「………ここは相変わらずだな。」
フレスの背の上で防寒用のマントに包まり、俺は目の前に広がる光景を見てそう呟いた。
辺り一面、それ以外の色など存在しないと言わんばかりに吹雪が吹き荒れ、白い世界と化したここは俺達の目的地、スノーヴェール雪山だ。
この雪山にはある特徴が2つあり、1つ目は上空からでなければ近づけない。
麓に大量の魔族がいて容易に侵入出来ない……という事ではない。
ここに流れる龍脈は特殊な流れをしており、この吹き荒れる吹雪を外からの侵入を防ぐように特殊な流れを作らせた上で吹かせている。
特に麓に於いてはそれが強くなっており、山頂付近から僅かに存在するようになる吹雪の幕の隙間から内部に入る以外、この山に入る方法はない。
スノーヴェールとはよく言ったものだ。
2つ目の厄介な特徴だが、殆どの魔法が使えなくなるのだ。
使えなくなると言っても身体強化の類は使えるし、アーティファクトの類なども使える。
分かりやすく言えば、火球などの身体から離れてしまう魔法の殆どが意味を為さない。
龍脈の力が干渉して、それらを掻き消してしまうからだ。
俺は身体強化に加えて、予め魔道具に仕込んでいた魔法を起動し、雪に埋もれる事なくその上を歩いた。普段よりも多めに魔力を使わなければ満足に機能しないのが地味に鬱陶しい。
遅れて同じように防寒用の装備を予め着込んでいたフレスが人間の姿に変化して、俺の隣に降り立つ。
「ここにあるのか?」
「ああ。私がここに隠した。」
「フレス、一つ聞きたいんだが、アリスに渡すつもりなのは………」
「君の想像通りだ。リアドール君が気にいるかどうかは知らんがな。」
「やっぱりか……。」と予感が的中し、一人静かに俯く俺を見る事なく、フレスは続ける。
「本当なら私も反対だ。だが、昨日ニーザが言ったように、私も今回の件は大規模侵攻に関係があると睨んでいる。」
「まあな。そこは俺もフェンリルも同じだよ。探知魔法で引っ掛かった反応の数から考えて、大陸中に強化した魔族を解き放つなんて、どう考えても無理がある。」
「そうだ。だからこそ、使える物は何でも使わねばならんし、もしもの事態にしない為にも、出来ればアレは近くに置いておきたい。それに、楽観視ではあるが担い手になり得ないならアレは勝手に離れていくよ。」
「そう、だな……。そうなる事を祈るか。」
それだけ返して、俺は顔を上げる。
フレスの言う通りだ。アリスが使う使わないは別として、万が一に備えて回収しておいた方がいい物には変わらない、
アリスが担い手になり得ないなら、勝手に離れていくのだろうから………。
暫く歩くと、フレスはここだと言わんばかりに立ち止まり、目の前の岩壁を切り崩す。
そこには小さな祭壇のような物があり、そこには一挺の銃が置かれていた。
フレスはそれを取り出して俺に手渡してくる。
手元のそれを見て俺は軽く息を吐く。
「………スルトに聞いたことはあるけど、見るのは初めてだよ。」
「見ないで済むなら、それに越したことは無いからな。」
「まあな。それと……」
俺はそう言って収納魔法からバフォロスを抜き放つ。
フレスも抜いたままの剣を構えた。
「…………アルシア、来るぞ!」
「分かってる!!」
ギンッ、と金属のぶつかり合う鈍い音が俺とフレスが頭上で構えた武器から響く。
俺とフレスは上空から襲いかかってきたそいつを、そいつの剣ごと同時に弾き飛ばす。
吹き飛ばされたそいつは難なく空中で受け身を取ってから、ふわりと雪の上に着地し、それに合わせるように雪の中からスノーゴーレムが無数に現れ出した。
「………誰だお前は?」
俺の言葉に、両手にそれぞれロングソードとショートソードをだらりと下げたそいつは、こちらを見た。
マントとフード、仮面で顔も全身も覆い尽くしているそいつは一見魔族の様ではあるが、どこか不思議な気配を発していた。