ファルゼア城、屋上庭園。
色とりどりの花壇に囲まれた噴水広場の前では、白髪の少年と竜の角、翼と尻尾を生やした黒髪の少女が当然の様にケンカをしていた。
「いきなり雷の槍ブチ当てて叩き落とすとか、アンタの親は一体どういう教育をしてるのかしら、アルシア?」
露出の多い服を着た赤眼の少女、ニーズヘッグは口の端を引き攣らせながら、笑顔で問う。
返答次第ではタダでは済まさないぞ、と。
「生憎孤児でな。親の顔を覚えてないんだよ。ただ、そうだな………。少なくとも、知り合いの女性に変な知識を植え付けて、異性の入ってる風呂に入れるような
王国の紋章を剥がした黒と赤の配色の軍服を着た少年、アルシアも同じ様に引き攣った笑顔で返す。
ふざけた真似をしたお前を叩き落として何が悪い、と。
「へえ……アンタはアタシがバカって言いたいんだ?」
「すまない……ソレも分からないバカだとは思わなかった。ちゃんと改めて言おう。ニーザのバーカ。」
普通の人間であれば死を覚悟するような冷たい瞳を見ても、アルシアは平気だと言わんばかりの笑顔でしれっと罵倒して追加の燃料を注いでいく。
そのやり取りを見て「大丈夫なのか?」と青褪めるアリス、フリード、ディートリヒ、そして護衛の兵士達。
それを2人の高位魔族、フェンリルとフレスベルグだけは呆れたように溜め息を吐いて「大丈夫だ。」と頷く。
「………………。」
2人が同時に心からにっこりと微笑んだ。
そして………
「ブッ殺すわ!この白髪チビ!!」
「出来るものか!チビドラ!!」
2人がほぼ同時に取っ組み合ってケンカを始めた。
殆ど、と言うより……本当に子どものケンカだったので、心配していた面々がぽかんと口を開けた。
「チビじゃないですぅ、アンタよりおっきいっての!」
「ヒールで誤魔化してるだけだろうが!俺のが本当はでけえんだよ、セコい真似しやがって……オラ、そのヒール寄越せ!!」
「ちょっ、止めなさいよ変態!女の子に脚に手を伸ばすなんて、変態の所業よ!変態!変態!!」
「女の子なんて年齢か!見た目だけの……いて、止めろバカ!事実だろうが!!」
ギャーギャー言いながら同レベルの喧嘩を続ける2人を見て、アリスはただ一言漏らす。
「えっと、その……子どものケンカみたい、というか……」
「実際、子どものケンカだからな。仮にもファルゼアの統治者の一人なのだから、もう少し威厳を持ってほしいのだが……」
その一言に、ファルゼア大陸の統治者の片割れであるフレスベルグは呆れたように返して、再び大きく溜め息を吐く。
その後、2人は数分はこのケンカを続けるが、このまま続けると城を破壊しかねないと判断した