「お嬢!全員の避難準備、終わりやした!!」
「………ありがとうございます。皆さんも避難の準備は出来てますか?」
「へい、お嬢!!」
私がそう聞くと、リーダー格のドワーフ含めたドワーフの人達はビシリ!と敬礼した。
姐御と言ってくるのを本気で嫌がったらお嬢と呼ばれるようになり、それ以上は妥協してくれなかったのが現在の悩みのタネだけど、またあそこでウジウジされるよりは全然いいのだろう。
私もそろそろ戻らないといけないし。
無意識にふと、アルシアさん達がいる方角を見る。
私ではあんなに大きな化け物を倒す事は出来ないかもしれないけど、神術で戦う事が出来る。
フェンリルさん達のサポートをするくらいは出来るかもしれないし、それが出来なくとも、アルシアさんと前に立って足留めくらいは出来る筈だ。
私はドワーフの人達に軽く挨拶し、村の入口に向かおうとしたところで、ふと、工業区の方にある大きな物に目を向けた。
アルシアさん達がいる方角に、斜めに傾いた大きな鉄の塊に。
「アレは………?」
「アレ?ああ、カタパルトの事ですか。」
「カタパルト……」
私が呟いたのを聞いて、リーダー格のドワーフの人は頷いた。
「いつだったかな……。まあ、作った時期は忘れたんですが、遠くに物を飛ばす魔道具です。作ったはいいんですが、そもそも使う用事が無いんで、何回か発射実験してそのままなんですよ。」
そう言って照れくさそうに彼は笑った。
私はある事を思いつき、気になった事を聞くことにする。
「成功はしたんですか?」
「勿論、全部目標地点まで飛んでます。整備もしてるんで、今も普通に使えますぜ。」
「なら……、アレで
私の言葉を聞いて、ドワーフは「へ?」と目を点にした。
◆◆◆
結論から言えば、理論上は可能だった。
ただし、基本的には物資などを硬い箱に入れて飛ばすのをメインにしているとの事で、人間が生身のまま発射時の衝撃に耐えるのは厳しいという。
ならばと私は自身に複数の結界魔法を貼り、カタパルトの発射出力に耐えられるように備えた。
当然、その場にいた全員に一度止められたけれど。
「無茶だ、お嬢!結界魔法貼ってるからって、そんな真似したら危ねえよ!」
「おめぇら、止めんじゃねえ!そんなもん、お嬢は承知の上だ!俺達は必要以上の負荷がかかんねえ様、お嬢が無事に辿り着けるように出力を調整しろ!!」
再び無茶だと止めようとしてくれるドワーフ達をリーダーがそう宥め、カタパルトの出力調整を始めてくれた。
アルシアさん達のところへちゃんと辿り着くよう、負荷も可能な限り掛からないようにしてくれるらしい。
これには本当に感謝だ。
私が衝撃緩和用の護符を身体中に施していると、準備が出来たと声が掛かったので、カタパルトに向かおうとした時、ゴドーさんが走りながらコチラに近付いてきた。
「待て、アリス嬢ちゃん!!」
「ゴドーさん、大丈夫ですよ。皆さん色々やってくれてますし、私も結界魔法とか……」
「んなもん、見りゃ分かるよ。どうせ言ったって止まんねえだろ?……アルシアの奴に頼まれてたもんが見つかってな。アンタのだから、コイツも使いな。」
ゴドーさんがそう言いながら木箱を渡してくるので受け取ると、重たい感触があった。
開けてみると、それは篭手だ。
そう………篭手………なのだけど…………。
(アルシアさん達と出会ってから、私はもしかしたら一生分の運を、ここ数日で使ってしまっているのではないだろうか……)
或いは、何か不幸の始まりか………。
「遠慮なく受け取んな。どうせ、俺達には使えねえんだからな。」
「あ、ありがとうございます………。」
私がぴしりと固まるのを知って、ゴドーさんが意地悪く笑うのを見ながら、苦笑してその篭手を装備する。
何故、苦笑しながらなのか………
それは、