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第41話「純白の少女」


ドワーフの人達に発破を掛けたあと、私も村を走り回って避難を呼びかけていた。

皆で避難を呼び掛けたおかげか、もう残っている人は居ない。これなら私もすぐに戦線に戻れそうだ。

そう思った時だった。不思議な気配を感じて、私は無意識に振り返る。


そこには私と同じくらいの背丈の、1人の女の子が立っていた。

その少女の事を一言で表すなら、純白だった。

着ている服も、サラサラとしたその髪も、透き通る様な肌も、美しい白だった。

ただ一つ、耳に付けた黒い羽根飾りを除いては……。

私が何も言えずにいると、彼女はそれが面白いと言うようにくすくすと笑いながら近付いてきた。


「どうしたの、お姉ちゃん?」


その言葉に私ははっとする。

あまりにも綺麗だったから、いつの間にか見惚れていたらしい。

気を取り直して、私は女の子に声をかける。


「えっと、ごめんね。君はこの村の人?」


その質問に、女の子は微笑みながら頭を振った。

違うという事だろう。


は他の場所から来たんだ。お姉ちゃんとおんなじだね?」


女の子はそう言いながら楽しそうにを閉じながらはにかんだ。

今更気付いたけど、年齢は同じくらいなのにお姉ちゃんと呼んでくるという事は、もしかしたら見た目よりも歳は下なのかもしれない。

けど、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。


「あのね。もしかしたらここは危ない場所になるかもしれないの。だから、私と一緒に避難しようね?」


そう言うと、女の子はまったく予想していなかった言葉を口にした。


「うん、知ってるよ。ボクはお姉ちゃんに用があってきたんだ。」

「わ、私に?」

「うん、そう。お姉ちゃんはまたのとこに戻って戦うんだよね?」

「う、うん……、そうだけど……。」


会話の内容に少し違和感を感じながら頷くと、白髪の少女は満足そうにうんうん、と頷いた。


「じゃあ、ボクもお手伝いしないと。」

「だ、駄目だよ、危ないから!」

「いいからいいから。実際に戦うんじゃなくて、お姉ちゃんに、ね?」


そう言いながら、女の子は私に更に近寄って手を当てた。


「ち、ちょっと君!?」

「あー………、やっぱり。お姉ちゃん、を持ってるよね?あと、神術も使える。まだ若いのに凄いね。」


そう言いながらにへへ、と笑う女の子に私はドキリとする。

胸を触られてる感覚からではない。

教えてもないのにそんな事を言われたからだ。

(村の中で神術なんて使ってないのに、どうして……?)

ただ唯一、槍という単語には心当たりが無かった。


「槍………、ホーリーランスの事?」


あるとしたらそれしかないし、それ以外に槍なんて持っていない。

けど、アレはただの光魔法で、光魔法を使う魔導士なら誰でも使える上級魔法だ。

私は自分が使う術を思い出して、そう聞いてみることにした。

特別な物ではない、そう思って女の子を見ると、女の子は「やっぱりか……」と言いたげに首を横に振って苦笑していた。


「うん、やっぱり自覚してないみたいだね。まあ、使?」


そう言うと、私の胸に当てられた手が光り出し、それと同時に私の身体に激痛が走った。

思わずその場に倒れそうになる。


「かっ、は…………!?」


女の子は胸を押さえて膝をつく私をニコニコと笑いながら見下ろしている。

だけど、不快な気持ちにも、怒る気持ちにもならない。

何故なら、私を襲ったソレは激痛ではあったけど、閉じていたものを開いてくれたような、そんな感覚だったのだ。

寧ろ、今までよりも力が溢れてくるような感覚まである。


「よし、これで大丈夫。彼女達の1000年の願いも祈りも無駄にはなってなかった。」


女の子は穏やかな微笑みを浮かべながら不思議な事を言って、用は終わったとばかりに私に背を向けた。


「ま、待って!君は……!?」


名前も知らない女の子を止めようと声を掛けるも、彼女はその場で振り向き、微笑みながら更に言葉を紡いだ。


「ボクの名前はシギュン。お姉ちゃん。もし、この先戦う中で苦しい場面があったら………戦う中で、の顔を思い浮かべながら神術を使ってごらん。……まあ、その人っていうのは、きっとの誰かさんなんだろうけど、ね?」


今度はいたずらっぽく笑うと、白髪の女の子は何処かへと走り去っていった。

私はそんな彼女を止めることも出来ず、ぽかんとした顔で見ている事しか出来なかった。



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