こんな話、馬鹿馬鹿しいにも程があるな。」
ある程度話し終えたところで、これまでどこかしらで話に入ってきたライが、心底下らないとでも言うように吐き捨てた。
(始まったな…………。)
俺達は奴に気付かれないようにフリードに目配せをし、彼もそれに頷く。
さすがに露骨過ぎたか?とも思ったが、ライはそれに気付いていないようで、相変わらず冷たい目をこちらに向けたまま、自身の考えを口にした。
「当時の記録を見た。人魔戦争の原因も分かる。しかし、捏造の可能性だってある。あの映像だって、君が都合の良いように作り上げたのではないかね?」
「あの映像には偽装の痕跡は無い。僕だけが言うならともかく、後ろの魔導士団からのお墨付きだ。何でも疑うのは良くないんじゃないかな。」
ライの疑問をフリードは即座に否定した。
だが、ライは怯むこともなく疑いの根拠を並べ立てていく。
「分かりませんぞ。彼らは我々から見て古代人だ。我々では理解できない様な方法で偽装を行うことだって出来ても不思議ではない。」
「そうか………。」
そこでフリードは一度、自身の背後に控える者達に視線を向ける。
彼らはそれを合図と受け取り、表には出しはしないものの、
フリードはもう一度、ライに視線を向け、口元を歪める。
「偽装を行う………、それは
「………何の話しをされているのです?」
「君はライではない、と言っているんだよ。彼の遺体が近くの森林で発見された。死後数ヶ月は経っている。ここに彼がいる筈がないんだ。」
「………………。」
敢えて余裕の笑みを浮かべるフリードに、ライは顔を顰め、僅かに視線を逸らす。
「分かりやすい様に言うよ。
「陛下、私は……………!?」
ライが何かを言い終える前に、フリードは俺が彼の前面に展開した結界に守られ、僅かに遅れてフェンリルの放った氷の槍がライを襲うも、ライはそれで振り上げた片腕で弾いて砕いた。
「陛下、こちらへ!!」
「すまない、皆!」
その間にフリードは配下の騎士によって避難させられ、フェンリルは妖しく微笑んでライに言葉を投げかける。
「ほう、加減してやったとはいえ妾の槍を止めるならともかく、砕くか。とても人間に出来る事ではないな。」
「貴様……………、」
フェンリルの挑発を受けて、ライは忌々しげに呻いた。
加減してるとはいえ、結界で防ぐならともかく、フェンリルの技を素手で防ぐなんていうのは、彼女の言う通り普通の人間では不可能だ。
「人間のふりはまあまあじゃが、偽装魔法は三流以下よな。気配が人間のそれとまるで違うし、血の匂いがきつくて敵わん。ほれ、そろそろそのつまらぬ真似は止めよ、アークリッチー。」
そう言うと、フェンリルはライ目掛けて人差し指を突き出し、つーっと、引っ掻くように下ろす。
すると、ライと名乗っていたモノの纏っていた魔力は霧散した。彼女の指摘通り、姿を現したのはリッチーの上位種、特級魔族のアークリッチーだ。
アークリッチーは偽装をあっさりと剥がされたのが屈辱だったらしく、わなわなと震えている。
「アリス、先生は俺の後ろに。」
「あ、はい。でも、あんなにあっさり………、」
2人を守る為に、俺はフェンリルから少し離れた位置に移動し、驚いているアリスとディートリヒを誘導する。
近くにいたアリスが驚くのも無理はない。
相手の魔法に干渉するには自分で魔法を行使するより技術がいるし、その魔法に込められた魔力をしっかり計算しながら行わなければならない。
それをフェンリルはあっさりと人差し指だけで行ったのだ。
「そこの兵士達よ。此奴に言われて、任務でどこか危険な場所に行かされたりはしておらぬか?」
既にアークリッチーから距離を取って戦闘準備を整えている騎士にフェンリルは問うと、騎士は思い出すように考え始めた。
「……ありました。大臣から頼まれた任務で、想定以上の被害が出る任務など……、」
「じわじわと痛ぶって、お主らが苦しむのを見て愉しんでいたのじゃろう。悪趣味よな。」
そう言ってフェンリルはソファーに座ったまま、玉座に座る女帝の様に、その笑みを冷たい物に変えた。