俺は久々なんて言葉じゃ足りない程、本当に久しぶりに湯船に浸かっていた。
封印の間は自身に時間停止なども掛けていたし、大規模侵攻中は事あるごとに帰り血塗れになってたいた為、魔法で服や身体などの状態もキレイにしていたとはいえ、やはりこうやって入浴はしたい。
駄目元でフリードに言ってみたところ、そもそも泊まってもらうつもりだったと、凄まじく大きな大浴場を貸し切りで使わせてもらっているのだ。
身体を洗って浴槽にざばり、と身体を沈める。
お湯の熱さが全身を刺激して、思わず気持ち良さで声が漏れた。
「………はーーー、魔法でどうにかなるとはいえ、しっかり身体を綺麗にして、休むとなるとやっぱり風呂に限る。」
しかも、豪勢な食事まで出してもらったのだ。
さすがにここまでは…と思ったのだが、フリードはにこりと笑って
「君達はボクの恩人で友人なんだから、これくらいは遠慮せずどんどん食べてくれ。」
と言ってくれたので、本当に感謝するしかない。
ヴォルフラムに爪の垢でも飲ませて講習でも受けさせてやりたいくらいだ。
「こうやって足を伸ばして身体を休められて、挙げ句の果てにはふかふかのベッドで眠れるとか……封印から目覚めてすぐコレだと、贅沢になりそうで怖くなるな。」
「そうじゃな。ちゃんとギルドに登錄なり何なりして、食い扶持を稼がねばならぬ。これから先、活動する為の拠点も探さねばならぬしの?」
「ああ、まったく……………だ?」
(…………………ぇ?)
本来、聞こえるはずの無い声が横から聞こえ、きりきり音でも聞こえそうな首の動きで声がした方を見る。
やはりと言うか、何というか、そこにはフェンリルがいた。
「な、何でいるんだよ!?」
「妾も風呂に入りに来たのだ。」
「そうじゃねえ!服を着ろ!!」
「………風呂の時は脱ぐものじゃろうに?」
「ああ、たしかに、それはそう………って、そうじゃなく!!」
顔面がルビーの様に真っ赤になるのを感じながら身体ごとフェンリルから目を背ける。
脚のみを浴槽に入れたフェンリルは当然だが全裸だったのだ。
「何じゃ。普段はムチムチスケベボディだの好き放題言うくせに、実際見ると顔を背けるとは、情けないのう……。」
「1000年眠ってても中身も見た目も男の子なんだよ!?アリスとそう歳だって変わらんし!」
後ろから聞こえる音から察するに、フェンリルは隠すことなく、その整った身体をこちらに向けて話しかけてきてるらしい。
「減るものでもあるまい?」
「減るよ!俺の理性が!?」
「…………ふふ。災い起こしとも呼ばれてる男が情けないのう?」
「――――――!?」
完全にからかって遊ぶ声のトーンで、全裸のまま俺に抱きついてきた。背中で柔らかい物がぐにゃりと潰れるのを感じて声にならない悲鳴が漏れる。
「ふ、フェンリル………何で女湯に行かなったんだよ……っ」
「んー?別に短い付き合いでも無いし、良いではないか?」
「は・な・れ・ろ!!」
「何故じゃ?ニーザが言っておったぞ、こうするとアルシアは喜ぶと。」
「あのクソガキがっ!今度会ったら丸焼きにしてやるっ!!」
意地の悪い邪悪な笑みを浮かべてるだろうニーザの顔が思い浮かぶ。
出会い頭にインドラの雷でも落としてやると誓いながら、フェンリルを剥がそうと暴れるも離れない。寧ろ、当たってはいけないものが背中で形を変えるだけでかえって逆効果だ。
「いいから離れろ、スケベオオカミ!」
「この程度で動揺するとは、汝もやはりお子ちゃまじゃな?」
相手がフェンリルだという事もあり、下手に出ていたが、今の言葉でカチンと来て、自分も浴槽に入ってるのも構わず雷の魔眼を起動する。
魔力を使ってるのに気付いたのだろう。
フェンリルの動きが少しだけ止まった。
「あ、アルシア?」
「……離れろって言ってんだ、淫乱オオカミがぁっ!!」
「ま、待て!風呂場でそんな物使えば汝も感で………んにゃあぁぁぁぁあああああ!!?」
俺の怒号とフェンリルの狼なのに猫のような悲鳴が響き渡ったのは、ほぼ同時だった。