「私の新しい武器………ですか?」
その言葉に俺は頷いた。
場所は再び来賓室。全員が思い思いの場所で休んでいる中、アリスは申し訳無さそうに首を振った。
「お気持ちは有難いのですが、私は高価な武器をいただいても、すぐに壊してしまうので……」
しかし、その答えを俺は予想していたので、アリスに根本的な質問をぶつける。
「アリスは何故、杖を壊してしまうと思う?」
「え、それは私が魔法のコントロールが下手で……」
「違う。フリード達とも話していたが、そこで呑気にスコーン食ってるニーザは高位魔族で、邪悪竜なんて名前が付くほど強力な存在だ。いくら手加減していて、腕試しの戦いだったと言っても、そこいらの魔導士だったら戦っても一分も保たない。本当に戦いが下手だったら、あそこまで粘れないんだ。」
「ふぉうふぉう。もふふぉひじひんもひ『君は口の中のスコーンをさっさと呑み込め。』あだっ。」
フレスに剣の柄で殴られたニーザは、出された紅茶を飲んで口の中を空にしてから続きを口にする。
「アルシアの言う通り、アンタはもう少し自信を持ちなさい?アリスは下手くそなんじゃなくて、そもそも使ってる武器と力が合ってないだけ。もっと言うと力が混ざり合ってそれが色々と邪魔してる。」
「……どういう事ですか?」
「アリス、試しにこれを使ってみてくれ。」
ニーザの言葉に首を傾げるアリスに、俺は収納魔法から1本だけ杖を出して渡す。ドラゴンの魔石が埋め込まれた杖だ。
「これ……大分良い杖なんじゃないですか?」
「他の杖を出そうと思ったんだが、手持ちじゃ一番弱いのがそれしか無くてな。遠慮せずに、魔力を全力で流し込むんだ。」
「はい、行きます。」
アリスは一瞬躊躇ったものの、俺が渡した杖に魔力を全力で注ぎ込む。
すると杖は最初は持ち堪えはしたものの、その後に白く輝いてあっさりと粉々に砕け散ってしまった。
「………やっぱりな。」
「あの、ごめんなさい!!絶対に高価な物なのに……。」
「気にしないでいいよ。俺は杖は合わないから、どうしようか困ってたし。さて………、最後にコイツにさっきと同じ様に全力で魔力を流し込んでくれ。コレが、アリスがこれから使っていく杖だ。」
俺はもう一本、本命である杖を取り出した。
出したのは金色の装飾が入った、真っ白な杖。
それを見てフェンリル、ニーザ、フレスが同時に驚いた顔をしたが、それに構うこと無くアリスへ手渡す。
アリスは俺の渡した杖を受け取って、相変わらず躊躇いがちにではあるが、先程と同じ様に全力で魔力を流し込んだ。
だが、今回の杖はアリスの流した力を難なく受け止めて、傷一つ付く事は無かった。
「うそ……壊れない。」
「そういう杖だからな。」
「アルシア………汝が持っていたのか。」
「1000年前にファルゼア王国に保管されてた。大規模侵攻の時に俺がニコライから前払いの報酬として貰ったんだよ。」
そう返すと、フレスは当時を思い返すように目を瞑った。
「彼か。あの男は時折、千里眼でも持っているのではないかと疑いたくなる様な判断をする。」
「まあ、さすがのアイツも、これが遥か先の未来で役に立つとは思ってなかったろうよ。」
「あの、何なんですか、この杖。不思議と身体に馴染むような感覚もありますし………。」
アリスは俺とフレスを見て、戸惑ったように渡された杖と俺達を交互に見て質問する。
まあ、いきなりこんな得体の知れない物を渡されたら、そんな反応にもなるか。
「それは聖杖………『イブの聖杖』と呼ばれる神器だ。」
神器という言葉を聞いてアリスは固まり、イブの聖杖という名に心当たりがあるらしい人物達がギョッとした顔をする。
「記録では失われた物とばかり………」
「イブの聖杖………。そうか……、ではアリスの力は!?」
初めにディートリヒが声を大きくして、その事実に気付く。
俺は静かに頷いて、またアリスを見る。
「そう。アリスは力のコントロールが下手なんじゃない。神力と魔力が混ざり合って、それがアリスの邪魔をしてる状態なんだ。」