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第6話「少年と少女と壮年の男」


(また、この夢か……)


何も無い夢。いや、何も無い様に見えるだけの夢、というべきか。

あの時と同じ、3つの光が等間隔に輝いていて、あの時とは別の光が強く輝いた。


目を開くと、そこはどこかの家の様だった。

私物らしい私物もなく、必要最低限の家具しかない、あまりにも質素で、無機質な室内………。

そんな場所に、その者達は立っていた。

そこには白いローブの様な服を着た、俺と同じか、それよりも歳上の少年と少女と、軍服の様な白いコートを纏った、あちこち傷だらけの壮年の男がいた。男の手にはこれから戦いにでも行くのか、白と金の大きな銃剣が握られている。

3人とも、俺が知らない顔だ。

しかし、彼らが誰なのかは何となくだが分かった。

傷だらけの男に、少年は問い掛ける。


「本当に行くのかい?」

「ああ。お前達と共に過ごした時間は僅かではあったが楽しかったよ」

「此処にいてもいいのよ?」


どこか、知り合いに似ている少女のその言葉に、男は首を振った。


「奴らの狙いは私だ。主神連盟に反旗を翻し、オーディンの力の一部を奪い去ったあと、幾つかの神を殺して回った……。これ以上、お前達を巻き込む訳にはいかない」

「人間一人の為に、君はどうしてそこまで……」


その言葉に、神の力を持つ者の証である金色の目を閉じ、男は答えた。


「私がある意味、お前達と同じ場所に立ってしまった……いや、立てたからだろうな」

「感情を得たから……」


ぽつりと少年が呟いた言葉に男は頷く。


「神とは、この世界を護る為の機構。感情を得た神は不純物とみなされ、例外なくその力の大半を奪われ、下界に落とされる。私はそれで良かった。だが……、奴らは私を慕う人間を殺し、私をそのまま神界に残した。換えが効かないから、という理由だけでな」

「……………」

「私には、彼女を殺した者達と共に歩むつもりなど毛頭ない。………私が神々に牙を剥く理由など、それだけで充分だ」


人間を選び、世界に歯向かった神は当たり前のようにそう答えた。

ひどく人間くさいものだ、と俺は思った。

だが、納得できる理由でもあった。

それは俺のよく知るあの2人も同じだろう。

人間からすれば神を殺せば下界に影響が出る。

彼の行いは傍迷惑に見えなくもないが、同じ立場に置かれたならば、俺も彼と同じ様にするかもしれない。

それに俺がよく知る、人を愛した2人の神の事を思い浮かべると、尚の事何も言えなかった。


「私達に貴方の力と、彼の力を託したのは?」


そう聞いた少女と少年の手には、

ただ、槍と呼ばれた物だけは何処にも見当たらなかったが……

男は視線を遠くに向ける。


は、遠い未来……必ず復活する。だが、私達が戦った時程の脅威にはならない。いや、なれない。私が見た未来では、コレに対処するのは人である筈だ。その時に、使える物は少しでもあった方がいい」

「神々は対処しないのかい?」

「しないのではなく、。」


(……………!?)

その言葉と、コチラに向けられる3人の視線にドキリとする。

しかし、それは仕方ないとばかりに、3人はすぐに視線を戻した。


の仕業かな?それに………、悲しい縁だね」

「ああ。だが、このやり取りを見せるという事は、彼らに必要だということだろう。気にしないでやれ。」


それだけ言って、男は少年と少女に背を向けた。


「………行くのかい?」

「そろそろ、此処にいると奴らが気付く。私が誤魔化せるのも限界だ。さらばだ、。共に名もなき神と戦い、共に過ごした戦友であり、親友達よ」


目の前の男を止められない、いや、止めてはいけないと分かっているからだろう。

イヴと呼ばれた少女は涙を浮かべ、精一杯の笑顔を浮かべた。


「死なないで……とは言わないよ。さようなら、私達の数少ない、大切な人」


イヴと呼ばれた少女に続いて、アダムと呼ばれた少年も悲しげな笑みで見送る。


「楽しかった、本当に楽しかったんだ。だから、さようなら…………



彼らのやり取りを最後に、世界は暗転し、元いた場所に戻される。

やはりと言うか、そこには彼、または彼女がいた。


金色の装飾の入った、ゆったりとした服を着た、白髪の誰かが。

相変わらず表情は無い。無機質な顔のままだ。


「気づかれていたぞ」と声を出せないままに言うが、やはり無反応だ。

相変わらず、目の前の存在は何も言わない。

しかし、彼の正体は分かった。


これだけの力を持ち、彼らの会話から考えるに、この神の存在はソレしか有り得ない。

アンタは……、そう言いかけた時、苦しい事に気付いた。

口と鼻を塞がれた様な、そんな息苦しさが。

急速に意識が浮上する感覚に襲われる。

まだ聞きたい事がある、答えてくれずとも、それでも……、そう思って俺は彼を見ると……


何となくだが、呆れたような顔で見られていた気がした。




◆◆◆


「………ぷはっ!?」


あまりの息苦しさに目が覚め、何かから顔を離す。

事態が飲み込めず顔を上げると、すぐ目の前には大きな方のニーザが笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。


「…………………」

「おはよう、アルシア。素敵な目覚めになったかしら?」


どうにも俺はニーザに顔を胸元に押し付けられていたらしい。

なるほど、いくら神でも、あんな顔したくもなるか……。

というか、いい加減そういう起こし方は止めてくれ、恥ずかしいから。


「どうしたの、アルシア?」

「………神様が呆れてたぞ」

「………なんの事?」


俺の言葉に切れ長の瞳を丸くして、何の事か分からないニーザは不思議そうに首を傾げた。

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