「……一つ、訪ねてもいいかい?」
「何だ?」
聞き返しはしたものの、正直に言えばフリードの聞きたいことはその不安そうな表情から見れば何となく察しはつく。
俺はフリードの言葉を待った。
「……どうにかなるのかい?」
「無理だろうな。戦場をグレイブヤードに変えて、ニーザ達が本来の力で戦えたところで、束になっても神には勝てないよ。」
隠す事なく正直に答える。
敵の正体、強さ………、その全てがまだ謎に包まれているが、少なくとも俺達より弱いなんてことは無いはずだ。
「そこまで………、」
「そこまでの相手だよ。」
予測でしかないが、それだけは確かだ。
神とは言ってしまえば、一柱一柱が概念そのものと言っていい程の存在だし、その強さは下界に住む者の比ではない。
昔、お遊びの範囲でロキと何度も手合わせした事があったがどれも話にならないレベルの惨敗だった。
一対一の勝負どころか、こっちにフェンリル達が付いてくれていてもその結果に変わりは無かった。しかし、だ。
「ただ………、」
「………アルシア?」
怪訝そうな表情を浮かべるフリード。
言うか迷ったが、何処かで感じている違和感を拭えず、俺はその違和感を口にする。
「さっきも言ったが、神は俺達よりも遥かに強い。それこそ、俺達なんて片手間で処理できるくらいにはな。」
「うん…………。」
「だが、それにしてはやってる事がショボすぎる。疑いだせばキリが無いんだが、神族なら暴走魔族や強化魔族よりも強い存在を作り出して攻め込ませる事だって出来るはず。それをしないのは……」
「出来ないから、ね。ヴェルンドでの戦いで分かったわ。マグジールをわざわざ蘇らせて神衣を纏わせて戦わせるくらいなら、それより他にもっと使える奴らを呼ぶ方が早いもの。」
ここに来てニーザがはじめて口を開いたので、同意するように頷く。
ニーザの言う通りだ。もっと言うなら、それこそ本人が出てきて直接戦えばいいだけだ。
だが、ここに来てそれをしないという事は、楽観視かもしれないが、それをするだけの力が無い可能性も浮上してくる。
更に俺は続ける。
「それともう一つ、コレはそれよりも前の、もっと根本的な疑問になるんだが………?!」
そう言いかけて、俺はフレスとニーザと同時に、何かに気付いたかの様にそれぞれ別の方向を向いた。
強い力が動く反応を感じたからだ。
力の反応は2つで、離れた位置で展開している。
俺が探知魔法で深く気配を探ろうとしたところで、今度は部屋に置いてある通信用魔道具が起動した。
相手は近衛師団長のノーデンだ。
彼は魔道具越しでも分かるほど、切迫した声を響かせる。
『へ、陛下、皆様!ウェストブールの街とサウスウェーブ要塞が襲撃を受けたと報せが入りました!!』
「詳細は?」
『ウェストブールの街に大量の強化魔族、そして暴走魔族が侵攻中。こちらは現在、冒険者と駐在軍が防衛にあたっている模様。被害は軽微!』
「サウスウェーブ要塞は?」
『……恐らくは、全滅かと。襲撃の連絡を最後に、向こうからの連絡は途絶えております。』
「全滅!?襲撃の報告を受けてそう経っていないだろう?!」
フリードが困惑を隠しもせず叫ぶ。
俺達が気配を感知してから時間はそう経っていない。だが判断するには早すぎるが、今捉えている気配の強さを考えれば、全滅は想定した方がいいだろう。
俺はソファーから立ち上がって、移動する準備を始める。
「フレス、ニーザ。2人はウェストブールへ向かってくれ。俺はサウスウェーブに向かう。」
「アルシア。だけど………」
心配そうな表情を浮かべるニーザに俺は首を振る。
「ウェストブールは今から行けば間に合うと思う。ただ、魔族の数を考えればお前達2人が行った方がいい。それで被害は最小限に留められるはずだ。サウスウェーブは………恐らく手遅れだが、だからって放置してそのまま王都に攻め込まれたらアウトだ。」
「……分かった。アルシア、フェンリルにはもしもに備えて待機するように言っておくが、それでいいか?」
「ああ。すまんが、先に行くぞ。」
フレスにそれだけ頼んで、俺は先に部屋を出る。
「まあ、間違いなく当たりは俺だろうな……。」
城の長い廊下を走りながらひとりごちる。
探知魔法で探った気配……、
アレは間違いなくフレス達、