………その頃、前線ではアリスがご機嫌な様子で暴れていた。
「アリス。どうじゃ?」
「大丈夫です。武器の事を気にしないでいい分、すっごい戦いやすいです!」
「そ、そうか……。まあ、相手は強化魔族や暴走魔族、それにちらほらと特級もいる。油断せず、妾からあまり離れるなよ。」
「はい!」と元気に返して、私は押し寄せてくる魔族に立ち向かう。
フェンリルさんやニーザちゃんとの模擬戦や、基礎だけとはいえ神術の修行をしたことで、私は戦闘がかなりやりやすくなっていた。
勿論、まともな武器を使えるのもあるけれど、今までの、色々と重石を付けられていたような感覚も無い為、身体がとにかく軽い。
本当に絶好調だ。
ただ、魔法の威力が上がり過ぎているという事で、使っても上級魔法までにしとけ、と言われてしまっているけど……。
火山地帯でホーリーテンペストなんて撃って悪い影響などがあっては本末転倒も良いとこなので、これは仕方ない。
イヴの聖杖を取り出して、教えてもらった形に神力を練り上げて神術を起動する。
神術に魔法陣はいらない。しかし、特定の形に練り上げた上で、それを力として解放する必要がある。いわば鍵の様な物らしい。
淡い紫の色の光が聖杖を覆ったのを確認し、それを向かってきたゴブリンやラヴァ・スライム、ワイバーン目掛けて振り下ろすと、地面から無数の鋭利な紫水晶の塊が現れ、次々と魔族を打ち砕いていく。
私が放った神術「水晶結壊」によって、強化魔族、暴走魔族と呼ばれた彼らはそれになす術無く身体を貫かれ、断末魔を上げて絶命していく。
私は一度聖杖をしまってから、地面から生えてきた手頃な紫水晶の塊に手を当て、それに神力を通して振り回しやすい大きさに作り変えたあと、
暴走魔法と命名されたそれは水晶の槍を今にも壊さんがばかりに溢れそうになっているけど、私はそれを魔力で無理矢理抑え込み、破裂するギリギリで逃げた魔族の群れ目掛けて思いっきり投げつけた。
「当たって!!」
「ぎがぁあっ!?」
投げた槍はゴブリンに刺さったあと、私の制御を離れた事によって紫水晶の礫を撒き散らしながら爆発した。
これで討ち漏らしは0だ。
「問題無いようじゃな。アリス、アレはいけるか?」
そう言ってフェンリルさんは私達に迫ってきた強化魔族、キングトロールを睨みつけた。
魔力パターンは多少の差異はあれど、私があの時、怯えて戦えず……、アルシアさんが倒した物と同じだ。
キングトロールはこの状態ならば通常の上級魔族の上の方くらい、暴走すると特級の下の方になる個体もいると聞く。
でも……
「やれます。鍛えてくれた時のフェンリルさんやニーザちゃんより、全然弱いですから。」
「そうか。アリス、任せたぞ。」
臆することなく、私は力一杯頷く。
アルシアさん達がいない短い時間だけれど、2人は出来うる限りの修行をつけてくれた。
慢心でも油断でもなくあの修行に比べたら、目の前の魔族なんて何てことない。
私は自分専用の武器庫…収納魔法から適当な杖を2本取り出し、フォトンブレードを発動して時間差で2本とも投げつけた。
が、キングトロールは難なくそれらを躱し、二つの光の刃は背後の空へと飛び交った。
それでいい。何もここで当てる必要はないのだ。
再び聖杖を取り出して、今度は神術ではなく普通にフォトン・ブラストを撃ち出す。
撃ち出されたそれらを、キングトロールはその手に持った大鉈のような鉄塊で薙ぎ払うか、その場を動かずにやり過ごすかしている。
いくつかはわざと当たらないように撃ったからだ。
このフォトン・ブラストは何もダメージを与える為に撃ったのではない。
次からの攻撃を確実に当てるための布石でしかないのだから。
キングトロールがその手に持った鉄塊でフォトン・ブラストを薙ぎ払っている直後、その背中で何かが爆発した。
「ガァッ?!」
キングトロールは背中で起きた爆発による激痛で顔を歪める。
先程避けられ、こちらに回転しながら帰ってきた最初の杖が爆発したからだ。
更に、もう一つの刃も帰ってきて、こちらは爆発する事なく、鉄塊を持ったその剛腕を易々と斬り落とした。
「グゴアァアアアアアア?!!」
腕を落とされ、断末魔を上げるキングトロールに、今度は腰のホルスターから抜き放った聖銃を走りながら近付いて連射していく。
撃ち放たれたいくつもの光の弾丸が容赦なくその身体を貫き、更に悲鳴を重ねたその身体目掛けて私は一気に跳躍した。
銃をホルスターに戻してすぐ、普段よりも多めに掌に魔力を込める。
キングトロールが私に気付いて私に手を伸ばすが、もう遅い。
高圧縮したフォトンを編み上げた掌底を、私は相手の心臓目掛けて思いっきり叩きつけた。
「ギアァァァアアアアアアッッ!!!?」
一撃で胸に風穴を開けられ、キングトロールは今までよりも大きな断末魔を上げた後、最後に地響きを立てて大地に倒れ伏した。
私は「やりました!」と笑顔でフェンリルさんの方に顔を向けたけど、彼女の顔は引き攣ったような笑顔を浮かべていた。
「アリスは………そうじゃの。やはり汝は物騒じゃな?」
後ろで惨殺され、血の海に沈む魔族達の死体を見て、私は言い逃れも出来ず、ただ曖昧な笑顔を返すしかなかった。