「どうか、その辺にしていただけませんか?大規模侵攻の英雄、フェンリル様。」」
警備隊リーダーの背後から、落ち着いた声が響き渡り、身体の半分を氷漬けにされた者達が驚いて振り返る。
「陛下!?」
そう呼ばれた赤髪の少年は彼らを無視して、俺達の前に立った。
どうやら彼が現代のファルゼアの王らしい。
真意は分からないが、少なくとも俺達に敵対するつもりは無いようだ。
「もういいだろ、フェンリル?」
俺は指をぱちん、と鳴らして、周囲の氷を打ち消す。
フェンリルももうその気は無いのだろう。瞳の色を元に戻し、殺気と魔力を引っ込めた。
先程まで周囲を覆っていた雨雲も何事も無かったかのように霧散していく。
「あの……、フェンリルさん。」
「……怖かったか?」
「少しだけ。でも……カッコよかったです。」
「そうか。ありがとうな、アリス。」
フェンリルは敵対していた者達にもう興味はないとばかりにアリスに目を向け、その身体を抱きしめなおした。
デカいわんこだな……と思ったが、俺が口にすれば殺されそうなので口にしないでおく。
暫くすると、自由になった警備隊の面々が陛下と呼ばれた男の背後で綺麗に整列して平伏した。
「ありがとうございます、陛下。命を救っていただいたこの恩、必ずや――――!?」
「――――黙れ。」
赤髪の少年はそれだけ言って、重力魔法、グラビティ・バインドを発動して警備隊を地面に縫い付けた。
「僕がお前達、城で働く者達全員に何と言ったのか忘れたのか?」
「へ、陛下……!」
「僕はどれだけ可能性が低かろうと、
「ぐ……、ですがっ。」
重力が更に重くなる。
「挙げ句の果てには、僕の大事な国民を勝手に死罪にすると…?」
「――――――っ。」
「そこまでにしてやってくれ。」
さすがに可哀想に思い、赤髪の少年の魔法に干渉して打ち消す。このままでは話も進まないし。
先程のフェンリルの氷を打ち消したり、重力魔法に干渉したりで庇っている俺を、警備隊がどういう事だ?と困惑しながらも眺めて起き上がる。
赤髪の少年は一度こちらに向き直り、膝をついて俺達に礼をした。
その行為に驚いた警備隊だったが、次はないと察してか同じ様に膝をついて礼をする。
「度重なる無礼をどうかお許しください。大規模侵攻の英雄アルシア様。魔界……いえ、地界グレイブヤードの管理者の一人、フェンリル様。それと……」
赤髪の少年はフェンリルに抱かれたまま状況を伺うアリスに目を向け、両膝までついて謝罪した。
「部下が大変失礼な真似をした。本当に申し訳ない、アリス・リアドールくん。」
「え、私の事を知ってるんですか……?」
「勿論。
赤髪の少年は再び体勢を直して、礼をする。
「お初にお目にかかります。ファルゼア王国、現国王フリードリヒ・フォン・カーラーと申します。私は皆様とお会いできる日を心よりお待ち申し上げておりました。どうか、我が城にお越しいただけますでしょうか?」