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第40話「アリス、大激怒」


アルシアさん達があの巨大なスライムを食い止めてくれる間に、私達は無事、ヴェルンドの村に撤退する事に成功した。


異常事態を察したゴドーさんやオルフェンさんは私達を見て事情を聞いた後、すぐに一時避難の為に動いてくれたから、その辺は問題ない。

予め村にいて、村の入口に集まっていた一部のドワーフの人達やギルドの人達、撤退してきた冒険者の人達までは良かった。

問題は自分達の力が通じずに撤退してきたドワーフの人達の方だった。


「終わりだ……、あんなつえぇの誰も勝てねえよ!」

「どうすんだ!このままじゃ俺達は終わりだぞ!」

「落ち着け、落ち着くんだ!大丈夫だ、きっと何とかなるさ……!」


戦っていた時の勇猛さは何処へやら、怯えて、ただひたすらに焦る彼らを見て、私は困惑した。

そんな私のところに、ゴドーさんと年配のドワーフの方が来て説明してくれた。


「俺達ドワーフってのは、こっぴでぇ失敗って滅多にしねえんだ。だから、完膚なきまでにやられるとこうなっちまってな……。こうなると立ち直るのに2、3日はかかっちまう。」

「そんなにですか!?」


私は年配のドワーフの方の言葉に驚きを隠せなかった。

フェンリルさん達だから心配は無いと思うけど、万が一の事だって有り得る。

1日でもこのままでは困るのだ。


「み、皆さん!アルシアさん達なら大丈夫ですから、今すぐ避難を!」

「うるせえ!天下のドワーフの俺達が勝てねえんだ!あんな連中にどうにか出来る訳ねえだろうが!小娘が偉そうな事を言うな!!」


怒鳴り散らしたのは前線で指揮を取っていたドワーフの男だ。その言葉にカチンと来たが、今は何とか呑み込んでまた説得を試みる。


「でも、このままじゃ何かあった時にどうするんですか!こんな所で凹んでないで、今すぐに……」

「黙れ!人間の小娘がこれ以上ガタガタ抜かすなら、その口溶接すっぞ!!」

「きゃっ!?」


ドワーフの怒号と共に、私の真横を火球が掠めていって、そのまま尻餅をついてしまう。

怒りでマトモな判断も出来なくなっているらしい。

これにはゴドーさんや先程の年配のドワーフの方が怒り出した。


「おいテメェら!いい加減にしろ!」

「おめぇら……、ヘタれた姿見せたと思ったら、こんな女の子にまで………っ!!」


2人はカンカンになっていたが………


「けっ。年寄連中まで……、たかだか人間の小娘一匹………がっ!?」


最後まで言い切る前に、リーダー格のドワーフが私が投げ付けた杖の爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。


「あ、アリス嬢ちゃん?」

「お、お嬢ちゃん……?」


ゴドーさん達、それにオルフェンさん達やドワーフの奥さん達や子供たちが私を見て目が点になっているけど、関係ない。

私は着ていたマントを乱暴に投げ捨てて身軽になった後、イヴの聖杖を取り出してリーダー格のドワーフに近付いた。

初めは吹き飛ばされた事に怒りを見せていたけど、私の只ならぬ雰囲気を見て、どんどんと縮こまっていく。


「お、おめえ……」

「さっきから黙って聞いてれば……、その立派なガタイで泣き言ばかり言って、何なんですか貴方達。天下のドワーフが聞いて呆れる……。」

「なんだと、テメ………うぉ!?」


文句を言おうとするドワーフの胸ぐらを掴んで自分に引き寄せる。


「それだけ元気があるなら、今すぐに奥さんや子供たちを連れて逃げる準備くらい出来るでしょう!それすら出来ないんですかっ!!」

「え、あ……いや…、その。」

「返事!!」

「は、はい!出来やすっ!!」


私の剣幕に押されたリーダー格のドワーフが涙目で怯えるのを見て、先程までこのドワーフと一緒に泣き言を言ってたドワーフ達までピシッと立ち上がった。

私はそれを見て、胸ぐらを掴んでいた手を離して、また声を張り上げる。


「なら今すぐに皆で他のドワーフの皆さん達を集めて避難!急いで!!」

「あ、あの……、あの人達強いんでしょう?なら、別に俺達このまま此処にいて……ひっ!?」

「まだそんな事言うんですか!」


妥協案を出そうするリーダー格のドワーフの顔に杖を突きつける。

アルシアさん達なら問題無いのは分かってるけど、先程まであんな連中呼ばわりしてたのもあって、収まりかけていた怒りがまた湧き上がったのだ。


「いいからさっさと子供たちとその他の人達を集めて避難してください!さもなければ、この場で貴方とそこに突っ立ってるドワーフの方達を纏めて吹き飛ばします!!」


私は突きつけていた杖を上空に向けて、ホーリー・テンペストを編み上げた。お仕置きには過剰すぎる気がしなくもないが、これでもいいだろう。

私の魔法を見て、「どうして俺達まで!?」と取り巻きのドワーフ達が泣き出した。

自分でも言っててどうかと思うけど、こうでもしないと聞かないだろうし、仕方ない。


「わ、分かりやした!姐御!すぐに行ってきやす!!い、行くぞオメェら!!!」


「お、応っ!!!」


「誰が姉御だ!」と文句を言いたかったが、涙目のリーダー格のドワーフの号令を聞くやいなや、彼らはすっ飛んで逃げていった。

初めからそうすればいいのだ、と私は大きく息を吐いて杖を下ろし、今更ながらに視線に気付いてそちらを見る。


ゴドーさんと年配のドワーフの方が私を見て呆然としていた。

見ると、オルフェンさん達や、ドワーフの奥さん達もだ。

ゴドーさんが呟く。


「なあ、スミス………。」

「何だ、村長………。」

「俺、ドワーフがあんなびびって人間の女の子の言う事聞く姿、初めて見たよ。」

「………奇遇だな、俺も初めてだ。」


残っているドワーフの方々やオルフェンさんまでうんうんと頷いている。

そのやり取りを見て、私は今更ながらに恥ずかしくなった。

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