目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第10話「アリスの修行と武器集め」


「………つー訳だ。フェンリル、ニーザ。あとは頼んだ。」


散々弄られ、不貞腐れながらの俺のお願いにフェンリルとニーザは苦笑しながら「分かった。」と返し、アリスに向き直る。


「そういう訳じゃ。妾とニーザで手取り足取り教えるから、アリスは安心して修行に励むがよい。」

「はい、ありがとうございます。でも、フェンリルさん達が神術を………?」

「うむ、妾達はロキを補佐する特殊な存在ゆえ、半分ではあるが神の血を引いておるからな。………そういえば、言っておらなかったか?」

「はい……。」


思い出したように呟くフェンリルの言葉に、アリスは小さく頷く。

言われてみれば、あの時にその辺の話はしていなかったかもしれない。


「その辺は話すと複雑だからまた今度。要するに、アタシ達も神術は使えるから、その辺は心配しないでって事。いいわね?」

「教えるとなると、これ以上の適任はいない。だから俺はアリスが使い潰す杖と、銃の方を探してくるよ。」


ニーザがそう答え、俺もそれに乗っかる形で言うと、アリスは更に不思議そうな顔をする。


「使い潰す……?この杖があるなら、今までの戦い方はしなくても平気じゃあ…………、」

「俺も最初はそう思ったんだがな。あそこまで戦い方として完成してるなら、俺個人としては止めなくていいと思う。」

「そうなんですか?」


「ああ。」と頷き返す。

今言った通り、アリスにイブの聖杖を渡す際に最初は止めさせようかとも考えた。

杖が壊れる心配が無い以上、使えなくなる戦法もあるだろうと。

ただ、アリスのあの戦い方は完成されすぎていて、ここでそれを捨てるとなると、それはそれで勿体無い。

それに、神力と魔力が混ざり合ったあの状態の魔法でも、アリスの使う魔法の威力はその辺の魔導士のそれよりずっと上だ。

何故彼女がそこまで異様な強さを持っているのかは不思議だが、折角だから武器として残していてもいい気がする。


「アリスは元の基礎が出来ている。なら、神力と魔力を別々に使える様にトレーニングして、今までの……暴走魔法とも言うべきか。それも戦術に組み込んだ方がいいかもしれない。」

「………分かりました、やってみます。」


少し迷ってはいたものの、アリスは俺が提案した方向で修行をする事を決めた。

表情を見るに、今までの戦い方を捨てなくてもいいと安心してもいるようだ。


「さて、あとはアリスが使う杖と銃、魔族の調査だな。」

「アルシア、それなんだけど杖は僕に任せてくれないかな。宝物庫にちょうどいい物があってね。それをリアドール君に渡そうと思う。毎回用意するのだって大変だろうしね。」

「………任せちゃってもいいのか?」


そう聞くと、フリードは笑顔で「勿論。」と頷いた。

いくら何でもこの場で的外れな物を用意するとも思えないから信用しても大丈夫だろう。

しかし、それにはアリスが困惑を浮かべて反応した。


「へ、陛下?お気持ちは嬉しいのですが、さすがにそれは…………、」

「貰ってくれると助かるな。魔導士団や騎士団達、全員で試したんだけど誰も使えない………、と言うより使い道がない魔道具があってね。今回の用途にぴったりだと思うんだ。もらってくれるよね?」

「………ありがたく戴きます。」


笑顔だが、有無を言わせぬ迫力にアリスは若干怯えながらそう返す。

元々控えめな性格なんだろう。

国王から直々に宝物庫にある品を渡される事態にアリスは目を回しそうになっていて、それを見た俺達は少しだけおかしくなって笑うと、アリスは不服そうに頬を膨らませた。




◆◆◆


「残りは2つか……。なら俺は魔族の調査と、アリスが使えそうな銃はないかヴェルンドに向かう。」

「えっと、お願いします………。」


アリスは何故そんな所まで?という顔をしているが、それには一応理由がある。

まず、中途半端な性能の銃では持っていても意味が無い。

だから高性能な物、出切れば神術や通常の魔法、暴走魔法を撃ち出して平気な銃が欲しいのだ。

そうなると神術にも対応出来る素材の銃となるが、今も変わっていないならそれを用意出来るのはドワーフ族しかいない。

しかも、その素材を作り出すだけでも彼ら曰く、1年はかかるという。

そうなってしまう可能性も考えると、それまでの繋ぎとして性能のいい物を数挺は確保しておきたい。

そう説明しようとしたところで、今度は意外な人物が話に入ってきた。


「いや、銃は一つだけ使える物がある。アルシア、私と一緒に行くぞ。」

「………フレスが?」


この中で一番、銃なんて物に縁が無さそうな男から話を出され驚いて聞き返すも、フレスは静かに首肯する。


「ああ、グレイブヤードで保管出来ない物を一つ、ある場所に封印しているんだ。」

「ああ、アレね。でもフレス、アタシ的にはあんまり………、」


詳細は分からないが、ニーザが躊躇いがちに視線を向けた先を見て、何となくだがその正体を察し、フレスにまた視線を向ける。


「俺の想像通りなら確かに、あんまり賛成したくないけどな……。」


ニーザと俺が視線を向けたのは、アリスに抱かれ、施された金の装飾を僅かにだが輝かせるイヴの聖杖だった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?