フリードリヒ陛下に来賓室へと案内され、俺達は3人でソファーに座る。
1000年ぶりに座るソファーの感触を密かに楽しんでいると、フリードリヒ陛下は正面の席へと座った。
「食事なんかも用意しようと思うけれども、今出させようか?」
「お気持ちはありがたいが、フリードリヒ陛下。俺達に用があるのだろう?なら、それを優先してくれて構わない。」
「そうか……。なら、話を先にしよう。それと、僕の事はフリードと呼んで欲しい。……堅苦しいのは苦手でね。」
先程とは打って変わってフランクな感じでお願いされたので、俺は頷いた。
「分かった。では、フリードと。俺の事もアルシアでいい。フェンリルは……」
「ならば妾もそう呼ばせてもらおうかの。妾にも堅苦しい態度などいらぬ。呼びやすいように呼ぶがよい。」
「……お心遣い、感謝するよ。アルシア、フェンリル。じゃあ、話なんだけれど……」
そう言いかけて、部屋の入口にいた兵士が歩み寄る。
「陛下、お客様です。」
「ありがとう。通してくれ。」
その言葉を聞いた兵士が入口に戻り、扉を開くと、モノクルを付けた初老の男性が兵士に案内されてこちらにやってきた。
「フリード。招いてくれてありがとう。」
「久しぶりだね、ディートリヒ。いきなり呼び出してすまないね。」
2人のやり取りを見て、俺の反対側にいたアリスが立ち上がった。
「……ディートリヒ先生。どうして、此処に………。」
「アリス!話は聞いているよ、無事でよかった……。お二人とも、本当にありがとうございます。」
ディートリヒと呼ばれた初老の男性がこちらに頭を下げてきたので、状況が飲め込めない俺達はアリスに誰なのか聞こうとすると、フリードが答える。
「彼はディートリヒ・ファルク。ファルゼア王立魔法学園で先生をやっていてね。リアドールくんの担任であり、僕の友人でもあり……協力者でもある。」
「協力者……ですか?」
アリスの言葉に、2人は静かに頷いた。
「そう、我々の言うところの人魔戦争、アルシア達の言うところの大規模侵攻……。それを調べる為の協力者なんだ、ディートリヒは。」
「大規模侵攻という辺り……いくらか知ってるんだな、2人は。」
その言葉に、今度はディートリヒが頷く。
「全てを知ってる訳ではありません。と、言うよりも知っているのは彼、フリードとそのお父君、先代国王なのです。」
「先代国王……」と呟くと、フリードは悲しげな顔をして頷く。
「父は、1000年前の光景を見たんだ。その代償として亡くなった。」
「……フリード。お主の父は
今の短いやり取りだけで察したフェンリルの問いに、フリードは泣くのを堪えるような顔で頷いた。
「なるほどな。だから妾達を英雄と呼んだ訳か……。」
「あの、フェンリルさん。神の刻印って……」
「その名の通り、神が刻んだ刻印じゃ。三界条約に於いて、個人ではなく……、ファルゼア王国の歴代国王に与えられる一度限りの奇跡。人では不可能な事ですら現実とする……それが神の刻印じゃ。」
「代償はあるがな。」と、フェンリルはフリードに視線を戻す。
「お察しの通り、父は神の刻印を使って亡くなったんだ……。大規模侵攻の真実を知る為に。」
フリードは当時の事を思い出すように、遠くを見た。