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第46話「誰も味方いねぇな!?」


 雹の様にラヴァ・スライムの細かい破片が辺りへ降り注ぐ中、アリスは落ちてきた。

凍結領域と集約召喚による最後の一撃………、文字通り出せる力の全てを出したのだろう。

あのままでは危険だと思い、落下するアリスの下に移動しようとして、止めた。

フェンリルが先に動いたからだ。

フェンリルは大きく跳躍し、アリスの身体を抱きかかえてから、そのままニーザのいる場所にゆっくりと降りてくる。

俺もそれを見て、3人のいる方へと向かった。


「あ………、フェンリルさん…、ありがとうございます。」

「初めて会った時もそうじゃが、汝は驚く様な事ばかりしおるな……。だが、よくやったな、アリス。」

「えへへ……、」


フェンリルに「頑張ったな。」と抱きしめられると、褒められたのが嬉しかったのか、アリスは嬉しそうに微笑んでいた。

俺としては両手にいつの間にか嵌められたとんでもない物品について聞きたいことがあるが、まあ今聞くのも野暮というものだ。

きっと、ゴドーが持たせてくれたものだろう。

そんな事を考えてた時、くいくい、と服を引っ張られた。

この場には俺達4人しかおらず、正直言ってそちらを見たくはないが、見なければ見ないで確実に面倒な事になる。

観念して恐る恐る振り向いた時だ。


ちゅっ。


「…………………は?」

「ニーザちゃん………!」

「ほぉ。」


頬に柔らかい物が触れる感覚に呆気に取られていると、アリスは顔を赤くしながらも興味深げに、フェンリルは面白いものを見せてくれたなと、俺達………俺とニーザを見ていた。

ニーザは顔を赤く………、してはいるものの、どちらかと言うと妖しく微笑んでいる割合が強い。

とてつもなく嫌な予感がする。


「アルシア?」

「…………何だ?」

「私、頑張ったわよ?」

「…………そ、そうだな。」


俺は冷や汗をダラダラと流しながらも、顔を赤くしたまま、視線を逸らす。

何やらアリスが俺をジト目で見たあと、抱きかかえられたままフェンリルに耳打ちしてるが、今はそれどころじゃない。

俺は少しだけ後退るが、ニーザがその長い尻尾で俺の身体を拘束して逃げ道を塞ぐ。


「…………に、ニーザ?」

「アルシアはまさか、女の子にほっぺにキスしてもらっといて何もできない程、臆病じゃないわよね?災い起こしなんて言われてるのに。」


ドワーフ辺りならこの手の挑発で動くだろうが、残念ながら俺はたぶん普通の人間だ。

彼らほど勇敢だった事は一度だってない。


「………ぃやあ?俺は割と臆病……いたぁ!?」


後頭部に硬いものを投げつけられて、思わず情けない悲鳴をあげる。

何かが飛んできた方向を見ると、アリスがフェンリルに作ってもらったこぶし大くらいの氷の礫を手で軽く上に投げながらジト目で俺を見ていた。


「アルシアさん。ここで逃げるとかサイテーです。」

「アリスの言う通りじゃな、それくらいやってやれ。」

「…………ロキ、タスケテ。」

「ここにいないんだから諦めなさい、アルシア。ほら、早く。」


その後、30分かけて――5分毎にアリスに氷を投げられながら――覚悟を決め、ニーザの頬にキスをする事でどうにか逃がしてもらえた。

………何で俺、戦闘するよりもどっと疲れてんだろう……。

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