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第37話「巨大スライム」


「く……そ!こんな、事がぁぁあっ!!」


怨嗟の声を上げるマグジールを大小様々な無数の重力球が襲う。

マグジールの身体が千切れ飛び、即座に修復されるが、ニーザの放った堕天は再生する端からそれを削り取り、ストックされていく命を削り取っていく。

せめてもと剣を拾い直し、迫る暴威に向けるが、それはまるで枝切れのように圧し折れ、吹き飛ばされていく。

ニーザは相変わらずつまらなげにマグジールと、絨毯爆撃の様に降り注ぐ堕天を見つめていた。

延々と続く蘇生と破壊………、

だが、それも無限ではない。

遂にマグジールを護っていた蘇生魔法はあと一度残して消え失せた。


「あと一度で終わりよ。少しだけサービスしてあげるわ。」


ニーザの言葉と共に無数の重力球が一つに溶け合い、大きな矢へと形を変える。

ニーザはまるで号令を出すかの様に錫杖を振り下ろし、漆黒の重力の矢をマグジールに放った。

矢は正確にマグジールの心臓を射抜き、球状へと膨れ上がると、マグジールを飲み込んでいく。


「バカな………!ふざけるな、ふざけるなぁ!!も、貴様らも………、どいつもこいつもこの僕をコケに――――――、」

「煩いわよ。」


マグジールの言葉を遮るように、再び重力球が豪雨となって奴を地表諸共撃ち抜く。

重力の爆撃は数分降り注ぎ、最後にはゆっくりと何事も無かったかのように降り止む。

俺達やあまりの強さに呆然としている冒険者やドワーフ達が見守る中、戦いは決着が付いたとばかりに錫杖を消してニーザは無数の重力球が落ちた地点を満足そうに見ていた。


「0よ。」

「ん?」

「今の攻撃で彼の蘇生はもう使えなくなった。この場で殺す方が楽だけど、その前に聞くこと聞かなくちゃ。」


重力球の破壊跡から、再び蘇生されたマグジールが姿を現す。が、その姿には先程まで僅かながらにあった余裕は無くなっていた。

当然だろう。自身を護っていた蘇生魔法は一瞬にしてその全てを消されてしまったのだから。


「さて、じゃあ教えてもらおうかしら?貴方の探す器と、裏にいる者について。」

「……答えると思うか?」

「言わないならそれでいいわ。ここで呑気に私達の相手をしてるところを見ると、器とやらは見つからなかったようだし。それに………、」


ニーザはそこで区切り、マグジールの身体を覆う黒い力を見てから再度口を開いた。


。あとは口を割らない貴方をこの場で殺してあげれば済む話よ。」

「………………っ。」


マグジールが怯み、後ずさる。

ニーザの言う通り、器が何かは分からないが凡その敵の形は見えた。それが誰なのか、また……までは分からないが、今得られる情報としては充分だ。

薄々感じていた可能性が当たったのだけは、残念でしかないが。


ニーザは空中の魔法陣を消して、自分の掌で直接術を組み始めた。


「さて、トドメを刺してあげる。神の力だろうと関係ない。跡形も無く消えなさい。」

「くそ……………!」


「破壊」の権能を孕み、高圧縮された赤黒い雷がニーザの掌で弾ける。

直撃すれば跡形もなく消し飛ぶ、それ程の力を込めた一撃だ。


「……認めよう、僕の負けだ。だが、道連れにはさせてもらう……!」


どう転んでも勝てないと悟ったのだろう。

マグジールは胸を自分の手で貫き、魔法陣を起動させた。

術式からして魔族を召喚するタイプだ。


「あら………、貴方の後ろにいる者はよくやるようね?」


ニーザがそれを破壊しようとするも、何らかの干渉……、恐らくは黒幕の介入により、それは出来なかった。


そしてその召喚先も、此処ではあるが術式はマグジールを生贄にして出てくるタイプの物だ。

マグジールの身体を溶岩の性質を持ったゲル状の物体が覆っていく。


「ラヴァ・スライムか……。」


それも等級的には特級……、気配の感じからして暴走魔族らしい。

スライムはこの世界においては色々な意味で有名な魔族だ。

よく、スライムは下級の最弱モンスターとして名が上がるが、それは駆け出しの冒険者や戦わない一般人が軽く話を聞いただけで広げたデマカセの様な物だ。

下級に於いてはその認識で正しいが、スライムは全ての等級に存在する魔族で当然、等級が上がればそれだけ強くなる。そして……


「やっぱりバカでかいな。」

「そうじゃな。しかも暴走魔族というのが質が悪い。」


スライムは等級に応じてデカくなる。特級クラスにもなると、その大きさは城や山レベルには大きくなる。

デカくて強いを体現する、そういうシンプルさでもスライムは有名なのだ。

……戦闘狂以外は誰も喜ばないが。


そして、特級クラスのスライムにはもう一つ厄介な特性がある。

それは周囲にある物を取り込み、自身の力に変えてしまうという、非常にやっかいな物だ。

これは取り込んだ物の能力も自分の物としてしまう性質も持ち合わせている。

召喚された暴走状態のラヴァ・スライムは今も溶岩や岩石、アリス達が倒した魔族を取り込んで強くなっていく。

………当然、そこには自身を呼び出したマグジールも含まれている。

その様を見て、冒険者やドワーフ達は改めて唖然とし、俺とフェンリルは心底面倒くさいという顔でラヴァゴーレムを見た。


「マグジールめ。厄介な物を残しおって……。」

「ああ。神衣を纏った特級スライムなんて、倒すのがすげー面倒くせぇぞ。」


「オオオオオオオオオオオオ!」


神の力を纏ったラヴァ・スライムは、まるで俺達に挑む意思を見せるかのように、大きな咆哮をあげたのだった。

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