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第34話「復活するマグジール」


「妙な力の気配を感じたから警戒していたんだが、呆気ないな……。」


戦闘を終えた俺はかざした手を下ろした。

正直、コレを使う程の事ではなかったと言っていい。

召喚を解除すると、手脚を覆っていた氷が砕けて霧散していき、それと同時に抑えていた激痛が全身を襲う。一瞬、気が遠のきかけたレベルだ。


「いっ!?つつつ……、久々に使うと、やっぱ応えるな……。」


近接戦闘に於いては無類の強さを誇るフェンリルの召喚だが、身体強化を肉体の限界を超えて使うのと、痛覚を一部遮断して使う為、反動が凄まじいのだ。

痛む身体に回復魔法をかけて、戦闘中に出来た傷を塞ぐ。

その時だった。マグジールの死体から凄まじい勢いで黒い負の念が吹き上がり、こちらに襲いかかってくる。

俺は鎖でバフォロスを捕まえ、そのまま振り回して迫りくる負の念を引き裂いた。


「予想してたが、やっぱあれでも死なないか………。」


俺は目の前の光景を見て顔を顰める。

普通に考えればさっきのでトドメだが、どうにもコレで終わりではないらしい。

砕かれてバラバラになったマグジールは、何事もなかったかのように元の身体に戻って、平然と起き上がったのだ。


「驚いたよ、アルシア……。まさか、ここまで呆気なく一回殺されるとはな……。」

「……………状態固定、加えてストック型の蘇生魔法か。」


状態固定……。対象の状態を指定した状態で固定し、損傷を受けると固定した状態へと巻き戻す魔法だ。

加えて、ストック型の蘇生魔法。こちらはそのまんまの意味だ。

死んだとしても、予めストックしてある分の命だけ蘇生できる。

組み合わせとしてはこの上ない最高の組み合わせだ。だが………、

不気味に笑うマグジールを睨み、呟く。


「負の念といいこの魔法といい……、どこの誰に魂を売ったのかね。この外道は…………、」

「これで分かったろう?お前が僕を殺す事なんて無理なんだよ。さあ、続きといこうか。」


状態固定と蘇生魔法。この2つは1000年前、術式と理論……、両方が確立されていたものの、膨大な魔力、ほぼ神術に近い領域だということで人間では使う事は出来ないとされていた。

当然ながら俺にも出来ないし、使う事が出来るとすれば、俺が知る限りせいぜい3人。

ロキとニーザ、それと故人ではあるがその魔法を作り出した大魔導師だけだ。

(それクラスの奴がこいつの背後にいると考えて間違いないか……。)

大まかな形で見えてきた敵の正体に気付き、アダムの書を起動した時だった。


「続きなんて必要ないわ。それに、もう蘇生出来なくしてあげる。この私が。」


俺が構えるのを手で制して、先程からマグジールを観察していたニーザが前に出た。

どうやら俺の役目は終わりらしい。


「もういいのか?」

「ええ、充分よ。やっぱりデッドコピーね。正確にはデッドコピーもどきかしら?」

「コピーだと……?」


マグジールがコピーという言葉に反応して顔を歪ませる。コピーと言う事実を指摘されて動揺したのか、或いは気に入らなかったのか……


「じゃが、もどきとはいえ、デッドコピーであれば妾達が……」

「そう、普通ならば気付く。こいつは恐らく、この騒動を起こした者の命と同じ命としてカウントされている。増えてもないし、上手く偽装されているのだから、気付けないのも仕方ないわ。デッドコピーもどきっていうのは、製法がそれに似てるだけ。寧ろ、こっちのマグジールの方がデッドコピーという技術で見た場合、完成度は遥かに高い。」


なるほど…、と俺もフェンリルも頷く。

フェンリル達に気付かれない様に自分自身として偽装を施し、別の命としてカウントさせない。

たしかにそれなら生命を管理するフェンリル達の目を欺けるだろう。


「まあ……、それも私の前だと何の意味も無いのだけれど。」

「意味が無い、か……。それは僕の台詞だ、邪悪竜ニーズヘッグ。貴様の得意とする魔法戦闘……その悉くが僕の前では何の意味も為さんと知れ!」


そう叫ぶとマグジールはその身体にドス黒い力を纏った。魔力では無い。これは……


「貴方が神術、ね………。魔法に於いて三流以下の貴方がそんな物使えるなんて、貴方の創造主は中々出来るようね?」


そう、マグジールが纏っている黒い力は神術のそれだった。

恐らく、マグジールを蘇生した何者かが付加したのだろう。

ニーザは「面白くなりそうだ。」と、口元を歪ませながら、自分の真横の空間を歪めて自身の武器である錫杖を取ると、それを黒い力を纏ったマグジールに突き付けた。





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