていった──。

 その後、人間はタンと呼ばれるようになり西の大陸に、他人種族タノヒトシュゾクは東の大陸に分かれて住み、共存キョウゾンするようになる──。

 北方に誰も立ち入らぬ、毒の大地を残しつつ──。


 新たな世界にかつてのような高度な文明はない。

 この世界ではヒトによって広められた共通言語カタカナを話す。

 世界の始まりが、一つの神話シンワとなり伝承デンショウされている。

 神話シンワの本当の意味を知るのは、もう、わずかな者のみ。


 そして現在──世界はかつての時代のように多くの問題でアフれている──。





 『新生神話シンセイシンワ


 カツが祖は

 言葉を発さず

 二足を持たず

 地にし神に新たな血肉チニクを求めた

 天をアオぎ神に新たな知恵チエを求めた

 世界の新生シンセイを求めた

 神はクロノカクノミをサズタモうた

 それは禁断の毒の果実カジツ

 数多アマタの魂を奪い

 エラばれた者達モノタチに新たな知恵チエ肉体ニクタイサズけた


 ──を──した──に──に──しき──を──  

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