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最終話「撃ち落とされる邪悪竜」


騒動が少し落ち着いてすぐ、フリードは頭を下げて俺達に謝罪をしてきた。


「利用するような真似をしてすまなかったね、2人とも。慎重に探りを入れて彼がライではないのはだいぶ前から分かっていたんだけど、どうも手に負えるような相手ではなくてね。」

「気にするなよ。フェンリルだから難なく倒せたけど、今の王国の戦力だと聞いてる限り、下手に手を出したら王都が滅んでる可能性だってあった。打てる手としてはベストだったと思うぞ。」


アークリッチーの攻撃によって負傷した騎士や魔導師達が運ばれていく光景を眺めて返す。

実際、あのアークリッチーは俺達が眠っていた場所に襲撃してきたキングトロールと同じく、強化された状態だった。

現在のファルゼア城の戦力で総出で挑んでも、恐らくは倒せないだろう。


「そう言ってくれると助かるよ。今回の件はちゃんとに知れ渡ったし。」

「ん?それはどういう…………、」

「ほら、あれ。」


そう言ってフリードは部屋の壁に設置されている、ある魔道具を俺に見せた。

それが何か分かって、俺は苦笑する。

(これは…………、やられたな。)

フリードが見せた魔道具、それは映像投射装置だった。

アレは送信側の装置なので、受信装置は既に各地に設置されているのだろう。

俺の視線を受けて、フリードはイタズラが見つかった子どものように笑った。


「この方がしっかり伝わると思ってね。部下の話だと、かなり良い反応が各地で確認されてるみたいだけど、試しに城下町まで出る?」

「出ない、俺は今日は一歩も外を出ないぞ。」


そう答えると、城下町の方角から「えーーーーー!?」とブーイングが上がったので、置かれてる魔道具目掛けて「うるさいぞ!!」と文句を言うと、今度は笑い声が聞こえきたので、額に手を添えてもう黙る事にした。

そのまま何となくフェンリルの方を見ると、そちらはそちらで面白いことになっている。

無事だった近衛師団や宮廷魔導士、全員がフェンリルを見ていた。

まるで、自国の英雄を見るような視線で。


「……ん?ん?何じゃ?」


マイペースに出された紅茶を茶菓子と一緒に楽しんでるところで視線に気付き、どこか驚いた顔でフェンリルは周りを見た。

すると、先程フェンリルが助けた宮廷魔導師の少女が頰を染めて駆け寄っていく。


「あの!先程はありがとうございました、お姉様!」

「ああ、ケガが無くて良かった………お姉様?」

「はい、お姉様と呼ばせてください!!」

「…………アルシア?」


珍しく困ったような顔でこちらを見てくるのを「自分で何とかしろ」とだけ言って放っておく。

見ると、近衛師団は微笑ましそうに状況を見守っているし、宮廷魔導師の女性陣もあの少女と同じ様な視線に変えていた。

フリードもそれを見て、緩く微笑む。


「あそこまで大立ち回りしてまだ文句を言う輩がいるなら、それこそ僕が直々に黙らせてもいいくらい大成功だよ。そうだろ、皆?」


部屋の中の人間ではなく、魔道具目掛けてフリードが問いかけると、その言葉に応えるように城下町から大きな歓声が上がった。

心なしか外から俺達の名を呼ぶ声が聞こえる気がしたが、きっと気の所為だろう。そうに違いない。


そんな時だった。


扉が凄まじい音を立てて開く。


「大変です、陛下!上空より大型の魔族が来訪されました!!」

「大型の魔族!?…………ん、来訪?」


大型の魔族という事に一度驚いた後、報告に来た兵士の妙な言い回しにフリードは首を傾げた。

俺も同じ反応をする。


「はっ。それが、先程アルシア様、それとフェンリルのあねご………いえ、フェンリル様が仰っていた方達の特徴と一致するので……如何されますか?」


殆ど姐御と言いかけた騎士の言葉を聞いて、フリードは向こうでいつの間にか他の女性魔道士達にも囲まれてあたふたしているフェンリルと俺を交互に見て口を開く。


「城の屋上庭園なら城から出ずに会えるけど、どうする?」

「だ、そうだ。どうする、フェンリルお姉様?」

「分かってるなら早く助けんか、馬鹿者!行くぞ!!」


フェンリルは隙ありとばかりに俺の襟を引っ張って、先行するフリードとアリス、ディートリヒに付いていく。


「お姉様、また後で必ず!」

「行ってらっしゃいませ、アルシア様、フェンリルの姐御!」


などの言葉を貰いながら、俺達はその場を後にした。

もう姐御呼びとお姉様呼びは確定らしいぞ、フェンリル。


◆◆◆



ファルゼア城の庭園に出ると、上空には真っ黒な竜と大きな白い鷲の魔族がいて、こちらを見下ろしていた。

最初に動いたのは白い鷲の魔族だ。

その姿が白い光に包まれ、段々と見慣れた人の姿になって、俺達の前に羽のようにふわりと降りてくる。


「……久しぶりだな、フレス。」

「久しぶりというには、魔族であっても長すぎる時間だ。………1000年ぶりだな。アルシア、フェンリル。」


1000年ぶりの再会に嬉しくなって、3人で握手を交わし合う。

最後に動いたのは黒い竜、ニーザだ。


「フェンリル!アルシア!良かった、無事だったのね!!」


が、奴はあろう事か、その姿のままこちらに飛んでくるので、体内にあるアダムの書を起動して、神力を練りに練ってインドラの雷を槍にして構える。


「あ、アルシア?」

「…………またか。」

「……そうじゃな。」


俺の行動にいつもの光景だと言わんばかりに溜め息を吐くフェンリルとフレスと……、いきなり何をしてるのだと言わんばかりに困惑するフリード達。

そして………


「え?え?何でアルシアの奴、あんな物構えてるの?」


本気で意味が分からないとばかりに混乱しながら尚も飛んでくるニーザ。

そんな彼女に向けて、ただ一言。


「この………っ、バカドラがあぁぁあああっ!!!!」

「いきなり何なのよアンタはあぁぁぁぁああああっ?!!!!!」


風呂場での一件を忘れていない俺の怒りの一撃と、撃ち落とされたニーズヘッグの断末魔によって、伝承の誤解は完全に解けるのであった。




―――――――――――――――――――――


第1部・完



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