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第33話「召喚・フェンリル」


「さて、お話も済んだし……アルシアのお客さんの到着よ?」

「分かってるよ。」


俺が答えるのと同時に、俺達の前に何かが凄まじい勢いで落ちてきた。

砂煙が晴れるのと同時に姿を現す。

スノーヴェールで対峙した男、マグジールだ。


「あれだけの魔族を、こうも早く片付けたというのか……。」

「残念ながらな。100や200では足りない様だぞ。」


俺はそう答えて動揺を浮かべるマグジールからニーザに視線を移す。

彼女は何を考えているのか分からない笑みを浮かべているが、その瞳は真っ直ぐマグジールを見据えていた。まるで何かを観察するように。


「その気配……、まさかニーズヘッグか?いや、だが彼女とは明らかに………」

「……そう言えば私、この姿でマグジールに会った事無かったっけ?」

「無いな。マグジールがいる時にはニーザ自体がいないか、いてもお前は爆睡して出てこないかだし。」

「そう、どっちでもいいわ。それはそうと、彼……面白いわね?」


ニーザはそう言って蛇のような目でマグジールを眺め、マグジールはその視線を受けて怯んだ。

面白い、と言っても彼女が言ってるのはマグジールを構成している魔法の仕組みに興味があるだけで、それ以外には一切興味が無いのは見て分かる。


「アルシア。」

「何だ?」

「5分でいい。。」

「な…………!?」

「ニーザ、ちゃん……?」


ニーザの冷たい言葉を聞いたマグジールが驚愕に目を見開き、アリスは困惑を隠せないでいた。だが、ニーザの意図を知っている俺は黙って頷き、フェンリルはアリスに「大丈夫じゃから見ておれ。」と声を掛けた。


「って事だ。うちのお姫様がそれをご所望なんでな。始めから少しばかり本気で行くぞ。」

「え、俺の嫁?やだ、アルシアったら……。」

「違うわ!まったく合っとらんわ!!」


ニーザが頬に手を当ててくねくねとしてる所にツッコミを入れる。

何をどう聞き間違えればそうなるのだ!と。

いつものやり取りをする俺達に、マグジールは怒りの声を上げる。


「ふざけた事を……、僕が何の対策もせずにここに来たと思っているのか!」

「アルシア、加勢するか?」

「いや、俺一人でいい。ただ、お前の力は使わせてもらうよ。」


フェンリルの申し出を断り、俺は召喚を起動した。

対象はフェンリルだ。

手脚に氷の爪が形成され、特殊な身体強化の力が全身を駆け巡る。全身に重い激痛が走るが、痛覚を遮断してその痛みをある程度抑えた。

フェンリルが展開した力を見て釘を刺す。


「アルシア、言っておくが……それを使うのは今回は5分で止めておけ。」

「分かってる。起きてからコレを使うのは初めてだし、それに、今の段階でもかなりしんどい。」


俺が使うフェンリルの召喚は言ってしまえば諸刃の剣だ。

強大な力を得る代わりにその反動も凄まじい物になっている。現に……、


「……アルシアさん、口から血が!?」


1000年ぶりにフェンリルの力を使うのはやはり身体には相当応えるようで、口の端から血が滴り落ちる。

アリスが回復魔法を掛けようとしてくれるのを「大丈夫だ。」と手を上げて止め、俺はそのまま、何も持たずにマグジールを見据え………

その背後に瞬時に移動してから拳を叩きつけた。


「がっ!?」

「嘘………、アルシアさん、いつ………」


アリスが驚いた様に目を見開いていた。

彼女からすれば、急に俺がマグジールの背後に現れた様に見えたのだろう。

事実、それくらいの速度で走っていたのだから。


俺は立ち上がって態勢を整えるマグジールに、今度はバフォロスを取り出してから構え、インドラの力の1つを起動する。


拡がる崩落 シャーンティ。」

「あれは……、サーダリアの!?」


マグジールの表情が強張るのと同時………、バフォロスは帯電し、神の雷を周囲に解放した。

マグジールは俺の放った広域放電の範囲から抜け、それでも尚襲いかかる雷を、負の念を纏わせた剣で迎撃する。

(やっぱり、負の念も使ってくるか……。)

奴の正体が何なのかは今の段階では分からないが、そういう手を使って来るであろう事も想定内だった俺はそれに驚く事なく、荒れ狂うバフォロスを全力で投擲する。


「ぐあぁあああっ!?」


マグジールは避ける事もできず剣で俺の一撃を受け止めるも、至近距離での放電を食らって堪らず絶叫する。


「四神炎舞。」


俺は更に自身の分身体を3つ生み出し、それと同時に駆ける。

バフォロスを何とか払い除けたマグジールだったが、迫りくる分身を見て剣に纏わせた負の念を膨張させ、それらを切り裂いていく。

両断されると同時に分身が爆発するが、マグジールはそれを躱しながら咆哮する。


「いつまでも………、お前の思い通りになると思うなよ!!」

「いや、させてもらうぞ。言ったはずだ、少しばかり本気でやらせてもらう、ってな。」


そう返しながら右腕に纏った氷の爪を叩き込み、マグジールがそれを剣で防ぐが、受け止めた腕力に思わず顔を歪め、押される。


「な、なんだ………っ、この馬鹿力は…………っ?!」


フェンリルの力を召喚している時に掛かっている身体強化はリミッター解除の類の物だ。

通常の身体強化などとは訳が違う。

その代償として力の反動で血管が千切れ、皮膚が裂け、全身が悲鳴をあげるが、俺はそれを無視して右腕に仕込んだ力を発動させる。


裂爪弾プリズビット。」


マグジールに向けた氷爪から氷の鋭弾が至近距離から連続で放たれ、その身体を鎧を貫いて無慈悲に食い込んでいく。


「づ、ぁ………が…、ぁ!?」


裂爪弾はフェンリルの技の中でも牽制目的で使われる事が多いが、この距離で殺すつもりで撃ち込めば十分な殺傷力になる。

マグジールの身体が完全に内部から凍てついたのを確認し、俺は左手を開いて突き出す。


崩壊ディスラプション。」


解号の言葉と共に手を握り込むのと同時に、マグジールの体は音を立てて崩壊していった。





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