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第32話「2人のニーザ」


キングトロールを倒した後、更に湧いて出てくる魔族の群れをフェンリルさんと狩っている時だった。

戦っている最中から感じていたある違和感に気付く。


「明らかに増えましたね……。」

「ああ。予想はしていたが、やはり100程度ではすまぬか……。」


そう言いながら、フェンリルさんは拳を地面に叩きつけて、私達の周囲の魔族の群れを氷の結晶で薙ぎ払った。

つい数分前辺りから戦っていた魔族の数がいきなり増え出したのだ。

少し前にドワーフの方々の援軍も来たので今のところ問題は無いけど、増えるペースが更に上がればまた話が変わる可能性だってある。

私が武器を構え次の敵に備えると、フェンリルさんは私を庇うように前に出た。


「アリス、妾はまだ魔力も神力も残っている。暫くは妾が相手をするから、汝は今の内に少し休め。」

「いえ、私はまだ………、」

「アリスは神術を使う実践は今回が初めてじゃ。神術は自分が思う以上に力を使う。だから今は休め。」


そう言って微笑むフェンリルさんに「分かりました。」と言おうとした時だ。空から無数の光の矢が豪雨の様に降り注いだ。

魔族の群れがそれに撃たれ、次々と悲鳴を上げながら死んでいく。


「アリス!妾達に当たる事はないがまず離れるなよ!!」

「どういう事ですか、フェンリルさん!」

!」


降り注ぐ光の雨を警戒しながら、フェンリルさんが私を抱き寄せてそう叫び、そして………


「これでお掃除は終わりね。褒めて、アルシア?」


私達の前に、アルシアさんと、




◆◆◆


「これでお掃除は終わりね。褒めて、アルシア?」

「へえへえ、戦いが終わったらな。」

「もう終わってるわよ。」

「…………それでも帰ってからだ。」


ハグを要求してくるニーザを適当にあしらおうとしたが、残念な事に先程の攻撃で全て全滅してしまったらしく、帰ったら少なくともハグは確定事項となってしまった。こん畜生が。

帰った後、どうやって誤魔化すか考えていると、アリスが恐る恐る、フェンリルは露骨に面倒くさそうに近付いてきた。


「あの、ニーザ……ちゃんですか?」

「んー?そうよアリス。私が来るまで頑張ってたみたいね、偉い偉い。」


不思議そうな顔をするアリスの頭を、ニーザが機嫌が良さそうに撫でた。

まあ、撫でられた本人はどういう事なのだろう、と困った笑顔を浮かべているが。

何せ、今のニーザは本人がそのまま成長したらこうなるだろうな……という見てくれになったのだから。


「やっと出おったか……。相変わらず容赦が無いの……。」

「うん。やる気がないドワーフの代わりに頑張ったわよ、私。それに……、1000年分、アルシアがたっぷりと可愛がってくれるみたいだし♪」

「言っとらんわ色ボケドラゴンが!!くだらん事言ってねえで構えろ!まだ来るぞ!」


約束してもない事を言われて俺はついキレ気味にツッコむ。

寝ていた時期の事を突っ込まれると弱いが、さすがにそれとこれとは別だ。

しかし、ニーザはそんな俺の怒りなどどこ吹く風とばかりに流す。


「問題ないわよ。少なくとも、敵性反応はあと一つだけ。来るのももう少しかかるわ。」

「………どうしてこの状態でもちゃんと仕事してるかねぇ。」

「これでも統治者の一人だし、邪悪竜なんて言われてるのだもの。言葉で惑わすのも当然でしょ?ほら、アリスが私の事知りたがってるみたいだし、説明しないと。」


俺の余裕のない様を見て、ニーザは更に急かすようにそう言い放つ。

たしかに、

ならば、今の内にこのニーザが何なのか説明した方がいいだろう。

さっきからアリスはどういう事だとばかりに目を回しそうになってるし。


「あの、それでニーザ……さんのこの状態はどういう……」

「ニーザちゃんで良いわよ。わざわざ変えるのも大変でしょう?」

「え、あの、えっと……」

「アリス、落ち着け。分かりやすく説明すれば、これがニーザの本来の姿じゃ。」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。ただ、いつものニーザがこの姿を嫌っているから無理矢理あの姿になっているだけで、基本的には同一人物じゃ。」


混乱しているアリスに、フェンリルは取り敢えず分かりやすく説明する。

そうとしか説明しようがないんだよな……。

説明されてる本人は興味なさそうにくぁ、と小さくアクビをしているが。


「その、嫌じゃないんですか?無理矢理変わってるって、要するに閉じ込められてるみたいで……」

「ん?ああ、いいのよ。いつも外に出てるのが面倒くさいから、私があの子に任せてるのもある訳だし。」


そうニーザが言い放つと、アリスは目を点にして「え?」と聞き返す。


「此奴は極端に面倒くさがりなんじゃ…。故に、この状態が成立しておる。まあ、あのニーザに任せてると言っても、記憶は共有してるから、この会話も小さい方は知っておる。こっちは大体寝ておるから、知ってても肝心な時に出てこんがな?」


フェンリルの言う通り、この大人のニーザは記憶を共有しているものの、基本的に寝ているので、いないと困る時には出てきてくれない事がある。


「これでも反省してるのよ、フェンリル。お陰で、私の愛しいアルシアに1000年も会えなくなったのだから。もう少し出てくる頻度増やそうかと本気で思ってるわよ?」


そう言いながらさりげなく抱きつこうとするニーザを「引っ付くな。」と剥がす。

それと、ちっこい方のニーザのストレスが跳ね上がりそうなので本気で止めて欲しいとついでとばかりに溜め息を吐いた。

実際問題、俺に対して、あっちのニーザからの当たりが強くなりそうだし。


「……話を聞いてる感じ、最近小さい方のニーザちゃんがおかしかったのは……」

「私のせいね。」

「ですよね……。それで、姿が違うだけで同一人物だと……。」

「ああ、そうじゃ。」


アリスが今まで聞いた情報を自分なりに整理していく。

フェンリルが少し身構えているが、たぶん彼女の予想は当たってるだろう。

アリスが何処か、年頃の女の子の表情をしているし。


「という事は、ニーザちゃんはアルシアさんの事がんむぐっ。」

「……それ以上はあっちのニーザの名誉の為に止めてやれ、アリスよ。あと、確実に面倒な事になるでの。」


急いで口を塞いで、大真面目にそんな事を言うフェンリルに、何が起きるのか予想できたのか、アリスは口を塞がれたまま、若干涙目で凄い勢いで首を縦に振った。

まあ、俺はノーコメントの方が良いのだろう

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