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第2話「不自然な反応」


「さて……何か言う事はあるか、汝ら?」

「コイツが悪い。」


正座をさせられながら、殆ど同時にお互いを指差したのでニーザとまた睨み合うと、2人揃ってフェンリルにゲンコツをまた落とされたので、俺達はまた仲良く大人しくなる。


「まったく……、1000年ぶりじゃというのに何故ケンカなど始めるのじゃ。」

「年頃の男が入ってる男湯に来る奴も十分悪い………。」

「………何か言ったか?」

「何でもないです。」


いきなり風呂場に入ってきたお前も悪いと文句を言うも、フェンリルが冷たい視線を寄越しながら拳を握り込む音がしっかりと聞こえてきたので慌てて口を噤む。

フリード達、周りの人間が正座してる俺とニーザを見て笑いを堪えてるのをキッと睨むも、ふと視線を感じてそちらの方を見る。

視線の主は何故か顔を赤くしたニーザだった。


「………どうした?」

「…………アルシア、じっとしてなさいよ。」

「ん?なにを………って、うお!?」


「あ…………、」

「ほぉ。」


言い切る前に抱きつかれ、何事かと見下ろすと、ニーザは赤い顔のまま不満そうに呟いた。


「…………アタシには何も言ってくれないの?約束したのに……。」

「あ…………、」


そう言われて思い出す。

仕返しするのが先に来ていて、完全に失念していたのだ。

アリスとフェンリルを筆頭に、全員が興味津々でこちらを見ているのが気になるが、恥ずかしいのを我慢してその身体を抱きしめ返してささやく。


「………悪い。ただいま、ニーザ。」

「…………うん。お帰り、アルシア………。」



『絶対に帰ってくる。』

1000年前に交わした約束を思い返し、俺とニーザは静かに微笑み合った。

アリス達が微笑ましい物を見るような視線で見ているのに気付くのは、その数分後の事だった。




◆◆◆


「それで……ニーザとフレスはこの後、どうするつもりじゃ?」

「どうって……ああ。」


あの後、視線に気付いて大慌てで離れたニーザにフェンリルがそう切り出した。

視線で促されてそちらの方を見たニーザが納得した様に頷く。

言うまでもなくここは人間の領土で、何なら目の前にはこの国の王、フリードリヒ・フォン・カーラーがいるのだ。

護衛の兵士達も――その必要が無いと分かっていても――フリードを守る様に陣容を整えている。

フレスは何も言わないが、フリードの方を見たままだ。


「勿論、帰るわよ。アンタ達がここにいるっていうのが分かったから無理にでも顔を合わせたかったのが本音だし。そういう訳だから、また後でね?」

「その必要は無いぞ。国王陛下が会いたがってみたいだし。そうだろ?」


そう言って、ニーザ達が立ち去ろうとするのを俺は引き止め、フリードに視線を向ける。

するとフリードは既にその気だったらしく、こちらに軽く礼を言ってからニーザ達の下に向かった。


「お初にお目にかかります。妖姫ニーズヘッグ様、斬将フレスベルグ様。ファルゼア王国国王、フリードリヒ・フォン・カーラーと申します。我々は貴女がた御二人に会える事を、心より願っておりました。」

「え、なに?アルシア?人間達の歴史じゃ、アタシ達って悪の存在なんじゃ…………、」

「2人とも、何かあったのか?」


ニーザとフレスは同時にこちらを見た。どういう事だ?と。


「色々あってな。大規模侵攻の真実は全て人間側に伝わってる。だから、お前達の本来の役割もしっかり伝わってるんだ。ここにいるフェンリルお姉様もな。あだっ!?」

「余計な事を言うな。」


「………………………。」


まったく予想してませんでしたと言わんばかりにニーザ達が呆気に取られた表情をする。

それを見て、俺とフェンリルはただただ、おかしくなって吹き出したのだった。




◆◆◆


その後、フリードとニーザ達とは今後の話し合いをする為にと、一度別れた。

フリードの性格を考えれば、間違った歴史によって生まれた高位魔族達への認識に対する謝罪や、ファルゼア王国とグレイブヤードの今後の為に同盟を結んだりと色々とやっておきたいのだろう。


俺とフェンリルは部屋へと戻る道すがら、今後の予定を話し合う事にした。


「まずは、あのアークリッチー達の情報を集めないとな。俺の方でも城内を探ってみたが、フェンリルはどうだ?」


その問いにフェンリルは首を横に振った。


「少なくとも、城内にも町にもいないようじゃ。探るなら、やはり王都の外じゃな。」


俺とフェンリルは庭園からこちらに戻ってくる際、フリードに許可を取ってから使い魔や探知魔法等をフルに使ってまだ魔族がいないかを探ってみたが、その心配は杞憂だったらしく、フェンリル達を除いて魔族のまの字も存在しなかった。

それ自体はいい。少なくとも今回のように魔族の被害が出る事は無いのだから。

視線だけを隣にいるフェンリルに向ける。


「倒したアークリッチーからは何か分かったか?」

「いや、何も。奴は知ってる様な態度を取っていただけで、何も知らなかった。ただの愉快犯だったようじゃな。」


やっぱりか、と嘆息する。

フェンリルはあの時、技を仕掛ける時に相手の思考にも干渉していた。

直接脳から読み取って何も無かったというのなら、奴は城に忍び込んで、ただ趣味で悪さをしていただけなのだろう。

やってる事のショボさから予想はしていたが、やはりそういう方面でも奴から得られる情報はこれ以上は無いようだ。

今度はフェンリルが俺に問う。


「そっちはどうなのじゃ?」

「うーん……。魔力パターンはやっぱりアリスが倒した奴らと、俺が倒したキングトロールと被ってるんだよな……。正直、暴走魔族くらいパターンが目茶苦茶だったなら特徴有って探知魔法でも容易に探せるけど、中途半端に強くなってるせいで、上級から特級の魔族が片っ端から引っ掛かる。」

「割り出した魔力パターンで探知してもか?」

「ああ。……ってか、コレそうなる様に意図的に調整されてるな。」

「意図的、ですか?」


アリスの遠慮がちな質問に「うん。」と頷く。

話に集中していて気付かなかったが、気付けばもう部屋の前に来ていた。

俺は部屋に入ってすぐ、部屋にいる全員に見えるように借りた地図を空中に投射してから、フェンリルが倒したアークリッチーの魔力パターンも書き込んで再検索をすると、該当するポイントが投射された地図に複数検出される。


それをフェンリルやアリス、ディートリヒ、待機していた兵士達や魔導師達を手招きして一緒に眺めていく。


「………便利な魔法ですな。」


場違いだと分かりながらもディートリヒが呟き、アリス達も同意する様に頷いた。


「後で皆に教えるよ。簡単だし、知っていて損のない魔法だからな。それよりも………、」

「多いな。いや、多すぎる。」


フェンリルが該当ポイントを見て呟くので、同意する様に頷く。


「ああ。俺やフェンリル達なら問題なく倒せるってだけで、こんなのが一斉に動き出したら、この時代じゃなくても下手すれば人類が滅ぶレベルだぞ。」

「ふむ、それにじゃ。」

「………ここ、今も変わってないなら反応は魔族じゃない。」


俺は地図上で検出されたある場所を指差してから、そう言った。

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