「フリード、そっちはどうだったんだ?」
「ああ、問題無かったよ。同盟も無事結ぶ事が事が出来た。それにしても、やってくれたね。アルシア………。」
「ん?何がだ?」
「リアドール君の事だよ。城を破壊するつもりでやれなんて……。何か意図があってやるって聞いてるけど、何するつもりなんだい?」
フリードがどうしてくれるんだとばかりにジト目を向けながら質問してくるのに対して、俺は昨日の事を説明する事にした。
「フェンリルが気になっている事があるみたいでな。もし俺達の予想通りなら、アリスの悩みもたぶん解決出来ると思う。」
「何をしても杖を壊したり、魔法を暴発させたり、とかの事だよね?」
「知ってたのか?」
そう聞くと、フリードはひどく曖昧な笑みを浮かべながら答えた。
「リアドール君の事は城に住む者達の間でも有名だからね。アダマンタイトとかオリハルコンとか、ドワーフ特注の特殊合金製の杖………、何を使っても壊してしまうっていう話とか、あとはその………、『王立魔法学園のやばい女』って渾名とか…………。」
「……………………。」
「何だそりゃ……………。」
フリードの出したアリスの渾名にディートリヒは視線を泳がせながら沈黙し、俺は俺であまりにも酷い渾名に思わずそんな言葉を漏らす。
「リアドール君の魔法制御が下手くそだからって馬鹿にした上級生がいたらしくてね。その流れで後日、正式に決闘になったらしいんだけど………」
「だけど?」
「結果はその上級生の惨敗。学園のグラウンド諸共吹き飛ばされて、それがトラウマになって実家の部屋に引きこもっちゃったんだって。」
「マジかよ…………。じゃあ、城を壊すつもりでやれっていうのも………」
「やりはしないかもしれないけど、もしかしたら出来ると思う。」
「あー、すまん。フリード………。」
知らなかったとはいえ「城を壊すつもりでやれ。」なんて軽々しく言ったことを詫びるも、フリードは苦笑しながら「まあ、大丈夫だと思うよ。」と返し、フェンリル達に倣って対峙する2人に視線を向けた。
◆◆◆
「まったく………、アルシアはいつも好き放題言うんだから!」
「あの……すみません。ニーズヘッグ様。私の腕試しに付き合っていただいて……」
「あー、いいのいいの。アンタ……アリスちゃんでいいんだっけ。アリスちゃんが気にする必要無いんだから。」
「でも……」と言いかけて、ニーズヘッグ様は私を止めた。
その顔はもう戦う気満々だったのだ。
「アルシアも言ってたけど、私を憎い相手と思って殺すつもりで来なさい。でないと……」
「………でないと?」
「アンタがケガでもしようものなら、本当にフェンリルに殺されるわ!!」
ニーズヘッグ様が涙目でそんな事を本気で仰る物だから、私はついついくすりと笑った。
フェンリルさんはどうしてか私に対して甘いところがあるから、自分も変な事で怪我をして迷惑を掛けないようにしなければ…………。
「……分かりました。その胸、お借りします。ニーズヘッグ様!」
「んー……、アリスちゃん。アタシの事は……まあ、今はいいか。来なさい………って、何やってるの?」
何かを言いかけたニーズヘッグ様が私の両手を見て首を傾げている。
たしかに、私の戦い方は他の人から見たら奇抜なのだろう。
「その、私は戦い方が下手で杖をすぐ壊してしまうので……、いつも複数持ち歩いているんです。」
そう言って、私は両手で一本ずつ持っている杖を2本とも掲げて見せる。
今回は強めの杖と、すぐに使い捨てる杖も多めに用意しているから、たぶん5分くらいは持ち堪えられるのではないだろうか。
いや、相手が高位魔族のニーズヘッグ様では、手加減してくれてるとはいえ、それすら難しいかもしれない。
けど、ニーズヘッグ様はフェンリルさん達に何かを聞かされていたのか私の言葉を首を振って否定した。
「それ、
「え、それはどういう………」
「何でもないわ。さ、まずは一撃、しっかり来なさい。邪悪竜とも呼ばれてるアタシの力……しっかりと見せつけてあげるわ!」
ニーズヘッグ様はそれだけ言うと、まるで戦闘開始とでも言うようにメイスを出して構えたあと、その大きな翼を広げられたのだった。