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第9話「神術の仕組み」


「…………あ、やば。」

「アルシアさん?」

「すまん、アリス。色々有りすぎて勝手に話を進めてた。アリスだって自分の事とかあるのに……、」


アリスの実力を見たり、神器を渡したりと、そこまでしてから俺は1番大事な事を見落としていた事に漸く気付いた。

今の今まで完全に忘れていたが、アリスはただ巻き込まれただけの一般人だった。

例の魔族の件にしろ何にしろ、俺達に付き合う義理は無い。

これ以上厄介な事に巻き込まれない内にさっさと帰すべきだ。

そう思いアリスに詫びるが、彼女は笑みを浮かべながら首を横に振った。


「大丈夫ですよ、アルシアさん。私もまだまだ皆さんと一緒に居たいですし、ここまでしてくださったんです。お邪魔かもしれませんが、最後までお手伝いさせてください。」

「それは俺達も助かるが………、アリスは学生だろ?現代の学校がどういうもんかは知らんが、単位とか………」

「それに関しては心配しなくても大丈夫だよ。昨晩の内にディートリヒとリアドール君の3人で話し合って休学措置を取る事にしたんだ。こちらの不手際で拘束までしてるからね。学費や単位なんかも補償する事になってる。」

「………と、いう訳なんです。」


困った様な笑みを浮かべ、アリスはそう答えた。

納得していいのかは微妙に判断に困るところだが、本人がいいと言うのであれば、それでいいのだろう。


「………分かった。これからもよろしくな、アリス。」


改めて挨拶をすると、アリスは「はいっ。」と力強く頷き返してくれた。




◆◆◆


「さて、それじゃあ今後の予定だが…………、魔族の調査、それとアリスの修行、アリスが使う武器の調達、だな。アリスの修行は…………、」

「そっちは妾とニーザがやろう。それでよいな?」

「ああ、頼む。俺じゃあ神術は教えられないからな。」

「え、そうなんですか?」


アリスの不思議そうな問い掛けに俺は頷く。


「アダムの書に記されている物は使うことが出来るんだけどな。それ以外は使えない。せいぜい仕組みを教えられるくらいだよ。」

「仕組み……、魔法とは何か違うのかい?」

「ああ。神術で使うのは自分の神力だけ。術式は存在しない。」


俺がそう答えると、フリードは眉を顰める。


「術式が、いらない………」

「神術は元々、形として存在するものを自分の力で呼び寄せて使う、そう思ってもらえればいい。」


手本として俺は1つ、俺はとある神の力を使う。


「クロノスの空間隔離を使う。よく見ていてくれ。」


アダムの書に記録されている力を呼び起こし、空間隔離の膜を生み出す。

それを見て、部屋にいる全員が驚いた様にそれを見つめた。


「………本当だ。魔法を使う過程とはまったく違う。」


フリードが展開されている神術をまじまじと見つめていると、フェンリルとフレスが困惑した顔で俺を見た。


「アルシア……。汝が何故、その名を……、」

「知ったのは封印されている間だ。ぼんやりとだけどな。この力の本来の持ち主の事は伝わった。スルトが神を嫌う理由が分かったよ。」

「そうか……。」


そう言ってフェンリルは黙る。

今のやりとりを見て周囲が訝しんでいるが、それも仕方ないだろう。

何せ、この力も、力の持ち主に関しても、俺達のいる世界では語られる事のない名前なのだから。

その時だった。


「それはいいんだけどさ、アルシア。」

「何だ、ニーザ?」


今まで黙っていたニーザが口を開いたのは。

それも、少しばかり機嫌が悪そうに。


「神術を試しで見せるのは別に構わないわ。構わないけど………、」

「ああ。」

「ああ、じゃないわよ!なんでアタシを隔離する必要があんのよ!!」


そう叫びながら、ニーザが自分を隔離している結界を割り砕いて出てきて、フリード達が苦笑ながらその場から少しだけ離れた。


「いや、丁度いいもんが無かったし、まあいいかな?って。」

「引っ叩くわよ、アンタ!本っ当に変なイタズラばっかして!!」

「まあまあ………。って訳でだ。神術は見ての通り…………、どうした?」


ぎゃーぎゃー喚くニーザを適当に宥め、話の続きに移ろうと背後を振り向くも、フリードが意地悪く笑っていたので、今度は俺が首を傾げる。


「アルシア……。なんていうか、やってる事が好きな女の子にイタズラ仕掛ける男の子そのものなんだけど。」

「…………………。」


言われた言葉に顔を赤くして思わず絶句し、周囲を見るも全員同意見らしく「うんうん。」と頷いている。

違うのは同じ様に顔を真っ赤にしているニーザだけだった。

そこに、これまた嫌な笑みを貼り付けるフェンリルが便乗する。


「そうじゃろう?少しばかり聡くなったと思えば、やはりこの辺はまだおこちゃ………、」

「うっさいぞ!!」


からかう気満々のフェンリルに問答無用で怒鳴るも後の祭りで、俺が何を言おうと誰も話を聞いてくれないのだった。

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