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第3話「とある者達の会話」


とある場所に存在する執務室。

山積みの書類や本が乱雑に置いてあるデスクの前で銀色の髪の男が煙草を燻らせながら、茶髪の少年に声を掛けた。


「ウィンストン、何処へ行くつもりだ。」

「フィラトルへ行けないか試すんすよ。あそこはまだ生まれて間もない世界だから………、」


少年……、ウィンストンはそう返して執務室を出ようとするも銀髪の青年、イライジャはそれを阻止する。


「駄目だ、行くな。」

「でも…………、ぐっ!?」


反論しようとするも、ウィンストンは顔を顰めながら苦しげに自身の胸を抑えて崩れ落ち、イライジャは溜め息を吐きながら灰皿に煙草を押し付けた後、彼に近付いて支え起こして荒い息を吐く少年の背を擦った。


「言わんこっちゃねえ。」

「………ありがとうございます。」

「これで分かったろ?俺ら全員、神界で奴から植えつけられた死の呪いをようやく外せたんだ。ノルの爺さんが居なけりゃ死んでるような質の悪い、数百年単位の呪いをな。俺らはついさっきまで死にかけてた病み上がりの死にぞこないで、あの戦いでサイラスも死んだ。勝手な真似してこれ以上戦力を削る様な真似は承知しねえぞ。」

「………すんません。」


感情的になりすぎた事を素直に認めウィンストンが謝罪すると、イライジャは「分かりゃあいい。」と短く返し、また新しく煙草に火を着けた。




◆◆◆


「偶然、なんすかね……………。」

「ん?」

「いや、神界での騒ぎと今回……、戯神の死去と3つの世界との接続が切れた。何か関係があるのかな、って…………。」

「………………………。」


イライジャは一瞬黙ったが、すぐに自身の考えを話す。


「じゃねえだろうな。手応えはたしかにあった。だが、あそこにいた全員、しっかりと奴の死亡確認が出来るほど余裕があった訳じゃねえ。配下である72の悪魔の吸収、同化………。殺した神々の力もその身に宿した奴を倒せたのは、ハッキリ言って奇跡に近かった。」

「あと少し遅ければ…………、」

「殺されてたな、全員。サイラスには悪いが、あいつ1人で済んだのは運が良かったくらいだ。」


あっさりと認めたイライジャの言葉にウィンストンは俯く。

彼の言う通り、あの戦いで勝てたのは奇跡に等しかったからだ。

あと数分遅ければ、それだけで結果は変わっていた、と言える程の………、


「一番被害が大きいのは神界でしょうね。神界の半分が破壊されたのもあるし、彼らは俺達と違って死の呪いだけでなく、感情付与の呪いも掛けられた。もう、今までみたいには活動出来ない。」

「そうらしいな。他の報告書も見る限り、死の呪いはともかく、感情付与の呪いはどうやっても外せねえそうだ。今まで、感情を持った神を零落という形で追い出してきた連中がどう動くのか、見ものだな。」


何処か神をバカにする様な言い回しではあったが、ウィンストンは何も言わなかった。

その表情が敵を狩る時の顔、そのものだったからだ。

世界に仇なすのであれば、たとえ神であろうと例外なく屠る。

自分達のリーダー、イライジャはそういう男だ。

イライジャは灰皿に再び煙草を押し付けた後、こちらに向き直る


「つう訳でだ。これから先、嫌でも戦う事になる。動くのは全員、起きてから。こんな状態じゃあ何も出来ねえ。リハビリだったり鍛錬だったりと、必要な事は多い。だから今は……………、」

「ご飯を食べましょう。」

「そう、飯を………………、あ?」

「あら。」


突然の第三者の声に、イライジャとウィンストンは声がした方に顔を向ける。

視線を向けたのはイライジャの隣。

そこには彼の腰より少し高いくらいの身長のローズグレイの長髪の少女が立っていた。

彼女は寝癖のついた頭をこてんと傾げ、不思議そうに見つめ返す。


「………なに?」

「…………母上、いるならいると言ってください。てっきりまだお眠りかと………、」

「じゃあ、今来た。」

「…………おはようございます、母上。」

「おはよう、母さん。」

「うん、おはよう。」


2人の挨拶に満足そうに頷いてから、母と呼ばれた少女……、リタ=エンは微笑み、すぐに眉をへの字にしてイライジャの顔を見つめる。


「イライジャ。母はお腹が空きました。」

「あー、俺も起きたばっかりなんですが…………。」

「ハンバーグ。」

「また地味に面倒な注文を……………、」


子どものような注文をする我らが母に呆れた表情を隠しもせずに向けると、リタはむっとした顔を向ける。

女性陣がいれば間違いなく「母をいじめるな!」と説教を食らうが、その女性陣は全員眠っている。

今に限って言えば問題無いだろう。

しかし、リタは何を思ったのか、イタズラを思いついたような意地の悪い笑みをイライジャに向ける。


「イライジャ。おかーさんはさっきの話を聞きました。」

「……話?ああ、ファルゼアとかの………。それに関しては後程改めて……………、」

「それよりも前。」

「それよりも、前……………」


心当たりがあるらしいイライジャの顔が曇り、リタの微笑みが更に悪い物となる。


「チビって言われた。」

「あー…………、」


言った。確かに言った。

具体的には起きてすぐ。その少し後に起きてきたウィンストンと話している時。

その場にいないのをいい事に、たしかにリタをチビと呼んだ。


「ガキンチョとも。」


それも言った。具体的には「チビでガキンチョだからな。」と。

誤魔化すように視線を逸らすが、たぶん無駄だろう。言い訳の言葉を漏らす。


「いや、それは…………、」

「ぶっ!?」


自分達の中で、誰よりも強い男の腰が引ける様を見てウィンストンは思わず吹き出すも、イライジャに睨まれてすぐにそれを引っ込め、笑って誤魔化した。


「起きたらフェリシア達に………、」

「食べたい量は?」

「お皿山盛り。」

「畏まりました、母上。」


もう完全に自分の負けだとばかりに、イライジャは自身の半分ほどの身長の母に恭しく礼をする。

やはり、子は親に勝てないという事か。

着ていた上着をデスクの上に放り投げ、また吹き出しそうな顔をしている部下ウィンストンに指示を出す事にする。

こうなれば、こいつもこき使ってやろうじゃないか。


「ウィンストン、台所で玉ねぎ手当たり次第剥いて微塵切りにしてこい。」

「一番やりたくない仕事押し付けやがった!?」

「嫌ならお前の晩飯は庭の草だ。」

「理不尽!!」

「るせえ、俺の言葉は母上の言葉だ!つべこべ言わずにやれ!!」

「くそ、俺が末っ子だからって雑用押し付けやがって!!」


ぎゃーぎゃーと騒ぎながら部屋を出るイライジャ達我が子らを、リタは穏やかな微笑みで見送り、久々の食事を楽しむべく席に着いたのだった。

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