部屋はしん、と静まり返った。
伝承に聞く恐ろしい魔族とかけ離れた姿を映像とはいえ、見てしまったのだから………。
重い空気の中、フリードが唯一口を開いた。
「……それで、アルシア。彼は……」
「話を聞いた俺が慌てて辿り着いた時には、もう事切れていたよ。」
あの日、アルバートの使いの者に教えてもらって大慌てで玉座の間に辿り着いた時には、マグジール達の手により、抵抗した様子もなく息を引き取っていた。
「死んだスルトが言ってたぞ。あやつが駆けつけるのがあと一歩遅ければ、あの場にいたマグジール達を汝が殺していたと。」
「本当に惜しかったよ。スルトが来る前に、さっさと息の根を止めるべきだった。」
悪びれもなく言い放つと、場の空気が凍りつく。俺が昨日のフェンリルと同じかそれ以上の殺気を纏っていたからだろう。
実際、今思い出しても腸が煮えくり返って仕方ない。
「……慕っていたんだね、彼を。」
「うちの王様と取り替えてほしいと本気で思ってたからな。」
「……それでは、彼が言っていた世界を滅ぼす気は無いというのは……。」
ディートリヒが遠慮がちに聞いてくるので、答えようと口を開きかけて、フェンリルに手で制された。
代わりに話すという事だろう。
「それがあの事件、大規模侵攻の事じゃ。現在はグレイブヤードの管理者権限はフレスベルグとニーズヘッグに移っておるが、当時の魔族の全てはロキの力を核としていた。あやつの力が無くなり、核を喪った魔族は理性を失い暴走する。暴走した魔族は別に人間だけを狙ったわけではない。理性を喪った結果、視界に入るものは何でも殺して回っていた。それが例え同胞であろうとな。」
大規模侵攻で魔族が人を襲った理由を知り、ディートリヒとフリード、アリスとその他数名が納得した顔をする。
話だけならば信じないだろうが、先程の映像まであるのだ。疑いの余地などない。
しかし1人だけ、俺達の話に納得できない輩がいるようだ。
「こんな話、馬鹿馬鹿しいにも程があるな。」