先に動いたのはニーザだった。
ニーザは自分の周りに魔法陣を10展開して5属性の魔法をそこから弾丸の如く連射していく。
マグジールは……避けない。
まるでその必要も無いと言わんがばかりに飛来する魔法の雨をその身で受け止めた。
無数の魔法がマグジールの身体に叩き込まれ、その姿が炸裂する魔法によって見えなくなっていく。
「………ふふふ。」
魔法が着弾し、爆発する地点を見て、ニーザは愉快そうに笑い、しゃらり、と音を立てて錫杖を構えた。
次の瞬間、爆炎の中から無傷のマグジールが剣を両手で構えて斬り掛かってくる。
「おおおおおおおおっ!!」
ニーザは読んでいたとばかりにその一撃を錫杖で受け止め、その長い尾でマグジールを殴り倒さんとするが、マグジールは深くは追わず、そのまま後退して、ニーザはそれを追うように魔法を再びいくつか放った。が、それはマグジールの纏う黒い力に食われ、消えていった。
「魔法が……通じない?」
ニーザが放った一発一発の魔法は一般の魔導士が放つ上級魔法と同等の威力だった。
それをまったくの無傷で受け止めたのを見て、アリスの顔が曇る。
「そうだ。この身体に魔法は通じない。邪悪竜ニーズヘッグ。如何にお前が最強の高位魔族の1体であり、強大な存在であろうと……この僕の前には何の意味も無いと知れ!」
マグジールはそれがまるで自分の力だと言わんばかりに叫ぶが、俺達は心の中でこっそり「だからどうした……」と呆れる。
奴の纏っている力はたしかに強力だ。
たとえどんな魔導士であっても、あれを手に入れるのはほぼ100%不可能だろう。
だが、あくまで効かないのは魔法だけであり、神術は通る。
少なくともここにいる全員、神術は使える。まあ、俺だけは攻撃オプションが少ないのは事実だけれど……。
そう考えると、この場合……一番の奴の天敵は意外とアリスかもしれない。
彼女は神術がしっかり使えるし、通じないなら通じないで直接ぶん殴りに行くからな……。
「何がおかしい!!」
俺達があまり驚かなかったからか、それとも気付かずに笑ってでもいたのか、マグジールが声を荒げた。
「そんな物は意味が無い。」そう言おうと口を開きかけるが、それを遮るように、くすくすとニーザが笑う。
緩く、そして妖しく。
「いいえ?貴方が私の魔法をこの程度で封じた気でいるのが面白くて、つい。」
「事実、そうだろう。貴様の力は僕のこの力の前では何の………!」
「それ♪」
ニーザは風の魔法で巨大な熱風の塊一つ作り出し、それをマグジールに投げ付けた。
「ふん……無駄だと言うのが分から………!?」
ニーザの放った魔法は、今度はマグジールの纏う力に干渉される事無く、しっかりとその身体に直撃し、地面を抉りながら吹き飛ばした。
「今度は通って……あ、そっか。」
アリスはマグジールが吹っ飛ばされた光景を見て一瞬、不思議そうにしていたが、その原因が分かってすぐに一人納得した。
対して、マグジールは訳が分からないとばかりに混乱していた。
「ば、馬鹿な…、魔法は僕には効かないはず……」
「私の事を舐め過ぎよ、マグジール。現統治者の一人である私に借り物の力と、その程度の認識で挑んだ愚かさ、その身をもって知りなさい。」
ニーザはその大きな黒い翼をバサリと広げるの同時に、空に無数の魔法陣を展開した。