「アルシア、そちらの条件はそれだけでいいかい?」
「ああ、問題ない。俺はともかく、フェンリル達の事も…、と言いたいが、言うまでもないんだろ?」
「当たり前さ。約束を違えるような真似はしないさ。ここまで人を集めておいて、ね?」
フリードはそう言いながら背後に控える者達を見て微笑み、彼らも全員、それに頷いた。
恐らく、今回話す内容を記録して纏めた後に公表するのだろう。
「なら、問題ないよ。あいつらと会うのはこっちに任せてくれ。」
「ありがとう。じゃあ、まずは現代に於いて、君達が、そして大規模侵攻がどう語られているかを話そうか。そうすれば、アルシア達も何処から話せばいいか分かりやすいだろうからね。ライ、説明してあげてくれるかな?」
「畏まりました、陛下。」
フリードにそう指示され、ライと呼ばれた男………、身なりからして恐らくは大臣だろう男が予め用意していたであろう資料に視線を落とし、その内容を読み上げていく。
「2000年前の人魔戦争、当時で言うところの大規模侵攻……、その時のファルゼア国王ヴォルフラム・ゴーランが勇者マグジール・ブレントとその仲間に魔王討伐を命じ、マグジール一行は見事魔王を倒した。」
アリスに聞いた物と同じ内容がライ大臣の口から紡がれる。
そこまでは正しい。
色々な要因が重なって一人になってしまった彼を、ヴォルフラムに命じられたマグジール達が襲撃し、殺害したのだ。
ライはその続きを読み上げていく。
「その結果、魔族は仇討ちの為に総力を挙げて人類に戦いを挑んだ……。これが、我々の時代で言うところの人魔戦争、諸君らが語るところの大規模侵攻という訳だ。戦いが激化していく中、魔界の奥底から破壊神、アルシア・ラグドが覚醒。斬翼のフレスベルグ、邪悪竜ニーズヘッグ、そして、ここにいる魔狼フェンリルを引き連れてマグジールに挑み、激闘の末、勇者マグジールが勝利。人類の7割という大き過ぎる犠牲を払いながらも、人魔戦争は終結した。」
「随分、好き勝手語ってくれたもんだな、ヴォルフラムの野郎も。」
「まったくじゃな。魔狼という名も別に間違いではないが、こうも悪用されては不快という他無いわ。」
元の話に尾ひれ背びれが付いてこんな話になった可能性もあるだろうが、ヴォルフラムがやったと考えれば初めからこの話だった可能性の方が高い。
一仕切り語り終えたライは、片目を細め、疑う様な俺達に向けてくる。
「陛下のお身体を治し浮かれているようだが、本当はこの伝承通りではないのかね?陛下がお持ちのあの紙も本も、君達が疑いの目から逃げる為に用意したのではないかな?」
「………………………。」
「……まあ、疑われても仕方ないな。」
露骨な疑いをかけられ、フェンリルは黙り、俺は疑われて当然とばかりに肩を竦める。
反応は違うが、2人して共通している事と言えば、笑っている事だろう。
特にフェンリルは俺より愉快そうに微笑んでいる。
だが、その態度が気に入らなかったのか、ライは不愉快そうな顔で俺とフェンリルを睨む。
「……何だね、その顔は?」
「いや、別に。」
「ふん、破壊神などと呼ばれた化石ふぜ………………、」
「ライ、僕は彼らに現在伝わっている伝承を伝えてくれ、と言ったはずだ。喧嘩を売れと言った覚えはない。」
「しかし、陛下。」
「くどいぞ。君に頼んだ僕がバカだった。後は僕が話すから君は下がれ。」
「………っ、承知しました。」
度を超えた発言をしようとする自らの部下に露骨に嫌悪感と、僅かに怒りを見せながらフリードは冷たく命令をし、ライは歯噛みをしながら下がる。
「………すまなかったね、2人とも。ここからは僕が話す。非礼を詫びよう。」
そう言って頭を下げるフリードの顔を見て、俺とフェンリルは2人、納得した様に頷く。
彼の顔もまた、笑っていたからだ。
何となく周りを見渡すと、アリスとライを除いた全員が気付かれないように微かに頷いていた。
それを見て、俺は意図を理解する。
(なるほどな…………。)
「いや、平気だよ。それに、大臣様が言うように、俺が破壊神と言われるのは、ある意味間違ってないからな……。」
「………?それはどういう………、」
「気にしないでくれ。取り敢えず、今は。」
不思議そうな顔をするフリードを、俺は手で制して誤魔化す。
その意味が分かるフェンリルだけはジト目で俺を見ていたが…………
フリードは相変わらず不思議そうな顔をしていたが、それを引っ込めて、ライの話した内容の続きを話した。
「さて、ここからは僕が引き継ごう。ここまでが僕たちが、そしてファルゼア大陸に存在する人類が知る人魔戦争の伝承だ。そしてここからは、僕と父、先代国王が神の刻印で見ることが出来た一部と、1000年前の宰相、ニコライ・レーヴィットと王国騎士団長、アルバート・ミューラーの遺した手記の話だ。端的に言えば、それは全くの嘘だった。勇者は魔王…………、いや、ファルゼア大陸の統治者、戯神ロキを殺害したものの、その後の大規模侵攻では何もしていない。溢れ出した様子のおかしい魔族を倒し、終結に導いたのはその2人と最前線で戦い抜いた王国軍と義勇軍、そして………」
フリードは緩く微笑みながら、コチラを見る。
「ここにいる災い起こしのアルシア・ラグド。そして、戯神の補佐である『賢将・フェンリル』、『斬将・フレスベルグ』、『妖姫・ニーズヘッグ』だ。彼らが居たからこそ、今の世界がある。」
それを聞いて俺とフェンリルは驚く。
「……その二つ名、知ってるのか。俺だけじゃなく、フェンリル達のも。」
驚いたまま言うと、フリードは悪戯が見つかった子どものように笑った。
「ここまでが、僕達が知っている話だよ。その上で教えてほしいんだ。君達の口から、直接ね。」