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第19話「絶対零度の銀狼」


アリスを先に送り出し、城の門をくぐり抜けて城下町に入った直後、問題ははすぐに発生した。

けたたましい警報音が街中に響き渡り、付近の住民が騒然としだす。


「アルシア。」

「………ああ、予想してたが、やっぱりか。」


これは特定の魔力パターンだけに反応する警報魔法だ。

発生源を感知魔法で探っていくと、城ではなく俺達の前方、大通りにある石像からだ。

石像は1000年前の知人であるマグジールをモデルとしており、それを見て俺は少しだけげんなりした顔をする。

(悪趣味な…………)

更に感知魔法の魔力パターンを解析していき、その正体に気付いて自然と苛立ちが込み上がる。


(あの野郎………、やっぱり侵攻が終わった後に殺すべきだったか?)


今から止めたところで意味など無いし、警備隊が現れたのでもう手遅れだろう。

あっと言う間に囲まれた。


「まさか……本当に実在したというのか?」

「そこを動くな、伝説の破壊神とその眷属よ。我等の命に代えても、貴様らの魔の手から、王と民達を……この国を守る義務がある!」


大した覚悟だ……と感心する。

全員、力の差を理解しているらしく、程度の差こそあれ、その怯えを隠せないでいる。

まあ、俺らにはまったく以て彼らと戦う気も無いし、ここに住む人達にも害をなす気がないというところを彼らは理解していないのが困りどこだが。

アリスを先に返して正解だった。

そう思った時だ。俺は少しだけ後悔をした。

あの保身に於いては右に出る者などいないあの国王が、そこまでするとは思っていなかった事に。


「隊長、探していた魔力反応の少女を見つけました!」

「よし、連れてこい!」


囲んでいた兵士の壁の一部分が割れ、後ろ手に縛られ、見知った少女が俺達の前にその背を押し出される。


「アリス!何故!?」

「フェンリルさん、アルシアさん!分かりません、いきなり兵士の方が来られて、こんな事に……」


フェンリルはアリスの手を縛っている縄を爪で切り裂いて自由にさせる。

それを見て一言。


「あのバカの仕業だよ……。」

「………ヴォルフラムか!」

「ヴォルフラムって、あの……?」

「ああ。俺らがいた時代の国王だ。奴は俺らが生きていた時の事を考えて、ご丁寧に警報システムを組んでたらしい。それも、俺らに関わった者にまで反応するようにな。」

「あやつめ…………!」


ギリッとフェンリルが歯を食い縛って怒りを露わにする。

この場にヤツがいれば、フェンリルは確実にアイツを消すだろう圧を放っていた。

俺はアリスだけでもと思い、取り囲んでいる者達に語りかける。


「待て!取り敢えず、こいつは何の関係もない。家に帰してやってくれないか。俺達はこの子に道案内をお願いしただけだ。」


合わせろ、と目線で合図をすると、察してくれたアリスが少しだけ頷く。

しかし……


「ならん。その娘は、あろう事か伝説の破壊神と眷属を招いた大罪人と呼ぶに等しい。貴様らと同じく、ここで………!」


(馬鹿が………)

俺は内心で溜め息を吐く。

彼らの言い分は分かる。立場的にもそうしなければならないのは。

しかし、それはあまりにも短絡的で、この場でそれを行うのは悪手以外の何物でもない。

現に………


………?」

「――――――――っ!?」


冷気のように冷たい魔力の圧と、この場にいる全ての者を押し潰さんがばかりの殺気が辺りを支配する。

言うまでもなく、俺の隣にいるフェンリルの物だ。

フェンリルはアリスを守るように抱きしめながら、美しい青い瞳を、ただただ冷たい言葉を放つ。


「この娘を殺すか?たしかにこの子は妾達をここまで連れてきた。素性も禄に知らぬ我らを善意でな。それを、ただここに連れてきただけで殺すと?」

「ひぃっ!?」


魔力の圧が実際の冷気となって、鋭い刃を地面から、壁から、自身の周囲から次々と生み出していく。


「それならば、それは妾に対する明確な宣戦布告と取ってよいな?」

「い、いや……だが……ぁぁっ!」


部隊長と思しき男の武器を持った手が腕ごと凍りつく。

フェンリルの怒りは静まるどころか、天候まで変えて硬い雹まで降らし始めた。


「案ずるな、人間よ。妾は無闇に人を殺さん。。100度の死ですら生温い苦痛と絶望をその身に植え付けてやろうぞ。」

「ぁ、ぁぁ…………っ」


最早、戦う意思など持てないとばかりに警備隊が武器を落として後ずさる。

しかし、フェンリルの白銀の髪が空にはためく程の冷気が地面から沸き立つと、逃さないとばかりに警備隊全員の身体を足元から凍りつかせていく。


「や、やめてくれ!!」

「ひ、ぃ、いやだぁっ!?」


(これはアリスも連れて何処かに逃げなきゃまずいか………?)

俺が最悪の事態を想定し、警備隊の悲鳴が町中に響いた、その時だ。


「どうか、その辺にしていただけませんか?。」


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