「フェンリル達は行っちゃったか………。」
そうボクはひとりごちて、彼女達がいなくなった暗闇を見る。
本当に永い………、永い付き合いだった。
この地が作られた時、最初に
それから暫くして、自分の周りにフェンリル達が現れた。
突然現れた彼女達にボクはポカンとしたし、彼女達もボクを見て驚いた様な顔をしていたのを今も覚えている。
あの時は「どうして自分だけ……」程度にしか思わなかったが、今は違う。
「………だからこそ。」
そう、だからこそだ。
今、この場に於いて、
ソレを別の形に切り離して、どんどんと喪失していくのを感じる。
人の形となったソレが消えていくのを見送ると、入れ替わるように複数の足音が……
彼等はその手に持った武器をこちらに構えて、たぶん、ここではない他の世界ではお決まりであろう決め台詞を並べ立てている。
何かが違うのだとすれば、彼らには他の世界の者が持つような、本当の覚悟が決まっていない事だろう。
だからこそボクは、決して届きはしないだろう忠告を告げる。
「その仮初めの気持ちで、本当に後悔はしないと言えるか?その剣に世界を背負う程の覚悟は、本当にあるのかな?」
◆◆◆
結論から言うと、彼らは止まらなかった。
別に期待をしていた訳でもないし、命が惜しかった訳でもない。
ただ、少しばかり残念だっただけだ。
……彼らの剣は、動揺だらけだった。
本当に残念だった。
こんな覚悟の乗ってない、情けない凶刃に殺されてしまうのが。
普段ならばまったく効くことのないそれらが、身体を斬り裂き、突き刺さり、抉り、身を焦がす。
激痛に苦しむという事すら消え去った私は玉座から放り投げられて地面に仰向けに転がった。
驚くほど血が撒き散らされてるその場を、他人事の様に感じて目を瞑る。
少しだけ面白いと感じたのは、彼らが更に動揺を浮かべていたことだろう。
何故、抵抗も反撃もしないのかと。
口が聞ければ、してはならないからだと答えるところだが、それも出来ない。
本来ならば……この程度で自分が死ぬ事などあり得ない。
私を殺し得るのは、この地上に限って言うならば、同族であるフェンリル達。そして、あの少年だけだ。
徐々に身体がその役割を終えていくのを感じる。
そのまま、色々な思いが浮かんでいく。
フェンリル達には
スルトは、間に合うだろうか……と思った。
最後に、人間のくせにここにひたすら出入りしてた少年を思い出す。
自分の所属など知った事かとばかりに遊びに来ては満足して帰っていく少年。
フェンリル達以外の、私の大切な友人。
無くなったはずなのに、どうしてかまだ感情が僅かだけど戻ってくる。
(悲しまないと………いいなぁ。)
そんな事を思った時だった。
「ロキィっ!!!!!!!!」
遠くからこの場に
すべてを斬り裂くような鋭い、それでいて……
焦っていて……
間に合え!と乞うような……
悲しみをこらえる様な……
そんな暖かい、人の子である友人の声が響いた。
(アル……シア。)
表情を変えることも出来ないから、心の中でくすりと微笑む。
何だ、その声はと。
そんな声、聞いたことすらないぞ、と。
そんな風に誂えば間違いなく頭を引っ叩いて来そうな少年の声が、今は嬉しかった。
ただ、遅かったよ……とも思った……。
君が
スルトに、
間違いなく………、アルシアはここで…この勇者達相手に暴れるんだから、と………
スルトは……間に………あう…だろう、か………
アルシア…………は、
(………怒るだろうなぁ。)