「さて、コイツを倒す訳だが……、その前にニーザ、何してるんだ。」
アリス達が撤退して数十分後………、
鎖に拘束されながらも、鎖の隙間から器用にニョロリと出ようとするラヴァ・スライムの討伐手順を考えてるところで、ニーザは横にやってきて頬をこちらに寄せてきた。
「追加料金、ちょうだい?」
「……………っ、」
緊張感のない言葉に思わずずっこかけ、俺はすんでのところで踏み留まった。
「空気を読め!つか
「当たり前でしょう?1000年ぶりに会えたからせっかく頑張ったっていうのに、アルシア、1個も褒めてくれないんだもん。」
そう言ってニーザは頬をこっちに向けたまま、不機嫌そうな表情になった。
「うぐ……、」と唸りながら、助けを求めるようにフェンリルを見るが、彼女は諦めろと言いたげに首を横に振った。
この野郎、マジで丸投げする気か……!
「………戦いが終わったらな。」
「それで手を打つわ。ところでアルシア?」
「何だ?」
「私、その言葉を大昔からたくさん聞いてるけど、そのどれもが叶ってないわ。………どう責任を取るのかしら?」
「………………。」
にっこりと微笑むニーザに、俺は無言で返す。
肩に乗せられた手にギリッと音が鳴るほど力が込められ、爪が僅かばかり食い込むのを感じ、心の底で震え上がる。
「まさか、ほっぺにちゅーだけで済むなんて、思ってないわよね?」
「…………戦いが終わってからな。」
さっきと変わらない、確約の言葉を繰り返す。
うん、嘘は言ってない。
だって、まだ戦いは終わらない。
目の前のコイツを倒して、まだ後に控えているであろう連中をしばき倒して、その後も俺がジジイになって引退するまで戦いが続く予定なのだ。
ほら、まったく嘘は言ってない。
まあ、そんな事は口が裂けても言えないけども。間違いなく酷い目に、色々と怖い目にも遭う。
しかし、そんなしょうもない考えはフェンリルには見抜かれているようで、白い目を向けられていた。
「因みにアルシア。溜まってる分の換算だけするなら、結婚式上げるくらいには溜まってるわね?」
ニーザにも気付かれていたらしい。
こちらは邪悪に笑っていた。
俺は1人、胸の中で静かに誓う。
…………国外逃亡を図ろう。そして、俺が逃げる間に彼女にとって、代わりに良い人が現れるのを祈ろう。
そんな事を願いながら、俺は鎖の拘束からにゅるん、と抜け出てきたラヴァ・スライムに向けて、インドラの雷を落としたのだった。
◆◆◆
「オオオオオオオオオオ!」
「
ニーザのお約束をいつも通り誤魔化してから早十数分。
無数に伸ばされる刃物のような灼熱の触手を俺はインドラの雷を弓矢へと変え、それらを手当たり次第撃ち貫く。
本体は狙わない。狙うのは伸ばされる触手と、その眷属だけだ。
特級スライムが持つ再生能力は強力で、中途半端にダメージを与えれば即時再生した挙げ句、新たに眷属を生み出してしまう。
故に俺達は今、討伐の為の準備をしている。
まず、俺が前衛に立ってラヴァ・スライムを単独で相手取り、その間にフェンリルが一気にスライムを凍らせて、それをニーザが破壊する。
本来であればそこまで時間のかかる作業ではないが、彼女達はその強大な力を外で発揮出来ないように、グレイブヤードの外ではリミッターを掛けられている。
あの大きさのラヴァ・スライムを神術で一撃で芯まで凍らせてから消し去るには、どうしても時間がいるのだ。
それに、権能で概念さえも凍らせてしまうフェンリルといえど、神力を纏ったラヴァ・スライムの身体を凍らせるとなると、そこから更に力を練る必要がある。
体力はまだあるが、アダムの書を通じて神力に変換されていく魔力がゴリゴリ削られていくのでバフォロスも抜き放ち、纏っている神力を奪い取ってから、そのまま再度雷撃を見舞っていく。
特級スライムは特級魔族の中でもその性質上、上位に入る強さだ。
フェンリルもニーザも今は準備で動けない。
2人に余計な力を使わせないよう庇いながら次の手の準備を始めた時、念話が響いた。
『フェンリルさん、ニーザちゃん、アルシアさん、今そっちまで飛びます!!』
アリスの声だった。だが………
飛ぶって、何だ?