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第3話「鎧の魔族」


王都を出て、要塞に辿り着いたのは大体20分後の事だった。

要塞に入って最初に抱いた感想はただ一つ。

見る影もない、それに尽きた。

堅牢な作りの壁は何か大きな力に溶断されたかのように灼き抉られ、あちこちから火の手が上がっている。

建物自体も半分以上が破壊されていた。

俺は一歩一歩、警戒しながら要塞の奥へと歩いていく。

辺りには立ち向かったであろう、原型をとどめていない兵士達の死体が奥へ進む毎に増えていく。

気配を探るが生き物の気配は俺含めて2つだけ。残念な事に、サウスウェーブ要塞が陥落したのは確定の様だ。

嗅ぎ慣れているとはいえ、血の匂いと焼けた人間の肉の不快な匂いがやたらと鼻につく。


吹き飛んだ大きな扉から中に入ると、砦の奥の方から強く、濃密な死の気配が溢れ出す。

そしてそれは、どういう訳か少しだけ感じた事のある気配だった。

(……ぼやけちゃいるが、何の冗談だ?)

それでも止まることなく歩いていき、最奥にある広間に辿り着くとそれはそこにいた。

大きさで言えば10メートルはあるだろうか。

返り血を浴びて赤に染まったボロボロの白いコートを身に纏い、まるで黒い悪魔の様な見た目の鎧姿の魔族がいた。

そいつは背を向けていたが、俺が近づいたのを察知して、ゆっくりとこちらへ振り返る。


「――――――――――。」

「お前か。ここにいる人達を皆殺しにした魔族は。」


鎖を右腕に巻きつけながら、そいつを睨みつける。

対峙する鎧の魔族は俺の問いかけに答えるかの様に魔力だけで身体と繋がっているその手で炎を纏った黒い岩石の剣を握りしめ…………、


「―――――――――――ッッッ!!!!」


バイザー越しに赤い眼光を煌めかせ、金属が擦り合うような咆哮を響かせる。


「……分かっちゃいたが、会話は成り立たないか。」


嫌な汗を滲ませながらいつでも動ける様に構える。

膨れ上がる気配だけで分かる。

本気で挑まなければ、ここで死ぬのは恐らく俺だろう。




◆◆◆


「――――――。」

「っ、あれは…………!?」


静かに、それでいて無造作にこちらに向けられた指先を見て、俺は即座にその場を離れる。

遅れて俺がいた場所に圧縮された炎の光線が走り、地面や壁を容易く溶断した。

俺はそれを見て顔を顰める。

その恐るべき威力もそうだが、本題はそこではない。

使われた技の方だ。

もう一度こちらに指先が向けられ、俺はクロノスの空間隔離を使って光線を防ぎ、確信する。


(間違いない、炎閃だ…………っ!!)


炎閃……、炎を圧縮し、光線として放つ技だ。

ある男の顔が脳裏に過る。

あの岩の刃といいこの技といい、本来の担い手が死んでいる以上、今のファルゼアで使えるのは俺だけの筈だ。

こいつが使える訳がない。

向けられる指先から炎閃の軌道を予測しながら躱し、鎧の魔族へと距離を詰める。

接近する俺を見て鎧の魔族はこちらに向けた手を下げ、代わりに黒い岩の剣を構えた。

鎖を構えながら俺は岩の剣ではなく、足元に注意を配る。俺の予想が正しければ、1番注意しなければいけないのはそこだからだ。


「はぁっ!!」


飛び上がりながら鎖を振り下ろし、鎧の魔族の剣と斬り結ぶ。

刀身に僅かに鎖が食い込むがもそこで止まり、鎧の魔族の足元が火を吹きながらヒビ割れていく。

(やっぱりか……!)

脳裏に警鐘が鳴り響く。岩の剣を蹴り飛ばし、食い込んだ鎖を引き抜きながら大きく後方へ飛び退く。

その瞬間、刃の様に蜂起した無数の岩の塊が紅蓮を纏いながら波のようにこちらに押し寄せる。

俺はそれに狙いを定め、火の魔眼を発動しながら手を翳した。


「地嶽炎刃!!」


鎧の魔族が発動した技と同じ物を発動し、襲い掛かる岩の波を打ち砕く。

地嶽炎刃、岩に炎を纏わせ操作する術だ。

今みたいに広範囲にばら撒くことも出来れば、鎧の魔族がやってる様に剣として振るうことも出来る。

俺はバフォロスも抜き放ち、攻撃する以外は沈黙を守る異形に怒気を込めて叫ぶ。


「答えろっ!どうしてお前がそれを使える!!」

「――――――――――――。」


黒い鎧は答えない。沈黙したままだ。だが…………、


「これは………、ちっ!!」


問いに答える代わりに鎧の魔族のバイザーの奥底の眼光が赤く光り、俺を中心に焔が吹き上がり、円を描くかの様に拡がっていく。

バフォロスのモヤを展開し、範囲外へ抜けるべく走る。

段々と勢いを増し燃え広がる炎………、そこから放たれる技は1つしかない。


「……………紅蓮陣かっ!!」


焦りから振り返り背後の状況を確認すると、正解だとばかりに鎧の魔族が手にした刃を逆手に構え、持ち上げる。

視線を前に戻し、水の魔眼も発動しつつ身を焼く炎に耐えながら更に足を踏み出したその時だった。

背後で岩の剣が刺さる音と、紅蓮陣が本命の爆炎を吐き出したのは。




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