(また、この夢か……)
何も無い夢。いや、何も無い様に見えるだけの夢、というべきか。
あの時と同じ、3つの光が等間隔に輝いていて、あの時とは別の光が強く輝いた。
目を開くと、そこはどこかの家の様だった。
私物らしい私物もなく、必要最低限の家具しかない、あまりにも質素で、無機質な室内………。
そんな場所に、その者達は立っていた。
そこには白いローブの様な服を着た、俺と同じか、それよりも歳上の少年と少女と、軍服の様な白いコートを纏った、あちこち傷だらけの壮年の男がいた。男の手にはこれから戦いにでも行くのか、白と金の大きな銃剣が握られている。
3人とも、俺が知らない顔だ。
しかし、彼らが誰なのかは何となくだが分かった。
傷だらけの男に、少年は問い掛ける。
「本当に行くのかい?」
「ああ。お前達と共に過ごした時間は僅かではあったが楽しかったよ」
「此処にいてもいいのよ?」
どこか、知り合いに似ている少女のその言葉に、男は首を振った。
「奴らの狙いは私だ。主神連盟に反旗を翻し、オーディンの力の一部を奪い去ったあと、幾つかの神を殺して回った……。これ以上、お前達を巻き込む訳にはいかない」
「人間一人の為に、君はどうしてそこまで……」
その言葉に、神の力を持つ者の証である金色の目を閉じ、男は答えた。
「私がある意味、お前達と同じ場所に立ってしまった……いや、立てたからだろうな」
「感情を得たから……」
ぽつりと少年が呟いた言葉に男は頷く。
「神とは、この世界を護る為の機構。感情を得た神は不純物とみなされ、例外なくその力の大半を奪われ、下界に落とされる。私はそれで良かった。だが……、奴らは私を慕う人間を殺し、私をそのまま神界に残した。換えが効かないから、という理由だけでな」
「……………」
「私には、彼女を殺した者達と共に歩むつもりなど毛頭ない。………私が神々に牙を剥く理由など、それだけで充分だ」
人間を選び、世界
ひどく人間くさいものだ、と俺は思った。
だが、納得できる理由でもあった。
それは俺のよく知るあの2人も同じだろう。
人間からすれば神を殺せば下界に影響が出る。
彼の行いは傍迷惑に見えなくもないが、同じ立場に置かれたならば、俺も彼と同じ様にするかもしれない。
それに俺がよく知る、人を愛した2人の神の事を思い浮かべると、尚の事何も言えなかった。
「私達に貴方の力と
そう聞いた少女と少年の手には、
ただ、槍と呼ばれた物だけは何処にも見当たらなかったが……
男は視線を遠くに向ける。
「
「神々は対処しないのかい?」
「しないのではなく、
(……………!?)
その言葉と、コチラに向けられる3人の視線にドキリとする。
しかし、それは仕方ないとばかりに、3人はすぐに視線を戻した。
「
「ああ。だが、このやり取りを見せるという事は、彼らに必要だということだろう。気にしないでやれ。」
それだけ言って、男は少年と少女に背を向けた。
「………行くのかい?」
「そろそろ、此処にいると奴らが気付く。私が誤魔化せるのも限界だ。さらばだ、
目の前の男を止められない、いや、止めてはいけないと分かっているからだろう。
イヴと呼ばれた少女は涙を浮かべ、精一杯の笑顔を浮かべた。
「死なないで……とは言わないよ。さようなら、私達の数少ない、大切な人」
イヴと呼ばれた少女に続いて、アダムと呼ばれた少年も悲しげな笑みで見送る。
「楽しかった、本当に楽しかったんだ。だから、さようなら…………
彼らのやり取りを最後に、世界は暗転し、元いた場所に戻される。
やはりと言うか、そこには彼、または彼女がいた。
金色の装飾の入った、ゆったりとした服を着た、白髪の誰かが。
相変わらず表情は無い。無機質な顔のままだ。
「気づかれていたぞ」と声を出せないままに言うが、やはり無反応だ。
相変わらず、目の前の存在は何も言わない。
しかし、彼の正体は分かった。
これだけの力を持ち、彼らの会話から考えるに、この神の存在はソレしか有り得ない。
アンタは……、そう言いかけた時、苦しい事に気付いた。
口と鼻を塞がれた様な、そんな息苦しさが。
急速に意識が浮上する感覚に襲われる。
まだ聞きたい事がある、答えてくれずとも、それでも……、そう思って俺は彼を見ると……
何となくだが、呆れたような顔で見られていた気がした。
◆◆◆
「………ぷはっ!?」
あまりの息苦しさに目が覚め、何かから顔を離す。
事態が飲み込めず顔を上げると、すぐ目の前には大きな方のニーザが笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。
「…………………」
「おはよう、アルシア。素敵な目覚めになったかしら?」
どうにも俺はニーザに顔を胸元に押し付けられていたらしい。
なるほど、いくら神でも、あんな顔したくもなるか……。
というか、いい加減そういう起こし方は止めてくれ、恥ずかしいから。
「どうしたの、アルシア?」
「………神様が呆れてたぞ」
「………なんの事?」
俺の言葉に切れ長の瞳を丸くして、何の事か分からないニーザは不思議そうに首を傾げた。