翌日………、鎧の魔族との戦いの傷が癒えた俺はそのままいつもの部屋へと向かった。
部屋に入るともう既に全員集まっていて、その中にはアリスもいる。
「アリス。身体の方はもういいのか?」
「はい。本当に疲労から来る物だったので、今はもうへっちゃらです!」
「ん、そうか」
アリスが笑顔でそれに応える。
この様子ならもう問題無いのだろう。
確認の為、ずっと一緒にいたフェンリルを見たが、彼女も案ずるなと言うように頷いている。
「そういう汝はよいのか?かなりの強敵だったと聞いておるが……」
「問題無いよ。少し寝たら治る程度………、アリス程じゃなかったからな。それよりも………」
「あの鎧の魔族の事ね?アタシが着いた時にはもうほぼ決着みたいだったけど……」
再び小さくなったニーザの言葉に俺は頷く。
「ああ、ニーザが来なかったら少し危なかったよ。ってか、一歩間違えれば死んでた」
「それ程の相手だったのか?」
「スルトの技を使ってきた」
「…………スルトだと?」
「スルトって、たしか君達が前に話していた………」
「そうだ。1000年前、大規模侵攻で死んだ神の一人で、俺の師だ。そのスルトの力を使ってきたんだ」
俺が言った内容に、フレス達の表情が険しい物となる。
俺はサウスウェーブ砦での戦いを全員に話した。
鎧の魔族と、奴が使っていた技の事を……。
話し終えると、最初に口を開いたのはフレスだ。
「地嶽炎刃、炎閃、紅蓮陣……、たしかにスルトの技だな。スルトは生きていたのか?」
「いいえ、それは無いわ」
俺が答えるより早く、あの場に遅れてやってきたニーザが答えた。
「アルシアが戦ってた奴……、あいつはスルトの神核で動いていただけ。スルト本人じゃない」
「スルトの………、神核」
「空っぽだったんだよ、鎧の魔族の中見は。動かす動力としてスルトの神核が使われてただけ。スルトは間違いなく死んでいる」
「なるほどな………」
フレスはそれきり考え込む様に沈黙し、今度は躊躇いがちにアリスが手を挙げた。
「あの、神核っていうのは人間でいうところの心臓………になるのでしょうか?」
「ああ、その認識で間違いない。スルトが死んでるって確信はそれなんだ。如何に神であろうと、それを抜かれるか破壊されるかすれば当然死ぬ。俺が戦ったのはスルトの神核を組み込んで作られた魔族だ。恐らくだが、黒幕の操る尖兵の1人だ。マグジールと同じ、な」
アリスの質問に自身の予想も交えて返す。
ただ、同じとは言ったがあの鎧の魔族の方が今のところ、マグジールなんかよりも脅威度は遥かに上だ。
ラヴァ・スライムに一瞬だけ使ったような手は使ってないとはいえ、次戦った時に同じ結果になるとは限らない。
「でも、無事でよかったよ」
「スルトの神核が劣化してたからな」
「劣化?」
心配してくれるフリードに俺がそう返すと、彼は眉を顰める。
「スルトの神核はその力の殆どを失っていた。アイツが使ってきたスルトの技も、元が同じなだけで本来の出力からは程遠い。」
「敵の仕業なのかな……?」
「いや、それは有り得ない。アレは恐らく、元から劣化していたんだろう」
フリードの問いに、俺は頭を振る。
半壊した鎧の魔族の空の体内……、そこから僅かに露出したスルトの神核は不自然な程に劣化していた。
技の発生も僅かばかりだが遅かったし、威力も精度も本来のソレからは遥かに劣る。
原因はやはり1000年前の戦いか……?
それにしてはもう一つ、気になる事がある。それは………、
そう考え込んでいると、ニーザが口を開いた。
「ねえ、アルシア。聞きたいんだけど、スルトの神核はどう劣化していたの?」
「砕いた鎧の隙間から見えた感じだと、自分で抉ったような感じだな。あくまで必要最低限だけ…………、そんな感じだった」
1番気になる点はそこだった。
スルトの神核は傷付いていた。
だがそれは外部からの、それも外敵によって傷付けられた物ではない。
手をねじ込んで、こじ開けたような………、そんな損傷の仕方だったのだ。
可能性としては2つ。
あの鎧の魔族みたいに悪用されるのを防ぐ為か、或いは………、
「自分で抉った……、何かに使ったっていう事かしら?」
「………やっぱり、そう思うか?」
ニーザは俺の質問に首を縦に振った。
「その言い方だとね。それしか説明付かないもの」
ニーザの答えに、俺はまた黙る。
もう一つの可能性、それは抉った神核を何かに使った可能性だ。
スルトが自身の神核を抉り、それを何かに使った………
1000年前の大規模侵攻で考えられる事とすれば、敵を倒すのに使った、或いは大規模で発生する魔族の量を抑えた……、という物が浮かぶが、それだけの力が動いた気配は無かった。
それなら、何の為に………?