「強化魔族………、やっぱりその呼び方が妥当か。」
「その呼び方が一番しっくり来る。強いと言えば強いが、良くも悪くもそれだけだ。個体ごとの強さも、暴走魔族のそれには及ばない。」
俺が呟くと、隣にいたフレスがそう返した。
先日の事を思い返し、フェンリルが2人に質問する。
『なら、問題はやはり数と通常の個体よりも知性が上な事か?』
『そう。数が増えた事によって連携も意識し始めた。』
『奴らが出てきたのはいつ頃じゃ?』
その問いにはフレスが答える。
「出てきたのは本当につい最近だ。せいぜい1年、2年前か。それまでは普通の魔族しか出てきていない。」
「探知は?」
俺の問いに、フレスは静かに頭を振った。
『一番厄介なのはそこなのよ。誰がやったのか知らないけど、上手く強化されてる。だって、何処にでもいそうな魔力パターンになる様に強化されてるんだもん。暴走魔族みたいに特徴的な違いすら出さないから、現地に行って確かめるしかない。あと、アンタ達の方でも何が起きたか教えてもらえる?昨夜は色々あったから軽くしか聞いてないし。』
「ああ、実はな……。」
俺とフェンリルは今まであった事を話した。
俺が寝ている間、アリスが強化魔族の群れと戦っていた事。俺が目覚めてすぐにキングトロールに襲撃された事。ファルゼア城に人間に扮し、悪事を働いていたアークリッチーが潜り込んでいた事。
更に、探知魔法で割り出した魔力パターンの事なども含めて全てだ。
一通り聞いて、ニーザは唸る。
『……アタシとフレスで掴んでる情報と殆ど同じか。』
「まあ、起きてまだ1週間と経ってないからな。元凶が目の前にいたら殴り倒したい気分だよ。」
寝起きで処理するには面倒くさすぎる話だ。
俺としては文句の一つでも言って、ボコボコにしてやりたい。
「そう言えば、グレイブヤードはどうなんだ?魔族の発生する地はあそこだろう?」
「真っ先に調べたよ。分かったのはあそこから生まれて、各地に散った後にあの状態になっている。グレイブヤードで生まれた直後は何もおかしい事にはなっていないんだ。」
「グレイブヤードで生まれた直後は何もなく……」
『各地に向かった後にあの状態になる……か。』
探知不可能な強化された特殊な魔族。
そして、恐らく意図的に調整している者がいて、そいつに関する情報が全くと言っていいほど無い。
「厄介だな……」
『そうね。情報が少なすぎるもの。でも、大規模侵攻が原因で発生してるんじゃないかとは思ってる。
アルシア達が本来目覚めるであろう予定の少し後で出てきたし。………っていうか、なんで起きるのが遅れたのよ?』
『其奴が寝坊したせいじゃ。』
「記憶にございません。」
いざ起きるとなると眠くて起きる気にもならず、また寝直したのが遅れた原因なので、すっとぼけようとそっぽを向くも、2人ともお見通しらしい。
「そんな事だろうと思った。」と2人同時に大きく溜め息を吐かれた。
挙げ句の果てに付き合わされたフェンリルにもジト目で睨まれ、俺は曖昧に笑いながら誤魔化すべく話を戻す事にした。
「あー………、取り敢えずだ。これから探してこう。これから、うん。出てきてそんなに経ってないから分かる事が少ないだけで、本格的に皆で調査すれば何か分かるだろ、さすがに。」
「…………それもそうだな。今までは私とニーザの2人で他の魔族の対処もしながらだったが、今回からはアルシア達もいる。寝坊した分もしっかり働いてくれると、私は信じているよ。」
「…………誤魔化せなかったか。」
「当たり前だ、しっかり働いてもらうぞ。」
フレスの情けのない言葉に肩を落として、この日の話はお開きとなったのだった。